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アリ・アスター監督「僕にとって家族とは“終わりのない義務感”」『ボーはおそれている』来日イベントにて、ゴア描写へのこだわりなども告白! [イベントレポート・写真あり]

アリ・アスター監督が観客の質問にどんどん答える!(ポスター:© 2023 Mommy Knows Best LLC, UAAP LLC and IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.) EVENTS
アリ・アスター監督が観客の質問にどんどん答える!(ポスター:© 2023 Mommy Knows Best LLC, UAAP LLC and IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.)

アリ・アスター監督(『ヘレディタリー 継承』『ミッドサマー』)による最新作『ボーはおそれている』が2024年2月16日より公開。

12月20日(水)今作の試写会後、来日したアスター監督本人がイベントに登壇。Q&Aコーナーおよびフォトセッションが行われた。

不幸の連続に見舞われる、うだつの上がらない中年男性を描く『ボーはおそれている』は、ホアキン・フェニックス主演の、ダークでシュールなホラー・コメディ映画。独特の作風に衝撃を食らった上映会場は、感動と驚愕と疲弊と笑いとが入り混じったような余韻の中にアスター監督を迎え入れた。

拍手に迎えられ登場したアスター監督は「トイレに行く時間は大丈夫?上映時間が長くてごめんね(笑)でも気に入ってくれたなら嬉しいな」と、3時間近い上映時間を気にしながらあいさつ。

ポスターの横に登壇してきたアリ・アスター監督

ポスターの横に登壇してきたアリ・アスター監督

「日本の方々は今作をより理解してくれると思う」

続けてアスター監督は「この映画は4月にアメリカで公開されてから長旅を経て、日本が今作での最後の訪問のはずだ。日本にこの作品を持って来れたのは感慨深いよ。なぜかって、僕は日本が大好きだし、日本の方々は他の国よりもこの映画を理解してくれるんじゃないかと思ってるんだ。どうかな」と日本で今作を上映することの特別さを語りながら会場に問いかけ、会場も拍手で答えた。

今回が日本のプロモーションでの最後の登壇であるアスターは、来日の感想を聞かれ、「日本での時間はすばらしかったよ。2回目の来日だけど、日本は世界でも特に僕のお気に入りの国だ」と日本への愛を明かす。

「前回は東京で滞在してから京都で数日間過ごしたんだけど、今回はもう少し長くいた。最初は京都、次に直島に行って、その後富士山へ。富士山にいたのは1日だったから、登山の願いは叶わなかったけどね。そして今、1週間くらい東京で過ごしている。本当にすばらしい時間を過ごさせてもらったよ」と、アスターは今回の来日を大いに満喫したようだ。

「不安を抱えた男のコメディ」

その後はアスター監督が観客からの質問に答えていくことに。

観客の質問にまっすぐ答えていくアスター監督

観客の質問にまっすぐ答えていくアスター監督

これまで長編を3作手がけたアスター監督は、まず脚本を作るプロセスについて「断片的なイメージから周辺テーマを足していくのか、テーマがあってから脚本を作っていくのか」と尋ねられた。

彼は「作品によってアプローチは違うけど、今回に関しては、『不安』や『優柔不断』を描いてみたいという思いから始まったんだ。最初に思い浮かんだのは、『行きたくない旅に行かなければならない男が、カギを扉に差したまま、フロスを忘れたことを思い出して回収に戻り、玄関に戻るとカギも荷物も消えている』という(冒頭の)シーン。僕は『不安を抱えた男のコメディ』を描く良い出発点だと感じたんだ」と、冒頭のシーンが思い浮かんだことをきっかけに“不安のコメディ”が作られたことを説明。

続けて「イメージがパッと浮かんで、それをどう脚本に落とし込むかを考えたりすることもあるけど、今作に関しては『こういうバカげたトーンでいこう』というアイデアに導かれて作ったよ」と、作品の空気感が先行してできていったと明かした。

監督といえば「家族」や「死体描写」!

「監督にとって家族とは何か」との質問に対しては、「尻の中の痛みみたいな…なんというか『終わりのない義務感』みたいなものかな」と苦笑い。さすがアスター監督といった回答に客席からは笑いが漏れた。

次の質問は「(過去の作品も含めて)クレイジーな死体描写に予算をかけていると思うが、あのような突拍子のないアイデアはどこから生まれるのか。アスター監督が見たいものとして作っているのか」というもの。

「そうだね…死体が好きだし、どんな斬新で面白い方法で死体を見せようかと考えるのも大好きなんだ。なぜかはわからないけどね(笑)」と監督らしい回答で笑顔を見せる。

作風と屈託のない笑顔のギャップも監督の魅力

作風と屈託のない笑顔のギャップも監督の魅力

さらに「あとよく言われるのは、『(監督の映画では)よく首が飛んだり頭が潰れたりするね』ってこと。頭部の破壊ってすごく満足感があるんだよ」「実際、これまでの3作で、毎回僕は新たな方法で頭部を破壊(※1)してるよね。どんどん思いつくから、頭部の破壊方法はネタ切れになる気がしないよ。いつもやらせてもらえてありがたいね(笑)」と、“頭部の損壊”が特に好みであることを楽しそうに説明するアスターだった。

