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'リケジョの星'の先駆者?NYタイムズ紙の汚点ジェイソン・ブレア物語

(2014年4月21日)

遅ればせながら、3月末に'リケジョの星'小保方晴子氏のお騒がせ事件を知りました。早速、STAP細胞の論文疑惑事件の経緯を調べたところ、小保方氏は論文の画像流用やデータの切り貼りについて「やってはいけないとの認識はなかった」と発言しています。丁度、ドキュメンタリー「A Fragile Trust」が考察したNYタイムズ紙の汚点ジェイソン・ブレアを観たばかりで、業界こそ違え、「そっくり!」と仰天してしまいました。

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ドキュメンタリー制作者サマンサ・グラントに小保方晴子を巡る大騒ぎをメールで知らせたところ、ブレア同様の事件と判断し、サイトで小保方晴子関連記事にリンクを張って、右コラムの最下段に紹介してくれた。

米国では5月6日にPBSで放送予定の「A Fragile Trust: Plagiarism, Power, and Jayson Blair at The New York Times」は、NYタイムズ紙の国内ニュース記者ブレア(当時27歳)が働いていた環境や背景、'でっちあげの天才'になるまでの経緯と波紋を考察します。

【動画】 「A Fragile Trust」トレーラー

事件後ブレアが応じた初めてのインタビューから「嘘をついて、ついて、つきまくってやった」「発覚を一日、一日後らせるしかなかった」などの口述を、ナレーション代わりに使用して真相分析/判断を視聴者に委ねている点が、サマンサ・グラント監督の才気です。また、ブレアが退職後に書いた自叙伝「Burning Down My Masters’ House」からの引用、2005年から始めたライフコーチ職や報道倫理講演「Lessons Learned」の映像からも、ブレアの人格が読み取れます。

地元ネタを丁寧に取材して執筆する'心ある'マカレナ・ヘルナンデスの記事をほとんど盗用したのが、ブレアの運の尽きでした。ブレアは、現場/現地に行って取材した振りをして、他紙の記事をオンラインで収集し、あちこちからコピペして、自分の名前で発表していました。2002年12月〜2003年5月の半年間に執筆した記事73本中、何と36本が捏造あるいは盗用でした。また、4年足らずの勤務期間中に、50本余りの訂正記事を出していますが、「自己申告」だったと指摘し、責任転嫁に余念が無いブレアの映像も含まれています。不正行為が発覚した後も、取材メモを操作して帳尻を合わせたり、当然のことながら、調査委員会にも嘘をついて窮地を逃れようとしました。

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去る1月PBSパネルインタビューに登場した「A Fragile Trust」関係者。左からPBSシリーズ・プロデューサーのロイス・ヴォッセン、プロデューサー/監督のグラント、盗用発覚の発端となった記事を書いたヘルナンデス、ブレアが一目置いた(?)元スポーツ記者のリーナ・ウィリアムス。 Courtesy of Rahoul Ghose/PBS

タイムズ編集幹部に「ソシオパス(=反社会性人格障害)」と言わしめたブレアの言葉をいくつかご紹介しましょう。
「入念に記事を点検してくれたら、僕がよれよれになってるって気付いた筈だけどなぁ....」
「躁鬱病が、嘘八百を並べる訳じゃない」
「元々、タイムズ社は、タイプA人間*の巣窟じゃん?」
*出世願望や競争心が過度に強く、野心満々で負けず嫌いの性格を言う。

極めつけは、迷惑をかけた人に謝罪したか?と尋ねられ、「こういう形で教訓を学ぶ結果になったことは残念だね。周りに傷跡を残したことも...でも毎朝心痛で目が覚める訳じゃない。毎日、悔やんでも仕方ないでしょ。依存症のリハビリで、『きっと良心の咎めに押し潰される』ってカウンセラーに繰り返し言われたから、後悔先に立たずと信じて前進するっきゃない!...(中略)答えになってる?」と答えたブレアです。

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高校時代、学校新聞記事の談話の改ざんで、ブレアの嘘の人生が始まった。それほど、でっちあげに長けているなら、小説を書けば良いのに....何故、ジャーナリストという職業を選んだのか?また、ライフコーチとして自称「200人もいるクライアント」に何を指導しているのだろう? Courtesy of Singell Angew

ブレア自身の「躁鬱病+アルコール+コカイン依存症だったから」なる責任逃れの他に、背景として、ドキュメンタリーはタイムズ紙の社風や社会環境にも言及します。
1)911多発テロ事件後の非常時で、誰もが神経ぴりぴりの状態だった
2)米国の一大事を報道することに専念しており、それ以外は些細な事で片付けられていた
3)デジタル化を目指した新編集幹部の管理が杜撰で、記者は野放し状態だった
4)「積極的差別是正措置」によるマイノリティー優遇で、仕事にケチを付けると人種差別と訴えられることを恐れ、幹部や管理職は弱腰になっていた
5)特ダネをつかんだり、独占談話をとってくれば、目に余るルール違反でさえ黙視される環境だった

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ブレアから「もう、限界!」と告白されたと語ったウィリアムスだが、「未だに謝罪の一言もない」とパネルインタビューで述べた。ブレアの破廉恥な振舞いの波紋を、直接肌で感じたウィリアムスの発言には重みがある。 Courtesy of Scene from A Fragile Trust: Plagiarism, Power, and Jayson Blair at The New York Times

ブレアはメールで退職、自叙伝を書いて、ジャーナリズムの最高峰に後足で砂をかけましたが、「ブレアが残した傷跡は深く、広い」とリーナ・ウィリアムス(元タイムズ紙スポーツ記者)は、1月のプレスツアーで指摘しました。マイノリティー・グループに属するジャーナリストへの不信は一向に消えず、ウィリアムスが停年退職した2005年に及んでも、「ジャーナリストは皆一様に怪しい」と疑われ、厳しいチェックが重ねられたこと、インターン制度にも見直しが入り、多様性を謳っていた業界が根底から覆ったとも述べました。

捏造、盗用、改ざんは、デジタル時代にはお茶の子さいさいです。図書館まで出かけて何冊も専門書を調べてレポートを書いたアナログ世代と違って、幼い頃から万事オンラインのリサーチから開始するデジタル世代は、それほど悪いことをしたという意識はないのかもしれません。いとも安易に、机上に瞬時に現れる莫大かつ無料の情報を利用しない方がどうかしているという怠慢で勝手な言い分だとは思いますが、デジタル世代にとっては報道や論文発表倫理など古代の遺物なのかもしれません。小保方氏は。ブレア同様、デジタル時代の申し子なのです。

STAP細胞の論文疑惑事件が、今後どのような展開を見せるかは不明ですが、小保方氏の過去が掘り返され、事件に至った背景が明らかになれば、結末もブレアと同様になる可能性は高いのではないでしょうか?


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