COLUMNSFILMS/TV SERIES

ペン・バッジリーの心優しい(?)ストーカーが一目惚れした金髪美女の正体は?一筋縄では行かない親友ピーチをシェイ・ミッチェルが演じる「You」はデジタル時代のスリラー

奥デート中のベック(ライル・右)の諜報活動実施中のジョー(バッジリー)。背景に溶け込む技はスパイ並だ。奥デート中のベック(ライル・右)の諜報活動実施中のジョー(バッジリー)。背景に溶け込む技はスパイ並だ。© Courtesy of Lifetime Copyright 2018 COLUMNS
奥デート中のベック(ライル・右)の諜報活動実施中のジョー(バッジリー)。背景に溶け込む技はスパイ並だ。奥デート中のベック(ライル・右)の諜報活動実施中のジョー(バッジリー)。背景に溶け込む技はスパイ並だ。© Courtesy of Lifetime Copyright 2018

今秋の期待できる新ドラマ「You」は、9月9日からLifetime局で放送されています。私の大好きなグレッグ・バーランティ(現在ハリウッドでヒットメーカーの一人として君臨する)が初めて書き下ろすスリラーとして去年から注目しており、放送を今か今かと待っていました。原作は同名の「You」で、元評論家仲間だったキャロリン・キプニスの小説二巻が土台になっており、テレビシリーズはバーランティとセラ・ギンブルの共作です。当然、キプニスもコンサルタントとして、協力しています。シーズン2が確約されており、第二巻同様、舞台はハリウッドに移ります。

プレミア日前に、公開した英文評はこちらをご覧ください。

去る7月25日に開催された「You」のパネルインタビューには、バーランティ、ギンブル、キプニス、制作総指揮のサラ・シェクター、キャストのペン・バッジリー、エリザベス・ライル、シェイ・ミッチェル、ジョン・ステイモス4人が参加しました。評論家に送られて来た5話にステイモスは登場していませんでしたが、ライルが演じるベックのセラピスト役です。

初っ端からバッジリーに、「#MeToo運動旋風が巻き起こっているこのご時世に、紳士の皮を着たストーカーを演じることに抵抗はありませんか?」と質問が出ました。「悩みましたよ。でも、グレッグにオーディションを受けた俳優の中で、こんなに迷った人はいなかった。だからこそ、適役だと思うと説得されてしまって….視聴者の反応に興味津々」と答えました。昨今矢面に立っている白人男の犯罪者がいかに叩かれるのか?どのような判決が下るのかを待っているような発言でした。

実際にシリーズが始まる前に5話まで観ましたが、日本で報じられているような「サイコホラー」でも、「バッジリーの怪演」でもありません。ストーカーと言うからには、独占欲が強くて、ねちっこいイメージを描いていましたが、バッジリーが演じるジョー・ゴールドバーグは、控え目でさらっとした好青年なのです。勿論、見た目だけでは、ストーカーかどうかなどわかりませんが、そこがこのドラマの真髄なのです。人に危害を加えそうな、いかにも怪しそうな男ではないから、余計に怖いのです。又、ストーカーの視点で描かれていて、時折ジョーが見せる弱者への思いやりを垣間見ると、ストーカーも人間なんだと思うから不思議です。バッジリー曰く、「ジョーの好奇心と繊細さに焦点を当てて演じた。ストーカーにも人間らしい部分は沢山あるからね。」

© Courtesy of Lifetime Copyright 2018

(左)ジョー(バッジリー)は、アパートの隣人パコ(ルカ・パドヴァン)には優しい。大人に心身共に傷めつけられた自分を見ているようで、不憫に思い、本を貸したり、サンドイッチを振る舞ったりする。

