映画「ハリー・ポッター」シリーズ、「ファンタスティック・ビースト」シリーズの小道具制作ヘッド、ピエール・ボハナが来日。tvgrooveは「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 – メイキング・オブ・ハリー・ポッター」にて、ボハナへの取材を行った。
「ハリー・ポッター」「ファンタスティック・ビースト」シリーズのみならず、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』『バービー』、さらに2024年公開予定の『デューン 砂の惑星PART2』など、数々のハリウッド超大作の小道具、模型、衣装などの小道具制作を手掛けているボハナ。彼は今回「スタジオツアー東京」にて、小道具制作について語る時間を設けてくれた。
普段は関係者しか入ることのできない「ダンブルドアの部屋」の中にもボハナ同行のもと立ち入り許可をいただいた。貴重な室内のディテールを撮影できたため、フォトギャラリーもぜひ楽しんでいただきたい。
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「スタジオツアー」という施設の存在意義と魅力
ハリー・ポッターの母国である、スタジオツアーロンドンに続き、2つ目として2023年にオープンしたばかりの東京版は、まだ世界に2ヶ所しか存在しない「ハリー・ポッター」シリーズの「スタジオツアー」だ。
原作者J. K. ローリング、そして映画シリーズが作り上げた『ハリー・ポッター』の世界観を祝福するこれら2つの施設について、ボハナはそれぞれの存在意義や魅力を感じている。
ボハナは「オリジナルのロンドン版は(スタジオツアーという)コンセプト自体に存在意義があることを証明できたと思う」「人々が作品・物語だけでなく映画作りに対しても非常に高い関心を持ってくれることが証明された」と、ロンドン版の盛況によって映画制作の“裏側”を見ることに人々が興味を示すことが証明されたことを説明。
続けて彼は「もちろん他にも(映画作りのプロセスを紹介するような施設は)ある。でも『ハリー・ポッター』と映画作りが組み合わさっているということが重要なんだ」と、このシリーズだからこそ多くの人々を惹きつけられることを強調した。
そして、すでにコンセプトの成功がロンドンで証明された後に作られたスタジオツアー東京に関してボハナは「ストーリーテリングの方法や、展示物などの内容を修正したり、色々加えたりして、かなり洗練されたものになっている」と2か所目ならではの、完成度の高さを称賛した。
展示のためだけに行われた調整
「セットの中に入り込む没入感」。「一歩下がってどのように作ったのか観察できる」外側の視点。そんなふたつの視点をひとつの場所で味わえる体験を施設の魅力として語ったボハナ。彼によると、施設の展示の中には、展示のためだけに整えられたものもあるという。
「この施設の元々のコンセプトは映画で使ったものをそのまま展示すること。だけどそれらは撮影の間だけもてば問題ないという前提で作っている物も多いんだ。そうするとそのまま展示するわけにはいかない。だから長い期間もつ物、展示にふさわしい物に調整をして、洗練されたもの(展示物)にしているんだ」と、ボハナは展示をするための工夫もされていることを説明した。
インスピレーションはそこら中にあふれている
『ハリー・ポッター』『ファンタスティック・ビースト』シリーズのみならず、『アクアマン』や『バービー』といったほかの大作映画にも関わっているボハナ。映画制作の中で、クリエイターとしてのインスピレーションは多方向から得るそうだ。
ボハナは「(映画の)セリフを聞きながらも(デザインを)考える。さらに映画は大勢のスタッフの仕事がすべて影響し合って作るもの。まずはストーリーがあって、そこに世界観が出来上がっていく。ビジュアルが具現化されるなかで色々な要素・人々から影響を受けるよ」と、セリフ・物語の要素・他のスタッフの仕事などすべてからインスピレーションは得ながら「情報や知識をどんどん増やす」スタイルをとっているそうだ。
小道具制作という仕事の魅力とこだわり
小道具制作の仕事について「始まりは白紙で、情報は脚本にあったりなかったりする。そこからどういうものになるべきかを発見していくプロセスに喜びを感じるんだ」と、0から徐々に世界観を理解し、生み出していくことを楽しむボハナ。
彼は小道具担当として常に意識していることを教えてくれた。それは「一人一人のスタッフがミスをすることよりも、エゴに乗っ取られることが問題」だということ。「自分が自信を持っていても」諦めなければならないことがある。ボハナは「(映画は)クリエイター全体で一緒に作るもの」とチームプレーを重んじる姿勢を語った。
ボハナたちは世界観作りに関わるスタッフ。彼らの仕事はあくまで「脚本家や監督が作りたい世界を具現化する」ことだとボハナは語る。彼によれば世界観作りに大切なのは「物語の世界を深く理解すること」「周囲との綿密な関係を築くこと」。作品にも人々にも常に敬意を払う彼だからこそ、作品に最適な小道具を作れるのだろう。
「ハリポタ」と「ファンタビ」の違い
同じ世界観を共有するも、時代や舞台が異なる『ハリー・ポッター』と『ファンタスティック・ビースト』。小道具でのアプローチについてボハナは、シリーズごとの違いを感じていた。
