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2016年ベストムービーに選出! 無表情でうだつの上がらない『トッド・ソロンズの子犬物語』

2017年1月11日
(C)2015WHIFFLE BALLER,LLC.ALL RIGHTS RESERVED.
長編デビュー作映画『ウェルカム・ドールハウス』(1995)から人間の暗部や滓(おり)を、冷笑を交えてしつこく描き続けてきた映画作家トッド・ソロンズ監督が戻ってきた。持ち味を活かしきれず、ステレオタイプのお涙頂戴ドラマに没してしまった前作『ダークホース ~リア獣エイブの恋~』(2011)から一転、得意の毒を大量に盛り込んだ新作『トッド・ソロンズの子犬物語』は“アメリカインディペンデント界の異端児”の名に恥じぬ、注目作ならぬ“中毒作”になった。

1匹のダックスフントを中心に、それを飼うワケあり人間たちの、もの悲しくも特にこれといって現状打破も問題解決もしない、ただただダウナーな4つのエピソードが綴られる。小児がん闘病中のピュアな少年、ちんけなヤク中男に恋する干物系女子、売れない独身初老脚本家、低能孫娘に金をせびられる隠居老婆など、ダックスフントは癖のある人間模様と人間が年老いて死に至るまでの過程を目の当たりにする。

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これまでのソロンズ監督作の例にもれず、登場人物は基本的に無表情。ときに怒ったり、泣いたり、口をへの字に曲げることはあるものの、幸せそうな笑みはほとんどない。たとえ笑ったとしてもそこからは疲弊が滲む。登場人物たちは感情を排した表情からスタートし、うだつの上がらない出口なき日常を光のない目で見つめる。

キャラ設定と状況だけでも十分にシリアスな環境は整っており、描き方次第では社会派やポジティブな物語に変質可能だが、ソロンズ監督はコメディを選択する。それもブラックコメディという言葉で想像する笑いとは少し違う、ひねくれた可笑しさ。厳かな雰囲気の場でついつい吹き出してしまいそうになる感覚に似ている。それは一度ハマると抜け出せない中毒性の高い笑いだから厄介だ。

役者もエレン・バースティン、ジュリー・デルピー、ダニー・デヴィートとツウ揃い。役者自身のポテンシャルもあるかもしれないが、ソロンズ監督は役者たちのパブリックイメージを軽々と壊したり、俳優たちが本来持っている力以上のものを引き出す技にもたけている。特にコメディ映画『ツインズ』(1988)で有名なデヴィートが演じる頑固な売れない中年脚本家の姿は、72歳にしての新境地開拓。本人も「これまで皆さんが見てきた私からの脱却だ」と胸を張るほどだ。

終始不満げな表情を崩さず、時代遅れな脚本術授業は映画学校の生徒たちから小バカ&不満噴出。受講しに来る生徒たちも変わり者ばかりで、デヴィートは苦虫を噛み潰したかのような憮然顔でその話に耳を傾けている。脚本家としても崖っぷちで、エージェントをたらいまわしにされる日々。唯一の代表作にも納得しておらず、その話題を持ち出されると激ギレという悲壮感バリバリの人物を体現している。

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ソロンズ監督のアイロニカルなスタイルは、同じく“アメリカインディペンデント界の異端児”とされるジョン・ウォーターズ監督と同属のようでありながらも、毒の種類がやや違う。絶妙に展開を外して爆発的な結末にはなだれ込まないが、気まずくも可笑しい後味が強烈に残る鑑賞後感はソロンズ監督ならではのもの。なおウォーターズ監督は、本作を2016年のベストムービー第5位に選出。きっと似た者同士としてシンパシーを感じるのだろう(石井隼人)

映画『トッド・ソロンズの子犬物語』は1月14日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー

公式サイトはこちら

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【動画】1/14公開『トッド・ソロンズの子犬物語』予告編