ある日ジョーが働くNYの小さな書店に、金髪美女グエネヴィヤ・ベック(エリザベス・ライル)が姿を現わします。一目惚れしたジョーは、自称ベック(名前が余りにも古臭いし、発音しにくい為)の一挙一動を観察します。そこからジョーの行動とは裏腹に、包み隠さぬ心の内がボイスオーバーで流れるので、視聴者はついつい引き込まれて行きます。早速、ネットでベックを検索したところ、情報は本人が掲載したものや、ソーシャルメディアに満載されていて、貧乏院生で作家志望、ヨガのインストラクターと教員補助をしていることなどが判明、しかもアパートの住所までいとも簡単に手に入ります。その日から、ジョーはアパートの開け放された窓越しにベックの一挙一動を見守り、行動範囲や友達の輪の諜報活動を開始します。ひょんなことからベックの携帯を入手したジョーは、サイバーストーカーになり、Twitterやメールまで手に入れ、ベックの心理状況を逐一知るようになります。偶然の出会いやここぞとばかりに救いの手を差し伸べる騎士のようなジョーは、巧妙な諜報活動の賜物です。裏工作、小細工で「この人しかいない!」と思わせる演出なのです。ストーカーは、拒絶されることを何よりも恐れていますから、女性に運命の出逢いだと信じさせる必要があるのです。本当に、ご苦労様なことです。

© Courtesy of Lifetime Copyright 2018

ベック(ライル)を見るジョー(バッジリー)の目は、正に餌食に忍び寄る獣のようだ。

デジタル時代のスリラーは、「好きな人を獲得する為、どこまでやりますか?」と問いかけます。ジョーは、ダメ男に惚れる悪い癖(=自尊心の欠如)のあるベックに、僕しかいませんよ!と証明する必要があります。故に、人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られて死んでしまえ!と言わんばかりに、邪魔者は密かに、冷静沈着に消去して行くのです。

但し、ベックの親友だと主張する救世主願望満々のピーチ・サリンジャー(シェイ・ミッチェル)は、一筋縄では行きません。JDサリンジャーの孫である富と名声を餌にベックを独り占めしたいようで、言ってみればジョーと同類項なのです。教養や家柄を笠に着た、鼻持ちならぬ手強い競争相手です。

© Courtesy of Lifetime Copyright 2018

作家志望のベック(ライル)に出版業界のエージェントを紹介するピーチ(ミッチェル)の本音は?

元カノの謎の失踪、オーナーが一切書店に顔を出さないなど、邪魔者消去は今に始まった事ではないようです。しかも、一目惚れの相手が毎晩男を取っ替え引っ替えしているのを冷静に見ているジョーは、彼女にしたいと言うより、獲物を狙って忍び寄る獣と餌食の関係に見えて仕方がありません。ジョーは餌食に焦点を絞った訳ですが、NYのインテリ層にアピールするように巧みに作り上げたヴァーチャルイメージと現実のベックは全く別人であることが次第に判明します。体裁ばかり繕って、見掛け倒しのヴァーチャルイメージを公開しているのです。相手によって、色を変えるカメレオンのようなベックは、自分探しの旅に出たばかりで、どんな人間になりたいか?など考えたこともないのでしょう。

© Courtesy of Lifetime Copyright 2018

左からリン(ニコール・カン)、ピーチ(ミッチェル)、アニカ(キャスリン・ギャラガー)、ベック(ライル)は仲良し4人組?

デジタル時代のスリラー「You」は、男と女の世渡り術がいかに違うか?を描きます。昔々、出会い系サイトに登録して、ゾッとするようなメールが来たり、待ち合わせ場所で誰かに見張られているような怖い思いをしたことがあります。あれ以来、ソーシャルメディアには一切足跡を残さないように、個人情報を公表しないように努めてきました。私生活でも、私のエネルギーを無駄なこと、無意味な人間関係に費やさず、できるだけシンプルに生きて行きたいからです。そんな時に、今この瞬間にどこで何をして、何を食べているか?誰とお茶してるか?など、世界中に配信する必要など、どこにもありません。デジタル時代に辛うじてついて行ってはいますが、私の存在など誰も知らなくても良い古風な人間です。

© Courtesy of Lifetime Copyright 2018

楽しそうに手を繋いで、散策するジョー(バッジリー)とベック(ライル)。絵になるカップル?

「You」は女の恐怖心を揺さぶるドラマであることに間違いはありません。「好きな人を獲得する為、どこまでやりますか?」という問いかけに、ジョーがさらっとやってのけること、そしてその行為を正当化するプロセスを聞いてぞっとしない女性はいないでしょう。デジタル時代に恋人を探す必要がないことに大いに感謝しながら、ドラマを鑑賞しています。現実も決して住み易い世の中ではありませんが、常に誰かに見てもらっていくらのデジタル世界で公私とも生きていかなければならないデジタルっ子の皆さん、大変ですね!?

tvgrooveをフォロー!