チャーリー・XCX(Charli XCX)の「Brat」アリーナツアーがイギリスに上陸。イギリスでクラブ文化が衰退しつつある今、関係者たちは彼女の音楽が文化に刺激を与えることを期待している。
イギリスのクラブ音楽の厳しい現状
「現在のクラブシーンは正直言ってかなり厳しい状況です」とBBC Newsbeatに語ったのは、ロンドンのDJであるDJモキシーだ。
Music Venue’s Trustによれば、2023年、イギリスでは100以上の音楽会場がライブ興行を停止し、そのうち半数以上が完全に閉鎖されたという。閉鎖を余儀なくされた会場や、存続に苦しんでいる会場は、まさにチャーリーが腕を磨いたような場所だ。
モキシーは「我々の収益の多くは学生層に頼っていますが、多くの学生が外出しなくなっています」「彼らは外出する余裕がなく、家にいることを優先しています。すべてが値上がりしていて、それが会場にも大きな影響を与えているのです」 と、物価やチケット価格の高騰が学生たちをライブから遠のかせていると説明した。
チャーリーにとってクラブは「DNAの一部」
チャーリーは人気番組「サタデー・ナイト・ライブ(SNL)」に出演時、10代の頃に両親に頼んでレイブ(※)に連れて行ってもらったことや、アリーナ公演を完売させるようになる前は倉庫で公演を行っていたことを語っていた。
※主にダンスミュージックやクラブミュージックを夜に流し続けるような音楽イベント。
「15歳くらいのとき、彼女と同じレイブにいたことがあります」と振り返ったモキシーは、「彼女は今、自分にインスピレーションを与えた場所の数々について、対話を拡大しています」と、チャーリーが最前線で現状に向き合っていることを説明。
そして、そういった場所が消えていく中で、モキシーはチャーリーがクラブ音楽への愛を育ててくれることに期待し、「特にチャーリー・XCXのような人物が『私はここから生まれた。クラブが私を作り上げてくれた。それは私のDNAの一部だ』と語っているのだから、尚更期待します」とチャーリーに願いを託した。
お手頃価格でライブを続けるチャーリー
6枚目となる最新アルバム「Brat」でグラミー賞3部門を位含む数々の賞にノミネートされているチャーリーだが、ファンが驚くのはその公演のチケット料金だ。水曜のマンチェスター公演では「たった40ポンド(約7,630円)でチャーリー・XCXを観られた」「もっと高いと思っていた」と驚いているファンもいたそうだ。
それもそのはず。テイラー・スウィフトのイギリス公演では、チケットの価格は平均でも206ポンド(約39,000円)。ビヨンセの「Renaissance」公演ではスタンドチケットは最大410ポンド(約78,200円)、ビリー・アイリッシュの今後の公演も最大398ポンド(約75,300円)がかかるといい、イギリスでは過去5年間で半数以上の人々が高額なチケット料金のためにライブに行くのを断念したという統計がBBCニュースでも取り上げられた。
明らかにお手頃な値段は、クラブシーンに活気をもたらすことを期待している。
チャーリーがポップ音楽にも救いをもたらす?
音楽ジャーナリストで評論家のシャード・デスーザは、Newsbeatの取材に対して多くのチャーリーファンがクラブへの外出を楽しんでいくことを「願い、祈るしかない」と語った。
彼はチャーリーの音楽スタイルに注目。「新しい音楽を求めてアンダーグラウンドに目を向けている人がいるのは新鮮です」「最近よく、ポップミュージシャンが、直接ポップ音楽の歴史を参照しているのを目にします」と分析している。
テイト・マクレーがブリトニー・スピアーズに影響を受けていることなどを例に挙げ、過去数十年においてマドンナやプリンスといったアーティストがポップ以外の異なるジャンルからインスピレーションを得て、それをポップのメインシーンに持ち込んだ時代とは異なっていると話したデスーザは、「ポップが自らを参照するだけでは、何かを失ってしまいます」と説明。しかし「チャーリーはそれ(他のジャンルからの持ち込み)を行っていて、それこそが失われつつあったものだと思います」と、チャーリーがポップを廃れさせない貴重な存在として評価した。
フリーライター(tvgroove編集者兼ライター)。2019年に早稲田大学法学部を卒業。都庁職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)においても映画に関する発信を行いながら、YouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」にて映画情報・考察・レビュー動画などを配信したり、映画関連イベントの企画・運営も行っている。