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遂にバブル弾けた?ネットフリックスの相次ぐ打ち切りが引き金?

(2017年7月12日)

ここ数年、脚本を基に制作されるドラマとコメディーの本数がウナギ登りを続けてきました。毎年、夏のプレスツアーで秋の新作本数に注目してきましたが、特に2016年9月13日に公開した「バブル弾けず2016~17年シーズンに突入。新作の傾向は?」で説明した通り、我々評論家はFX局のジョン・ランドグラフCEOの考察に耳を傾けてきました。「2015か16年にピークに達し、本数が減少するであろう」と予測したランドグラフCEOは、16年8月9日のプレゼンで1年前の「予想が外れました。バブルは2018~19年まで、膨らみ続けるような勢いです」と発表しました。


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2013年以降のドラマとコメディーの急増振りが明らかに読み取れるグラフ。ピークは15か16年と予想されていたが、バブルは弾けることなく、16~17年シーズンに突入した。Courtesy of FX Networks Research

ところが、今年に入って、供給過剰状態「ピークTV」に異変が起こり、確実にバブル崩壊に向かっている現象が次々と起こりました。先ず、ケーブル局A&Eが5年前にオリジナル作品として打ち出した「ベイツ・モーテル」を最後に、オリジナルドラマ制作を放棄。A&E局は、「Those Who Kill」(米国版)「ザ・リターン」「アンフォゲッタブル 完全記憶捜査」のオリジナルドラマで散々な目に遭ったにも関わらず、意欲作「ベイツ・モーテル」で挽回できると思っていたようですが、視聴率の低迷に諦めざるを得なくなりました。


次に、オリジナルドラマを放棄したのは、「Salem」「Manhattan」で少々名を挙げたWGN America局です。ドラマ「Underground」と「Outsiders」(米国版)を打ち切り、「予算や人材はドラマ以外の分野に移行する」と親会社トリビューン・メディア社のピーター・カーンCEOが発表しました。


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2014年8月5日公開の「原爆作りに携わった人たちのドラマ」で紹介した「Manhattan」は、日本人としては観るに堪えない作品だった。シーズン2更新の発表に、誰が観ているのだろう?と疑問に思ったが、結局は2で打ち切りとなり、納得!しかし、オリジナルドラマで視聴者獲得が如何に至難の技であるかを学習したWGN America局は、ドラマ制作を全て放棄した。Courtesy of WGN America

そして、オリジナル作品を配信開始する毎に、視聴者数を飽くまでも公開拒否しつつ「前代未聞の大ヒット」と自画自賛してテレビ業界の顰蹙(ひんしゅく)を買ったネットフリックス社が、「センス8」と「ゲットダウン」を打ち切った時点で、ランドグラフCEOの予想より1年早く、バブルが弾けました。


もっとも、ネットフリックス社がオリジナルドラマを打ち切ったのは、初めてのことではありません。古くは「リリーハマー」「ヘムロック・グローヴ」「マルコ・ポーロ」「ブラッドライン」(6月29日「『ブラッドライン』結末に不平不満殺到。時期尚早の打ち切りの所為?....」を参照して下さい)などがキャンセルの憂き目に会っています。「ゲットダウン」が特に注目を浴びているのは、シーズン1配信のみで継続しないと、地上波局並みの決定を下したからです。


’下手な鉄砲も数打てば当たる’と言わんばかりに、懐の暖かさを笠に着て、プレミアケーブルHBOに追い付け、追い越せ!と新作を超高値で買い漁ってきたネットフリックス社も、供給過剰には勝てない、視聴者を維持できない事実を不本意ながら認めたような決断です。


「センス8」と「ゲットダウン」が何故打ち切りの憂き目に会ったかに関しては、多数のコメントがメディアを賑わせているので、私は心身ともに投資してきた「ブラッドライン」が打ち切られた理由を探ってみました。


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2015年、鳴り物入りで登場した「ブラッドライン」。シーズン2のプレミア前にネットフリックス社の力の入れようが大きく変貌したことは明白だった。作っておいて、宣伝や広報無しで、如何に生き残って行くのだろう?と思っていた矢先に、シーズン3更新が発表され、続いて打ち切り、逸話数削減など、まるでジェットコースターに乗っているような体験となった。Courtesy of Netflix