※1:監督の過去作『ヘレディタリー 継承』では交通事故により、『ミッドサマー』では民族の儀式によって人間の頭部が破壊されている。

こだわられた劇中のアニメーション

今度は劇中に登場するアニメーションに話が及ぶ。アニメーションを手がけたのは、『オオカミの家』の監督コンビ、クリストーバル・レオンとホアキン・コシーニャ(※2)だ。

※2:2023年に日本で『オオカミの家』が公開された際に同時上映された短編アニメ『骨』で、アスター監督はレオン&コシーニャ監督コンビとコラボレーションもしている。

「当初は劇中の舞台劇でまとめようと思っていたけど、全部のセットを作るには予算が足りないことが明らかで、『どうやらアニメーションが必要だな』と思った」「そこで僕は『よし、じゃあ半分舞台じかけ/半分アニメにしよう』と決めたんだ。その時僕は『オオカミの家』という唯一無二の傑作を思い出し、ホアキン・コシーニャとクリストーバル・レオンに連絡を取った」と、2人に共同作業を持ちかけた流れを解説。

アスターはコシーニャらの苦労を想像し、「当時すでにこのシーンのストーリーボードができていたから、彼ら自身が映画監督であることを考えると、きっと最初から制約がある状態での仕事は窮屈でフラストレーションの溜まるものだったと思う。それでも彼らはプロジェクトに参加してくれたんだ」「作業は、彼らが僕に絵やアイデアを送ってきて、僕がメモを送り返すという面白いプロセスで行ったよ。なぜなら、単にアニメーションが美しければいいわけではなく、このシーンが映画の他の部分や、映画自体の作風と調和していることも重要だったからね。大量のメモが送られてきて彼らも狂ってしまいそうだったと思うけど、諦めて協力してくれたよ」と、こだわり抜いた劇場シーンの制作を振り返った。

アニメ映画にも挑戦意欲が!

アニメ映画にも挑戦意欲が!

そして「完成した今、彼らもこのシーンを誇りに思ってくれているはずだよ。でも本当に学びになるプロセスだった。今では、いつかアニメーション映画を作りたいとも思っているよ。とてもとても楽しい体験だったけど、とてもとても長い道のりだったな」と、アスターは改めて苦労を噛み締めつつ、今後の“アニメ映画制作”への熱意も明かした。

“無理にゴア描写を入れることはない”というスタンス

大阪から来たというファンから「監督のゴア表現が大好きだけど、今回は控えめだった」「破壊された頭部も映らないし、必要なかったということか」と指摘されたアスターは、「大阪からはるばるありがとう。ゴア描写と僕の映画を気に入ってくれていて嬉しいよ。でも今回はそんなにゴア描写がなくてガッカリさせちゃったね」と、ハデなゴア表現がなかったことを謝りつつ、説明を続けた。

彼は「そうだな、『潰れた頭部や部屋中に飛び散った脳みそを見せることもできたんじゃないか』という考えは理解できるよ。でも今作で観客は“ボーの視点”を共有されていなければならない。ボーの頭の中にあるものを観客は見るんだ。だから、本当に残念だったけど、損壊した頭部を描くための十分な言い訳が存在しなかった。でも君の不満には賛成だよ」と、映画の描き方という観点から余計なゴア描写を撮ることができなかったことを説明した上で、過激な描写を扱えなかったことをファンと同じように残念がっていた。

さらに“風呂の天井にいた男”について、アスターは「彼は誰かに見つかるんじゃないかと怯えながら、約2時間もそこにいたんだよ。本当に良い運動だろうけど、すごくすごく怖い状況だっただろうね」と裏設定を明かしていた。

日本での大ヒットを願って…

「ボー」のうちわを持った観客たちとも撮影

「ボー」のうちわを持った観客たちとも撮影

イベント終盤、アスター監督は「ここにいる日本の皆さんにだけ」と、他の国でも明かしていない今作の隠れネタを明かしてくれたのだが、それは映画の公開まで口外禁止だそうだ。

最後に監督は「今作を気に入ってくれたなら、友達に『絶対に観た方がいい』って伝えてね。もし気に入らなかったら…気に入らなかったことは忘れて『絶対に観た方がいい』って伝えてほしいな」と笑い、日本での今作のヒットを願った。

アリ・アスター監督とA24による最新作『ボーはおそれている』は2024年2月16日より日本公開。

【動画】『ボーはおそれている』予告編

 

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