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ハリウッドを拠点に活動するテレビ評論家。Television Critics Association (TCA)会員として年2回開催される新番組内覧会に参加する唯一の日本人。Academy of Television Arts & Sciences (ATAS)会員でもある。アメリカ在住20余年。

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日本では「グッドワイフ1」開始、米国ではスピンオフ「The Good Fight」シーズン2更新

※「グッドワイフ」日本未公開エピソードについてネタバレが含まれます。


日本ではシーズン3まで、NHKで放送された後、尻切れとんぼになっていた21世紀の二大秀作の1本「グッドワイフ」ですが、5月22日からDLifeで、シーズン1に遡って放送されいるのをご存知でしょうか?日本の「グッドワイフ」ファンには、近年最大の吉報です。


このコーナーで最後に「グッドワイフ」に触れたのは、2016年4月27日に公開した記事「『グッドワイフ』’完’への秒読み開始〜不死鳥アリシアの行く末は?」です。あーでもない、こーでもないと想像しましたが、昨年5月8日に放送された最終回は、想像だにしなかった結末となりました。「アリシアの鍛錬」と銘打ったシリーズに相応しい終わり方だったので、私は有終の美を飾ったと思いますが、視聴者の3分の2は納得できない!と不評を買いました。


当然のことながら、ウィル・ガードナー(ジョシュ・チャールズ)の突然の死放送直後と同様、クリエイターのロバート&ミシェル・キング夫妻が、CBSのサイトで声明を発表しました。7シーズン(156話)がハッピーエンドで幕を閉じなかったことが、不評の最大の原因です。人生はそんなに甘くはありませんし、何もかもスッキリ片付くことなど不自然極まりないと思いますが、何でもかんでもハッピーエンドにしたがる、アメリカ人の悪い癖です。’終わり良ければすべて良し’を盲信している能天気な人間が多いと言うことでしょうか?(笑)


最終回の詳細は、米国在住のブロガーが微に入り細に入り説明しているので、ここでは控えますが、パイロット版=シリーズ幕開けと同様、ピーター・フローリック(クリス・ノース)の辞任記者会見と茶番劇の舞台裏で、アリシア(ジュリアナ・マルグリーズ)が如何に成長したかが見事に描かれました。おっかなびっくりの良妻賢母が7年に渡る試練から学習し、自信に満ちた大人の女になり、独立独歩生きる第一歩を踏み出すシーンで締めくくられました。実際にどのようなキャリアを選び、独りで生きて行くのか?再婚するのか?などは、視聴者のご想像に任せますと言わんばかりの意味深の’完’でした。


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「アリシアの鍛錬」を7年間演じたマルグリーズは、デキる女の先駆けは「クローザー」だと指摘する。特に思い入れの深い逸話は、1)パイロット、2)ケイリーと法律事務所を立ち上げようとしていることがバレて、ウィルの捨て台詞が冷たく心に突き刺さった95話(シーズン5「Hitting the Fan」)、3)ウィルの惨死を描いた105話(シーズン5「Dramatics, Your Honor」、4)アリシアが初めて切れまくって醜態を演じた147話(シーズン7「Judged」)。WENN.com


自分のことだけ考えて、自分のために生きる第一歩を踏み出した、筋金入りアリシアの後ろ姿に感涙しました。家族を優先するために、自分を殺して生きるのは、もう御免!と浮き世のしがらみを断ち切ったアリシアは、正に大空に羽ばたいた不死鳥を思わせる荘厳さでした。マルグリーズが「納得のいく、心にしみる、切ない終末」と描写した訳です。数限り無い失望を味わい、酸いも甘いも噛み分けた大人になったアリシアは、21世紀を生きる女性の鑑と言えるでしょう。


キング夫妻が創り出したシカゴの法曹界・政界に二度と足を踏み入れることはないのか....と、寂しい思いでしたが、スピンオフ制作の発表があったのは、最終回放送10日後の5月18日、NYアップフロントの席でした。



「グッドワイフ」完了と同時に、若いプロデューサーにバトンタッチして身を引く予定だったキング夫妻です。今年1月の「The Good Fight」制作発表のパネルインタビューの席で、ロバート・キングは「グッドワイフ」がオバマ時代に生まれ、オバマ政権下で存続したドラマであることを指摘した上で、「トランプ当選で、世の中が豹変。悔しいけれど、トランプのお陰で、反骨精神に目覚めたと言える」と復帰の動機を語りました。つまり、天と地がひっくり返った無秩序、騒乱の真っ只中で、ミシェルの思いつき「ダイアンを黒人ばかりの法律事務所に送り込むのはどうかしら?」を実現したのが、「The Good Fight」なのです。2月19日のCBSとCBSオールアクセス(ストリーミング配信)でのプレミアを前に発表した英文評です。


英文評


「The Good Fight」の主人公は、三人の女性弁護士です。「グッドワイフ」第一話から、常に善悪を判断し、正義を貫いてきた’理想に燃える’進歩派弁護士ダイアン・ロックハート(クリスティーン・バランスキー)と、最終シーズンでアリシアの腹心兼共同経営者でもあったルッカ・クィン(クッシュ・ジャンボ)の既にお馴染みのキャラを使います。「The Good Fight」のアリシア役には、ダイアンが娘のように可愛がっている新米弁護士マイア・リンデル(ローズ・レスリー)が起用されました。


バランスキーは「プロヴァンスで余生を楽しもうと計画していたダイアン(60代)が、ルッカ(34歳)とマイア(25歳)に女の底力を引き継ぐべく戻ってくるの。念願の初の女性大統領が生まれ損なったご時世だから、まだまだ女の闘いは続くと言う意味で、このタイトルがとても気に入ってるの」とご満悦のようです。


