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4年の沈黙を破り待望の長編映画第2弾が完成!「メジャーとは真逆で」

2015年12月18日
山内ケンジ監督山内ケンジ監督
衝撃的長編映画監督デビュー作『ミツコ感覚』から約4年。「UFO仮面ヤキソバン」「ソフトバンク白戸家」などの個性的かつインパクト大のCMを生み出すディレクターとして知られる山内ケンジ監督が、長編映画第2弾『友だちのパパが好き』(12月19日公開)を完成させた。吹越満を主演に迎え、友達の父親に恋するヘンタイ系女子マヤの一途過ぎる暴走と、静かなる家庭の崩壊をワンシークエンス・ワンカットの手法で描き出す。

作品全体を覆う漠然とした不穏な空気と予想不可能なストーリー展開に加えて、現代口語演劇の流れを汲んだ俳優陣によるリアルなセリフの応酬が斬新さを際立たせた『ミツコ感覚』は、小規模公開にも関わらず、2011年公開映画ベスト・ワンに推す声も多い傑作。ゆえに次回作を待ち望む声もあったが、新作発表までには約4年という長い歳月を待たなければならなかった。

山内ケンジ監督山内ケンジ監督


「前作が終わってすぐに映画用の脚本は書いていて、それは震災が起きた日から始まる物語でした。でもまったく筆が進まなかった。震災はまだ終わっていないし、そう簡単に扱えるものではないと思ったからで、結局は白紙に戻しました。けれどその時から“吹越満さんを主演にした家庭の話”というアイディアがあって、そうこうしているうちに演劇のオーディションが始まって、そこで出会ったのが岸井ゆきのさん。吹越さんの娘役にいいなと思ったのがきっかけで、今回の映画の大まかなストーリーが浮かんできたんです」。

岸井と出会ったのは、2012年11月公演の舞台「あの山の稜線が崩れていく」。そもそも山内は劇作家として“城山羊の会”を主宰し、年に2本の新作を発表するほど精力的に活動している。それゆえにスケジュール的にも映画制作は難しかったようだ。しかしその演劇によって若手女優の岸井ゆきのを得た。そして妙子の友達で、平穏だった日常をかき乱す元凶的“ヘンタイ少女”マヤを演じるのは……。

「肝心の友達になるマヤちゃんについて描いて行ったけれど、キャストを想定していないこともあって、脚本の四分の一くらいで行き詰りました。その段階でオーディションをして、妙子と母親、そしてマヤの3人が会話する映画冒頭場面を演じてもらって、そこで安藤輪子さんに出会いました。“妙子のお父さんの事が好き”という、本気とも冗談とも取れないニュアンスを一番リアルに出せていたし、本人自身もそういった不思議なところを持っているような雰囲気がある。岸井さんのようにキャラクターがはっきりしていて、嘘をついても顔に出てバレてしまうようなタイプとは真逆。そんなところがマヤに似ていると思った」。

山内監督の脚本の書き方は、結末を決めて追うのではなく、幹から枝葉を広げて花を咲かせるように、起用する俳優の顔と声を思い描きながら、初めて物語の輪郭が見えてくるような当て書きスタイル。さらにキャラクターの行動を示すト書きはほとんどなく、セリフが羅列されるように並んでいるだけだ。「僕の場合はト書きが特に少ないですね。そもそも実際に俳優に動きをつけてみると、ト書きとは違う動きの方がいい場合も多いので、ト書きに囚われて表現を限定させたくないんです」。

しかも今回は、一つのシーンをほぼワンカットで撮影するワンシークエンス・ワンカットの撮影手法で挑んだ。山内監督が参考として繰り返し観たのは、クリスチャン・ムンギウ監督によるルーマニア映画『4ヶ月、3週と2日』だという。「もともとテレビドラマや商業演劇をやりたいわけではないので、メジャーとは真逆の事をやろうと考えていました。脚本の段階から、シーンを割らずに済んでなおかつ面白く持たせるように、構成や展開を工夫したし、画面の外の声や画面から出て行った人がまた戻って来たり、アクションをやらないとストーリーの説明だけでダルくなるので、脚本執筆にはかなり時間がかかりましたね」。

【動画】映画『友だちのパパが好き』予告編



前作『ミツコ感覚』にあったシュールさは影を潜め、一見平穏などこにでもありそうな中流家庭の崩壊と、“愛”という欲望に突き動かされた人間の姿をひねたコミカルさを交えて描写。吹越、岸井、安藤をはじめ、妙子の母親役の石橋けい、愛人役の平岩紙ら技巧派陣が、山内監督の生み出したリアルかつ滑稽なセリフの数々に息を吹き込み、与えられたキャラクターを見事に生きる。

2004年から演劇をスタートして11年目となる今年、山内監督は2014年公演の舞台「トロワグロ」で第59回岸田國士戯曲賞を受賞。劇作家としての才を広く知らしめることが出来た。CM、演劇を経て、映画ジャンルでもその名を轟かせる準備は万端だ。「とにかく映画を作ることが先決だと思っています。これまでの17本の演劇の中から、そのままでも映画にできると思った『トロワグロ』を長編第3弾として、すでに撮り終えました。僕が“映画を撮る”と言っても、周りが本気にしてくれないし、“やりましょう!”と言ってくれる人もいない。前作も今作もCMの制作会社で撮らせてもらっている形なので、映画をスムーズに作ることのできる軌道を自分で作らなければと……。映画監督として、本格始動したいですね」。

映画監督としての4年間の沈黙が嘘のように、デビュー作発表時以上に燃えている。それは『友だちのパパが好き』への手応えの表れでもある。大人たちの腹の探り合いと秘密の暴露をテラスという限定空間で描いた「トロワグロ」を、映画監督作第3弾の題材にするという部分も、山内監督の挑戦的姿勢を表している。演劇界が生んだ類まれなる才能の発露を、映画館で堪能してほしい。(取材・文/石井隼人)


■映画『友だちのパパが好き』
12月19日(土)ユーロスペースほか全国ロードショー
公式サイト://tomodachinopapa.com/
 
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