先ず、業界で’ピカイチ’ドラマとして価値を認められなかったこと、ネットフリックス社オリジナルの中では、地味でシリアスなドラマなので、「ハウス・オブ・カード」や「アンブレイカブル・キミー・シュミット」ほど視聴者を集めなかったことです。視聴者数をテコでも発表しないネットフリックスとしては、説得力ゼロの言い訳です。更に、派手さで勝負!のソーシャル・メディアで話題にならなかったことも、視聴者を獲得できなかった理由として挙げられています。従来のメディアを大手メディアのみに絞り込み、インタビューを許可しなかったシーズン2以降のマーケティングに大いに難あり!と、私は口を酸っぱくして何度も訴えてきました。


しかし、最大の理由は、採算が合わなくなったことでしょう。フロリダ州で映像制作する会社に税優遇措置が適用され、「ブラッドライン」はシーズン2までその恩恵に浴していました。シーズン3制作開始前に同支援制度が完了してしまい、制作費が高騰してしまったのです。クリエイターが希望する5~6シーズンなどとんでもない!赤字が出ることは明白と判断して、打ち切り!となってしまったに違いありません。


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フロリダ州キーウェストのイスラモラダ村を舞台にレイバーン一族の愛憎劇が繰り広げられた「ブラッドライン」。シーズン3の撮影開始前に、税優遇措置が期限切れとなったことが運の尽き?信憑性を追求する余り、打ち切りの憂き目に会った可能性は高い。税優遇措置が再開されたLAに舞台を移せば、もう少し引き伸ばせた?Rod Millington/Netflix


更に、ネットフリックス社独占の’オリジナルドラマ’のレッテルを維持して行くには、制作会社(ソニー・ピクチャーズ・テレビジョン)に制作費全額+プレミアを支払わなければなりません。再放送権を他局に販売されないように、儲けが出ようが出まいが、プレミアを前払いするシステムになっているからです。「ブラッドライン」は、一話につき700~850万ドルかかった計算になると業界紙は報道しています。要するに、3シーズン33話に2億5千万ドルを費やしたものの、「ストレンジャー・シングス 未知の世界」や「マスター・オブ・ゼロ」程話題にもならず、同社が期待したほど成果が上がらなかったと言うことです。


長い目で見れば、今後何十年もかけて初期投資を回収すれば良いので、無駄骨を折った訳ではありません。要は、フロリダ州の支援制度の期限切れに端を発したタイミングの悪さが災いして打ち切りとなったと考えられます。2013~15年の拡張・拡大時期なら、ネットフリックス社も我慢の子を維持できたかもしれませんが、16年第二四半期の新規加入者は170万人と15年同期から半減し、これまでの気負いに翳りが差し始めました。それでも、同社CEOリード・ヘイスティングスは、「ヒット作を生み出すには、打ち切りを躊躇せず、リスクを負うこと!」と息巻いています。負け惜しみに聞こえるんですが....


バブルが弾けて、やっと観なければならない本数が減る!と喜んだのも束の間、待ってました!とばかりに、Appleがテレビ業界(オリジナルコンテンツ制作)参入に本腰を入れました。打ち切り率を上げると息巻いているネットフリックス社の後釜に座り、「シールド」や「ブレイキング・バッド」級のシリーズを買い漁るぞ!と手ぐすねを引いています。「本年末には、脚本のあるオリジナル番組を提供する予定」と発表しましたが、ネットTVで流してケーブル局に対抗する元々のコンセプトを廃棄し、Apple Musicで配信するようです。但し、話はコロコロ変わるので、6月16日にソニー・ピクチャーズ・テレビジョンから引き抜いた幹部ザック・ヴァン・アンバーグとジェイミー・アーリクトが率いる番組制作部門の動きを見守って行くしかありません。ネットフリックスの過去3年の体験から学ぶことは山とある筈ですが、何しろ「人のふり見て我がふり直せ」が通用しないエンタメ業界です。一旦、弾けたバブルに、新たな息を吹き込む立役者がAppleなのかもしれません。戦国時代はまだまだ続く気配です。


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