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Vol.50 字幕は誰のため?

2006年1月31日
さてさて、最後のエッセイになってしまいました。最後ということで、何を書こうか迷いに迷い…。迷いすぎて、あっという間に年を越し、1月も半分終わっちゃいました。すみません。(^^;;) いや、ひとつ、書きたいことはあるんですが、書いてもいいのかなあー。本当に迷ったんですが…いいや、書いちゃおう。最後だしね!(笑) 私が最後に書きたいのは、最近流行(?)中の字幕批判サイトについてです。

近ごろ、映画字幕の改善を訴えるサイトがネット上に増えつつあり、中には署名運動を行っているところもあります。そういうサイトを拝見すると、確かにごもっともな指摘が多く、とてもいい改善案が提示されているところもあります。しかし、一部のサイトでは、読んでから「…ん?」と頭に疑問符が浮かんでしまうような指摘も少なくありません。

私が気になるのは、そういうサイトに書かれている、ものすごく説得力のある解説を読んだ方たちが、「その映画はまだ見ていませんが、サイトの趣旨に賛同しますので署名に協力します」なんていう書き込みをしていたりすることです。「せめて映画を見て、字幕に違和感があるかどうか、自分の目で確かめてから署名をしてほしいなあ…」と寂しくなります。

確かに、誤訳は許されるべきものではありません。また、映画の世界にどっぷり浸って楽しんでいるときに「あれ? なんだかちょっと変だな」と思わせるような字幕が1枚でも出ると、一瞬で夢の世界から現実に引き戻されてしまうような感じがするものです。字幕は決して映画や番組の鑑賞のさまたげになってはいけないと思います。

しかし、明らかに意訳であり、物語の全体像をつかみやすくするために工夫されたのだろうと思われる訳が「原文と違う! 誤訳だ!」とネット上で吊るし上げをくらっている場合があります。これは本当に残念なことだと思います。きっと、カサブランカの「Here’s looking at you, kid」を「君の瞳に乾杯」とするような訳は、もう認められないんでしょうね…。

今後は、原文に忠実で“正確”な訳を作ることだけが優先されて、いかに分かりやすくても意訳はダメ、という風潮がますます強まっていくのでしょうか。でも、正確な訳ばかりにこだわっていると、かえって作品の全体像がゆがめられてしまったり、監督の意図が伝わらない字幕になってしまうのではないかと私は思います。言葉というものは文化を下敷きとして成り立つわけですから、セリフを直訳しただけでは、言葉の裏にある感情がうまく伝えられないことが多々あります。

「君の瞳に乾杯」という訳は、以前から賛否両論あるようですが、映画ファンなら「君の瞳に…」という言葉を聞いただけで、ボギーの顔や酒場の風景などが頭に浮かぶはずです。やっぱり、あの場面の雰囲気にピタリとはまったからこそ、見た人の心に瞬時に刻みこまれたのだと思います。

小心者の私は、ちょっとでも意訳をしたくなると「某巨大掲示板で批判されたらどうしよう…やっぱ、やめとこうかな…」なんてびくびくしている今日このごろなんですが(笑)、「字幕とは、誰のために存在するものか?」と考えたときに、私が強く思うのは「やっぱり、ごく普通の視聴者のために、誰にでも理解しやすく、作品をストレスなく楽しめる字幕にしたいな」ということです。

英語のヒヤリングができる方々なら、英語圏の文化背景も頭に入っているでしょうから、直訳に近い字幕でも問題ないでしょう。でも私は、できればヒヤリングのできない人たち、異文化に触れる機会の少ない人たちのために字幕を作りたい。ごく一般の、なんとなく気まぐれでテレビをつけてみた人が、たまたまやってた番組を見て「ああ、おもしろかった、次も見たいな」と思ってもらえるような字幕にしたい。…そんなふうに思うのです。

前にも何度か書きましたが、字幕翻訳は10年続けてやっと「1人前」だそうです。私は今年で9年目に突入しますので、あと2年! これからもがんばって意訳を…じゃなかった(^^;;)、分かりやすい翻訳を目指して仕事を続けていきたいと思います。

さて、このエッセイも、今回をもちましてとうとう最終回です。あーホントに、50回もよく続いたなあー。感無量です。(笑) いつもいつも、ご迷惑ばかりかけていたTV Grooveのスタッフのみなさん、長い間本当にありがとうございました。