注目の長編アニメーション映画『ロボット・ドリームズ』が11月8日(金)公開となる。
『ロボット・ドリームズ』予告編
『ロボット・ドリームズ』あらすじ
大都会ニューヨーク。ひとりぼっちのドッグは、孤独感に押しつぶされそうになっていた。そんな物憂げな夜、ドッグはふと目にしたテレビCMに心を動かされる。数日後、ドッグの元に届けられた大きな箱…それは友達ロボットだった。
セントラルパーク、エンパイアステートビル、クイーンズボロ橋…ニューヨークの名所を巡りながら、深い友情を育んでいくドッグとロボット。ふたりの世界はリズミカルに色づき、輝きを増していく。
しかし、夏の終わり、海水浴を楽しんだ帰りにロボットが錆びて動けなくなり、ビーチも翌夏まで閉鎖されてしまう。離れ離れになったドッグとロボットは、再会を心待ちにしながら、それぞれの時を過ごす。やがてまた巡りくる夏。ふたりを待ち受ける結末とは…。
レビュー本文
オスカーノミネートにも納得の作品
2024年のアカデミー賞で長編アニメ映画賞にノミネートされた作品をチェックしていたときに、後に同賞を受賞したスタジオジブリの『君たちはどう生きるか』や、圧巻のアニメーション表現で人々を興奮させた『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』といった話題作に並んで、異彩を放っていたのが今作。「カートゥーン・ネットワーク」で放送されているようなキッズ向けアニメーションを思わせる、シンプルで可愛らしい画風の映画がそこに並んでいるのは正直意外な思いもあり、印象に残った。
実際に観てみて、ノミネートにも納得。セリフなしでも深く胸を抉り涙腺を刺激する、明快ながら感動的な物語。シンプルに見えて非常に丁寧なアニメーション。効果的に使用されるエモーショナルな音楽。そのすべてに心を打たれた。
共感度の高い、ビターでリアルな物語
今作の主人公は犬(ドッグ)だが、ストーリーはニューヨークで暮らしながら周囲に馴染めず、ひとり孤独を感じる人間の切ない物語にほかならない。そんなドッグがロボットとはいえ“友達”をつくることができ、世界が輝いたのも一瞬。また新たな困難が待ち受けている。
なんといっても緻密に練られた展開が心を揺さぶってくる。楽観的な未来に期待して、そううまくはいかずに落胆する。期待してしまうほど、現実に打ちのめされる。生きていれば誰もが何度かは経験するであろう普遍的な気持ちの浮き沈みや苦難を、ピュアなロボットとドッグが味わうビターな展開を通じて再体験させられる物語に、共感せずにはいられない。
単純に見える表情も、絶妙な感情のニュアンスを伝えてくる。ジブリ映画の子どもキャラクターのような屈託ない笑顔で楽しさを表現するロボットには自然と元気づけられる一方で、ドッグがロボットとの時間を楽しみながらもふと「本質的には今もひとりぼっちである」という事実を認識して切なさを見せるような独特の「困り笑顔」には胸を締めつけられるものがあった。
粋な演出やリアリズムが物語に没入させる
物語やキャラクター心理の描き方も、非常に巧みだった。アニメの構図は非常にバラエティに富んでいて視覚的にも飽きさせないし、平面的な画風に見えて、陰影の使い方などでリアリズムも感じさせてくれる。
原作のグラフィックノベルでは明確な舞台が描かれなかったそうだが、パブロ・ベルヘル監督は今作の舞台が明確に1980年代のニューヨークだとわかるように背景を構築している。セントラル・パークだけでなく今はなきワールド・トレード・センター(ツインタワー)も複数回登場するし、流れる楽曲も今作でキーとなるEarth, Wind & Fireの「September」(1978年)をはじめとする“懐メロ”ばかり。アメリカに住んでいなくとも映画ファンであればどこか見慣れた景色を舞台に展開することで、このストーリーがただの“動物の世界のお話”には終わらず現実世界とリンクしたものであると感じさせてくれた。
とはいえあくまで“動物たちが暮らす世界の物語”、そして自由な表現ができるアニメーションとして、なんともシュールな笑いも散りばめられており、まっすぐ訴えかける部分と可愛らしいコミカルさとのバランス感覚も非常に優れた作品だと感じた。
演出や仄めかされる映画愛も粋
反復して同じ景色を見せることで時間の経過や季節の移り変わりをわかりやすく示したり、序盤に登場した映画が後に演出として効いてきたり、特定の音楽(「September」や「Happy」)を感情のトリガーにしたりと、粋で丁寧な演出は非常に映画的で、セリフや説明のない今作でも物語が発するメッセージとドッグやロボットの心情の揺らぎが直接観客の心に語りかけてくるような工夫がされている。
さらに『オズの魔法使』や『シャイニング』、『ビッグ・リボウスキ』など、さまざまな映画へのオマージュが行われているところにもその深い映画愛は感じられる。映画ファンの皆様にはぜひ、いたるところから映画へのオマージュを見つけてみていただきたい。
巧みな表現で感情に訴えかけながら、可愛らしいアニメーション&コメディ要素によってほっこりもさせてくれる、映画愛にもあふれたアニメーション映画『ロボット・ドリームズ』は11月8日(金)日本公開。
作品情報
監督・脚本:パブロ・ベルヘル
原作:サラ・バロン
アニメーション監督:ブノワ・フルーモン
編集:フェルナンド・フランコ
アートディレクター:ホセ・ルイス・アグレダ
キャラクターデザイン:ダニエル・フェルナンデス
音楽:アルフォンソ・デ・ヴィラロンガ
2023年|スペイン・フランス|102分|カラー|アメリカンビスタ|5.1ch|原題:ROBOT DREAMS|字幕翻訳:長岡理世
© 2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL
配給:クロックワークス
フリーライター(tvgroove編集者兼ライター)。2019年に早稲田大学法学部を卒業。都庁職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)においても映画に関する発信を行いながら、YouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」にて映画情報・考察・レビュー動画などを配信したり、映画関連イベントの企画・運営も行っている。