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世界史の教科書では読めない、“英雄”の裏の顔・・ 映画『ナポレオン』が描いた、愛と孤独と承認欲求[レビュー]

英雄の素顔を、実力派たちが描き上げる FILMS/TV SERIES
英雄の素顔を、実力派たちが描き上げる

12月1日(金)、映画『ナポレオン』が日本全国の映画館で公開となった。

この記事では、リドリー・スコット監督ホアキン・フェニックスの最新作である『ナポレオン』をレビューする。

【動画】映画『ナポレオン』予告編 12月1日(金)公開

映画『ナポレオン』概要

1789年、フランス革命――。神経質で冷淡でありながら、天才的な軍事戦略で皇帝にまで上り詰めた英雄ナポレオン。 最愛の妻ジョゼフィーヌとの奇妙な愛憎関係の中で、フランスの最高権力を手に、何十万人の命を奪う幾多の戦争を仕掛けていく。冷酷非道かつ怪物的カリスマ性をもって、ヨーロッパ大陸を次々と勢力下に収めていくナポレオン。 フランスを<守る>ための戦いが、いつしか侵略、そして<征服>へと向かっていく――。 彼を駆り立てたものは、一体何だったのか?

巨匠リドリー・スコット監督と『ジョーカー』のアカデミー賞®俳優ホアキン・フェニックスが、『グラディエーター』以来の再タッグで挑むスペクタクル超大作!(公式HPより)

複雑な人物像を演じぬいたホアキン・フェニックス

周囲を恐れさせるほどの強さと、すぐにでも崩れ落ちてしまいそうな弱さ。他の追随を許さない圧倒的な自信と、何を得ても拭い去れない孤独。誰もに認められるカリスマ性と、誰も止められない狂気。それらが1人の人間の中に同時に存在し続ける、“ナポレオン・ボナパルト”という複雑な人物像を、完ぺきに演じきってしまったホアキン・フェニックスには、改めて驚愕させられた。

今も堂々たる肖像画でよく知られるナポレオン。軍師としても天才的であった反面、精神的な弱さや異様な執着心によって“病んでいた”ともいえるナポレオンの役に、ホアキンほどぴったりハマる俳優が他にいるだろうか。

リドリー・スコット監督からも「ホアキンは顔もナポレオンに似てるしね」とお墨付きをもらっているとおり、彼はナポレオンを完全に我がものとしていた。

複雑なナポレオン像を演じきったホアキン・フェニックス

複雑なナポレオン像を演じきったホアキン・フェニックス

先日公開されたノルウェー映画『シック・オブ・マイセルフ(2022)』を観た際、同作に関する“承認欲求モンスターを描く現代の寓話”という表現にはしっくり来たものだが、承認欲求という欲望は何も最近生まれたわけではない。“承認欲求モンスター”はInstagramやTikTokといったソーシャルメディアが発展したことによって世界的に目立つようになってきただけで、いつの時代にも存在していたはず。そう今作で改めて気づかされた。

今作のナポレオンはどれだけの声援を浴びてもたった一人に認められなければ沈み込んでしまう、常に承認欲求と愛への渇望にあふれた不安定な人間像を見せていた。

ちなみにリドリー・スコット監督は『グラディエーター(2000)』でもホアキン・フェニックスをキャスティングしており、同作のホアキンも非常に強く(人を苛立たせる悪役として)印象を残している。

“矛盾の塊”を演じたヴァネッサ・カービー

圧倒的な印象を残したのはナポレオン役のホアキン・フェニックスだけではない。今作でもう一人注目すべきなのが、ジョゼフィーヌ役のヴァネッサ・カービーだ。

ナポレオンの愛憎混じり合う感情の塊を一身に受け、自身もまたナポレオンを激しく愛し、ナポレオンに激しくぶつかった女性ジョゼフィーヌを演じたヴァネッサ。『ナポレオン』は彼女の演技・美貌・存在感も、100%引き出した作品だと感じた。

ヴァネッサ・カービー演じるジョゼフィーヌ

ヴァネッサ・カービー演じるジョゼフィーヌ

ジョゼフィーヌもただナポレオンを愛し愛されたような単純な女性ではなく、彼女は彼女で非常に複雑に、何層もの感情が絡まったような人物。

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE(2023)』『ワイルド・スピード/スーパーコンボ(2019)』といったハデなアクション映画に出演してきたイメージも強いヴァネッサ・カービーだが、ヴァネッサには『私という名のパズル(2020)』でアカデミー主演女優賞にノミネートされた経験もある演技派女優という顔もある。

『ナポレオン』のジョゼフィーヌ役では、その実力が今作ではいかんなく発揮されているといえよう。

世界史の教科書では読めない、恐怖と愛と孤独

リドリー・スコット監督といえば、過去からこだわってきた“戦争”シーン(『ブラックホーク・ダウン(2001)』など)や、時代背景を突き詰めた荘厳な撮影(『最後の決闘裁判(2021)』など)も特徴。

「できる限り本物で撮った」という戦争の撮影はやはり圧巻で、映像技術で補われた馬のケガ描写なども伴って、観客にリアルな恐怖・狂気・痛みの世界を見せつけてくる。

次々に命が奪われていく戦場の狂気

次々に命が奪われていく戦場の狂気

そんな迫力の戦闘スペクタクルを展開し、実際の歴史イベントも着実になぞっていく今作だが、ただイベントをなぞる叙事詩ではなく、確実に“1人の人間の物語”としてナポレオンの懐に飛び込んでいるところが今作の魅力だろう。

シンプルイズベストな『ナポレオン』というタイトルは、ナポレオンという“人間”を観察した今作という意味でぴったりのタイトルなのだが、解釈しようによって“シンプルな伝記映画”と思われて敷居が高くなってしまいそうなのが心配だ。

歴史をもし知らなかったとしても味わえるドラマ映画に仕上がっているため、歴史映画・伝記映画と思って敬遠せずに、この注目作を観に映画館に足を運んでいただければ幸いだ。

学校で読む世界史の教科書では絶対にわからない、英雄/鬼の物語、『ナポレオン』は本日12月1日(金)から日本全国の映画館で公開。

映画『ナポレオン』作品情報

■タイトル:『ナポレオン』
■英題:Napoleon
■製作年:2023年
■日本公開:2023年12月1日(金)全国の映画館で公開
■US公開日:2023年11月22日
■監督:リドリー・スコット(『グラディエーター』『オデッセイ』)
■脚本:デヴィッド・スカルパ(『ゲティ家の身代金』)
■出演:ホアキン・フェニックス(『ジョーカー』『グラディエーター』)、ヴァネッサ・カービー(『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』)、タハール・ラヒム(『モーリタニアン 黒塗りの記録』)、ルパート・エヴェレット(『アナザー・カントリー』)
■オフィシャルサイト&SNS
・オフィシャルサイト:www.napoleon-movie.jp
・オフィシャルTwitter:@sonypicseiga
・ハッシュタグ:#映画ナポレオン
・ソニー・ピクチャーズ映画公式Instagram:@sonypicseiga
・ソニー・ピクチャーズ映画公式TikTok:@sonypicseiga

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