『ハリー・ポッター』は「1から作り上げるプロセスが課題だった」というボハナ。それに対して『ファンタビ』は「1930年代頃が舞台の時代物。『ハリー・ポッター』で完成した世界をより広げていくことが課題だった」と振り返る。0から生み出す苦労と、生んだものをさらに広げる苦労という違いがあったようだ。
マジカルな世界観を作り上げる小道具担当の苦労
苦労した小道具は何かとの質問には「何千と作ったし、たくさんあるよ」と笑うボハナ。彼はまず「色々なことが同時に起きていて問題だらけ」という状況が大変だったと語る。
そして、ボハナが「大きなチャレンジだった」と思い出すのは“レストレンジの金庫”。「金・銀・銅、偽物だけど宝石類もあった。ゴムで作ったものも含めて全部で25万点くらいの物があったんだ。とても大変だったよ」と、途方もない苦労をシェアしてくれた。
ちなみにボハナはファンが知ったら驚きそうな小道具の知識として、“必要の部屋”についてのネタを教えてくれた。必要の部屋ではスポーツ関係の大量のトロフィーが登場する。そこでボハナらは色々なトロフィーを山ほど作るために多くの工夫をしたそうだ。例えば古い型を利用したり、庭用の植木鉢をクロムで覆ったりもしたとか。“必要の部屋”の展示ではどのトロフィーがどう作られたか想像するのも楽しそうだ。
「日本版ホグワーツはぜひ作ってみたい」
魔法ワールドにおいて日本に存在すると設定されている魔術学校「マホウトコロ」。今回ボハナにはそちらを話題として投げかけてみた。
するとボハナは「日本版ホグワーツ。関われたらすばらしいね」と楽しげな顔を見せる。
続けて彼は「日本は大好きだよ。歴史や神話のような独自のストーリーを持っているよね。そして職人技も重視されるのでハイクオリティで美しいものができると思う。日本の絶妙なセンスや繊細な部分は我々をインスパイアしてくれるよ。(日本版なら)ホウキや杖のような魔法道具も日本的でエキセントリックになるだろう。声かけがあったらぜひ、すぐにでも作りたいな」とやる気十分。どこかでタイミングがあると嬉しいのだが…。
なお、現在映画とは別のドラマシリーズ版「ハリー・ポッター」の話がある。しかしボハナもそのシリーズ企画については「ニュースで知った」そうだ。「映画版に似た世界観になるのか、まったく異なるものになるか」彼も楽しみだという。
ダンブルドアの校長室(フォトギャラリー)
そして今回特別に案内していただいたのが「ダンブルドアの校長室」。ここではボハナ本人の撮影もさせていただいた。
「校長室」にはダンブルドアの衣装のほか、不死鳥のフォークスが動いていたりも。
プロダクション・デザイナーの指揮のもと、「かなり孤独な部分」を持つダンブルドアの人柄も意識して作られたという校長室。天文学が好きなダンブルドアらしく、天文学にまつわるアイテムや本が並ぶ。
シリーズ物と思われる本の1冊だけが置いてあるなど、不揃いな印象の本棚。ダンブルドアといえば“芯が通って誠実”な反面で“意外と大雑把で複雑”な人物。その人柄そのものがこの部屋に投影されているように感じる。
普段は踏み込めない絨毯(じゅうたん)に緊張しながら、校長席からの景色も撮影。
奥の部屋にも、暗い中にディテールの細かい小道具が並んでいることがわかった。
行くたびに新たな発見やワクワクが生まれる「スタジオツアー東京」。ピエール・ボハナの強い熱意も受け、いっそう施設の貴重さを感じる取材であった。
ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 – メイキング・オブ・ハリー・ポッターについて
ワーナー ブラザース スタジオツアー東京では、映画でも人気のホグワーツの大広間、ダイアゴン横丁、9 と3/4番線などのセットに実際に足を踏み入れられるほか、世界初となる東京独自のセットがあるのも大きな魅力のひとつです。ほうきに乗ったり、ホグワーツの肖像画になったりと、楽しいアクティビティも盛りだくさんです。魔法使いの飲み物であるバタービールを飲むこともできます。
なお、チケットは事前に購入する必要があります(スタジオツアー東京ではお求めになれません)。
公式ウェブサイト チケットページ:https://www.wbstudiotour.jp/
大人– ¥6,300〜 中人– ¥5,200〜 小人– ¥3,800〜
『ハリー・ポッターと秘密の部屋』デジタル配信中
ブルーレイ 2,619 円(税込)/DVD 1,572 円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
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フリーライター(tvgroove編集者兼ライター)。2019年に早稲田大学法学部を卒業。都庁職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)においても映画に関する発信を行いながら、YouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」にて映画情報・考察・レビュー動画などを配信したり、映画関連イベントの企画・運営も行っている。