異色作「Black-ish」が予言する人種差別のない米国 - ハリウッドなう by Meg | TVグルーヴ オフィシャル・ブログ アーカイブ(更新終了)

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異色作「Black-ish」が予言する人種差別のない米国

(2014年9月22日)

今秋、ABCにお目見えする「Black-ish」は、ビバリーヒルズの一角に豪邸を構えるジョンソン家三世代の異色コメディーです。家長ドレ(アンソニー・アンダーソン)は、LAの広告代理店の上級副社長に昇進したばかり、出世街道をまっしぐらに走っています。しかし、ドレはUrban Departmentという新部門命名にこだわり、昇進を手放しでは喜べません。嘗て、白人の中流層が郊外に移り住んだ後、都会のドーナツ化現象を埋めたのが低所得の有色人種で、大都会の人口過密地帯をurbanと総称します。従って、代理店で初めてアフリカ系重役が管理する部門にドレが育った環境を示唆する言葉を使ったことを、身の程を知れ!と言われたように感じ、人種差別と受け取ったのです。

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黒人文化や伝統にしがみつくジョンソン家の家長ドレを演じるアンダーソン。当時12歳だった息子が「黒人を自覚できない」と告白したことに端を発するコメディーで、「息子の’黒人体験’とボク自身の生い立ちに雲泥の差があることを説明したら、『解った。誕生日は、バル・ミツヴァーにしてね!』と来たんだ」とネタの出所を披露した。 WENN.com

【動画】「Black-ish」トレーラー

麻酔医として活躍する妻レインボー(トレシー・エリス・ロス)は、白人と黒人のハーフ。見た目は黒人ですが、生い立ちも経験もドレとは異なり、夫が人種差別の壁を打ち破る先駆者であることが自慢です。両親より遥かに豊かな環境で、我がまま一杯に育った4人の子供は、昇進=昇給=欲しいものがもっともっと手に入る!と喜び、ご先祖様の苦難を聞かされていないからか、白人社会に溶け込み過ぎたためか、父親の憤りが全く理解できません。

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レインボー役エリス・ロスは、ブラックミュージック界の大御所ダイアナ・ロスとロバート・エリス・シルバーシュタインの二女。「初めてのハーフ役は地で行ける!」と大はしゃぎだが、本作に関わって「人種を意識したのは大学以来よ」と告白した。ハーフ本人は黒人だと信じていても、肌の色が薄ければ逆差別され、黒人社会からも、白人社会からもつまはじきにされる。 WENN.com

15歳の長女ゾーイ(ヤラ・シャヒディ)は、インスタグラムのフォロワー10万人が自慢の典型的な現代っ子。長男アンドレ・ジュニア(マーカス・スクリブナー)は、アンディー(黒人の名前らしくない)と呼んで欲しい、13歳の誕生日には同級生のようなユダヤ教徒の成人式バル・ミツヴァーを豪勢に開催して欲しい等と要求が絶えません。アンドレ・ジュニアが選んだ陸上ホッケーに猛反対するドレは、バスケットボールに執着するのは、自分の好みを押し付けているのか?それとも、「黒人らしい」スポーツ=バスケという固定観念に捕われているため?と、息子に’期待’する気持ちを分析するようになります。

ドレの実父パップス(ローレンス・フィッシュバーン)は、競馬で余生を楽しんではいますが、黒人差別撤廃運動世代なので、何の遠慮も躊躇もなく差別用語を口にする、気難しい頑固親爺です。

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ジョンソン家初代のパップスを演じるのは、「マトリックス」のモーフィアスで名を馳せたフィッシュバーンだ。本作の制作に関わり、同時にゲスト出演している。 WENN.com

「黒人らしい」とは、どういう意味なのか?何をもって黒人と定義するのか?と考えていく内、これは黒人に限ったことではなく、移民で成り立って来た米国では、普遍的な課題であることに気が付きました。更に、歴史を語り継ぐこと、ある民族のルーツを遡ることは、本当に必要なのだろうか?とまで考えてしまいました。これほど深く考えさせられるコメディーは珍しいので、’異色作’として注目しています。

米国に住むようになって、日本人=卑怯者という米国人の固定観念が、真珠湾攻撃に由来していると悟りました。真珠湾で攻撃を受けた軍人やその家族、友人などが、この世に存在しなくなれば、固定観念は自然消滅するのでしょうか?それとも、文献や映像などで永久に語り継がれて行き、日本人への偏見を拭い去ることは不可能なのでしょうか?どうか、前者でありますように....嘗て日本が米国と戦争したことを知らない若者が増えているではありませんか?

米国初の黒人大統領が就任したのは、2009年1月。以降、これまでとは異種の差別/偏見が生まれ、法律上の平等とは裏腹にヘイト・クライム(憎悪犯罪)が後を絶ちません。本作のクリエイターは、「人種よりも社会経済階級のギャップの方が大きい」と語りました。黒人大統領の任期が残り2年となった今だからこそ、「人種のるつぼ」から「人種のサラダ」を経て、今米国はどんな国に移行しつつあるのか?を考察する時期なのかも知れません。

とは言え、一見しただけでは人種が解らない所謂’混血’が増えました。例えば、「プリズン・ブレイク」で一世を風靡したウェントワース・ミラーは、ジャマイカ+イギリス+ドイツ系ユダヤ+黒人+ロシア+フランス+オランダ+シリア+レバノンの血が混ざった、神秘的な性格俳優です。「ハイスクール・ミュージカル」でデビューしたヴァネッサ・ハジェンズは、アイルランド+アメリカ・インディアン+フィリピン+中国+スペインの混血です。そして、今後このような混血は増え続け、○○系アメリカ人と一言で分類することが不可能どころか、無意味になるに違いありません。

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髪を見ると黒人の血が入っていることは確かなミラー(左)、最近、デビュー当時の可憐さがすっかり失せてしまったが、初対面のハジェンズは、「一体、何系なんだろう?」と見入ってしまうほど美しかった。 WENN.com

数カ国の料理や食材を融合させて、これまで存在しなかった料理を創作する動きフュージョン・キュイジーヌをご存知でしょうか?ファッションや音楽業界で旋風を巻き起こした動きが料理界でもトレンドになっているように、「Black-ish」は異文化融合が進み、まだ誰も見たことのない新しい米国が生まれつつあることを予告する番組かも知れません。但し、その使命が視聴率に繋がるかどうかは、別問題ですが....


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