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バランスキーはダイアン役で、何度かエミー賞助演候補に挙がったことはあるが受賞したことはない。「The Good Fight」では主役なので、主演女優賞候補として今年最も有力だ。ドラマもコメディーも同様に演技が光る役者なので、是非エミー賞を獲って欲しい。 WENN.com


スピンオフは、「グッドワイフ」の最終回から1年後、トランプの就任式を呆然と観ているダイアンのアップから始まります。プロヴァンスに家を買って、余生を楽しもうと退職を発表した直後、地位・名誉・富すべてを失い、ダイアンは人生双六の振り出しに戻ってしまいます。トップの座に上り詰めた挙句の果ての’失脚’は、半端ではありません。自ら立ち上げた法律事務所には拒絶され、働きたくても、スキャンダルが災いして、誰も雇ってくれません。弁護士歴2年で家庭に入り、夫の失態で復職せざるを得なくなったアリシアの再出発など、比べ物になりません。


ダイアンの’失脚’の引き金となったのは、旧友ヘンリー・リンデル(ポール・ギルフォイル)が巨額金融詐欺容疑で逮捕されたことです。ダイアンに救いの手を差し伸べたのは、黒人ばかりのレディック・ボウズマン・コルスタッド法律事務所で、公民権運動や近年横行する警察の残虐行為に目を光らせています。ダイアンの口利きで、同事務所に入社したシカゴの名門リンデル一族の一人娘マイアは、ルッカに支えられて仕事に没頭するものの、人間不信は否めません。本シリーズのアリシアに例えたのは、マイアも一族の巨額金融詐欺スキャンダルの渦中で、巷の中傷、非難、捏造記事に苛まれながらも、一人前の弁護士になろうと頑張る芯の強さと底力を発揮するからです。但し、駆け出しの怖いもの知らず故の’猪突猛進’は、アラフォーのアリシアにはとても真似のできない強みです。


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華奢な体格からは想像できない、芯の強い新米弁護士マイアを演じるレスリー。渦中の人として認識されない場所で、周囲の弁護士に支えられて仕事に没頭するが、あらゆる媒体から総攻撃を受ける。WENN.com


ルッカ(34歳)は、歯に絹着せぬ物言いとドライなユーモアが売りの敏腕弁護士です。「グッドワイフ」シーズン7で漸くアリシアが巡り合った親友がルッカで、悩みを打ち明けたり、飲みに行ったり、無くてはならない存在となりました。アリシアとジェイソン(ジェフリー・ディーン・モーガン)の仲を取り持ってくれたのも、アリシアが初めて切れまくった時に暖かく抱擁してくれたのもルッカです。


「The Good Fight」は、ルッカが働くレディック・ボウズマン・コルスタッド法律事務所の世界に、ダイアンとマイアが飛び込んでくると言う設定です。アリシアから学んだスキャンダルを生き延びる方法をマイアに伝授して、何かと手を貸すルッカですが、親友アリシアの不在で、また一匹狼に戻ってしまった感があります。コリン・モレロ検事補(ジャスティン・バース)との恋愛とも単なるお遊びともとれる摩訶不思議な駆け引きは、カリンダ・シャルマ(アーチー・パンジャビ)を彷彿させ、どうも頂けません。「グッドワイフ」シーズン7のルッカに戻って欲しいと思うのは私だけでしょうか?


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ジャンボが演じるルッカは、型破りな弁護士だ。親友アリシアの現況を口にしたがらないのは何故か?もう親友ではないから?その内、アリシアへの気持ちを明かしてくれることを期待したい。WENN.com


今年1月のプレスツアーは、トランプ対策一色だったとお伝えしましたが、蓋を開けて見ると、トランプの逆鱗に触れまいと、遠回しに批判する程度のドラマが多かったように思います。真っ向からトランプを批判するのは、トーク番組や偽トランプ主演のコメディーに限定されています。トランプ政権下の大混乱の中、全米一進歩派が集中するシカゴの法曹界がいかに反応するかを描くのは、「The Good Fight」の他にありません。


「トランプ当選を知ったのは、パイロット撮影8日目。ヒラリーが当選するものと思って4話書き溜めしてあったけど、遣い物ものにならないのでボツにしました。トランプ就任式を呆然と観ているダイアンのアップも、当然プレミア前に撮り直したものです」とロバート・キングは舞台裏を明かしました。「ダイアンがヒラリーと一緒に撮った写真を箱に収めるシーンの意味が逆転した」と指摘したのは、バランスキーです。「選挙前日には、ヒラリーが大統領になったから、ダイアンだってどん底から這い上がる力を持っている!の心意気を込めて、写真を箱に収めた訳だけど、選挙当日、レディック・ボウズマン・コルスタッド事務所のシーンを撮り終わって楽屋に戻ったら、トランプの当選がほとんど確実と知って....奈落の底に突き落とされて、スローモーションで落ちて行く感じがしたわ」と付け加えました。同じシーンなのに、選挙前と開票後では、ダイアンの心意気/勇気/やる気が落胆/混乱/絶望に変わってしまったと言う前代未聞の大逆転を感慨深く語るバランスキーでした。


トランプが次期大統領と決まって以降、「引力を失って、上下の区別がつかない、無秩序な社会になってしまった」とロバートは現況を読みます。キング夫妻が得意とする「天と地がひっくり返った時こそ、人間が成長する又とない機会」主義が、スピンオフにも応用されています。足場を失い、宙を舞うような不安定極まりない状況を味わう「The Good Fight」のキャラ達は、進歩派のシカゴ住民のみならず、全米の反トランプ派常識人を代表してくれて、気分爽快です。

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