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「Couples Therapy2」は、コロナ禍の圧力釜の中で「人類は運命共同体」を証明 

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「人類は運命共同体」を具現化することに成功した「Couples Therapy」を率いるオーナ・グラルニク心理学博士。パンデミックの異常事態を少しでも明るくする為か、服装もカラフルになった。

3月5日、「待ってました!ドキュメンタリー『Couples Therapy』シーズン2と11年振りに返り咲くドラマ『イン・トリートメント』シーズン4」で新シーズンの再開をお知らせした「Couples Therapy 2」が、4月18日に始まり、現在進行中です。幸い、評論家は放送開始前に全9話を観ることができたので、夫婦のカウンセリング模様を綴ったテレビ史上初のドキュメンタリーのシーズン2の出来栄えをご報告します。

英文評はこちら。

セラピーの威力を映像化できるだろうか?録画されていると承知していても、参加者は心を開いて、地を曝け出し、ありのままでいられるか等、数々の疑問を映像化する、飽くまでも「実験」として始まった番組です。座礁に乗り上げた結婚号を導く北極星役を引き受けたオーナ・グラルニク心理学博士が、画期的なドキュメンタリー・シリーズの成功の鍵を握っていました。

2月に開催されたバーチャル・プレスツアーの席で、グラルニク先生は「この番組に参加してセラピストとして成長しました」と制作陣に感謝の意を表しました。映画学科の学士号を取得した先生ですが、四六時中ドキュメンタリー制作にどっぷり浸かってみて、「心理治療を施した後に録画を観て、制作陣(特に監督)と話し合い、次週には参加者が宿題の結果報告にやって来るサイクルを繰り返す訳ですが、ここはこう言った方が良かったかな?と反省したり、理論に結びつけて考えてみたり、教室で学生と討論したり、実践と比較したり. . .お陰で、セラピストとして奥が深くなったように思います」と改めて映像の威力を語りました。通常は、1回きりの心理治療を繰り返し研究分析する事で、自分の言葉がどのように受け取られているか、参加者の反応は?等々を確認できるトレーニングビデオ効果があるからです。

 

結婚号が座礁に乗り上げ、二進も三進も行かなくなった4組の夫婦がセラピスト/心理分析医に通う20週間を記録したシーズン1は、11週目に脱落したアニー&マウ以外は、それなりに相互理解を深め、夫婦関係を修復・改善しました。但し、親からどのような世界観を叩き込まれたか?トラウマや心の傷が現在の人間関係をいかに左右しているか?など、因果関係を探る心理分析は(編集時にほとんどカットされたのだろうとは思っていましたが)さらっと流した感がありました。離婚後、自分探しの本を片っ端から読み漁り、セラピーに通って心理分析に取り組んでいるうちに、心理分析が趣味になった私には、すれ違いや意見の対立の原因を探らないの?と少々物足りないシーズン1でした。

シーズン2は、1)妻は今時珍しい専業主婦志望+のらりくらり生きる夫=結婚歴11年の正統派ユダヤ教徒夫婦、2)デキちゃった同棲を始めたものの、毎日の生活に追われて心の繋がりがどんどん薄れて行く同棲2年の男女、3)アルコール依存症を乗り越えてはみたものの、相手を気遣う余り関係がギクシャクし始めたゲイカップル(同棲3年)の三隻の結婚号が荒波に揉まれて入港するまでを導く、北極星グラルニク先生2.0を綴ります。

シーズン2に登場する3隻の結婚号も、それぞれ全く異る問題を抱えていますが、2020年全世界を凍結したパンデミックによるロックダウンが生み出した圧力釜状態が、幸せな生活を阻止する各自の自己妨害行為を、益々悪化させている事は誰の目にも明らかでした。仲睦まじく暮らしていた家族でも、一旦ガス抜き用の逃げ場(学校、職場、公園、飲み屋、映画館等々)を奪われると、平常な精神状態を保てなくなります。

撮影開始当初は、通常の心理療法を施していましたが、途中でNYがロックダウンされ、数ヶ月オンラインでセラピーを実施し、コロナ対策を講じて元の事務所セットでの撮影に戻り、完了にこぎ着けました。「カメラが自宅に侵入してきて、参加者同様、何もかも曝け出すことになり、プライバシーの侵害!などと言っていられなくなりました。事務所でクライアントと面会する場合は、セッションが終われば「また来週」とお互いの私生活に戻れますが、ロックダウンのお陰で境界線がなくなり、自然に『We’re all in this together』(=人類は運命共同体)を実行に移すことになりました。」と内情を披露したグラルニク先生2.0。

と言う訳で、シーズン2は、参加カップルの日常を捉えた映像と同時に、グラルニク先生の一家団欒(大学生(?)の娘さんと中学生(?)の息子さん)の映像がふんだんに盛り込まれており、親近感や一体感が漲っています。コロナがもたらした前代未聞の不安/恐怖/ストレスと闘いながら、カップルの関係を修復・改善するという一大目標を目指して闘った「戦友」を観るような気がしました。同様の不安/恐怖/ストレスを1年余り感じていた事もあって、口先だけのスローガンにウンザリしていた私は、これこそ真の「人類は運命共同体」と嬉しくなりました。

 

グラルニク先生の本音を壁の向こうで盗み聞きしているような快感を覚えた、臨床指導医バージニア・ゴールドナー先生との歯に衣着せぬ会話は、グラルニク先生の人間味がひしひしと伝わってくるシーズン1のハイライト場面でした。制作側にとっても、貴重な情報が詰まっているシーンだった為、今シーズンは、進行エンジンとしてふんだんに組み込まれています。ドラマのように起承転結を追えるような工夫が凝らされています。

グラルニク先生2.0が、セッション中に感じた気がかりなこと、焼け石に水?(今シーズンは、この穏やかなセラピストの怒りが爆発するシーンまで登場!)、参加者に過去の開示をする勇気があるだろうか?等を語ります。ゴールドナー先生は、何故そのような行動に出たか?何が原因で、二人の関係をなし崩しにするのか?等、「無意識反応」をどう処理するべきかプロならではの、洞察を提案します。しかも、ゴールドナー先生の提案をグラルニク先生2.0が、相談者の気持ちに寄り添いながら導いていく様子を見る事ができます。幼い頃、両親からどのような世界観を植え付けられ、両親の行動や何気無い言葉に傷ついたから今があるのかを探る、過去の開示から始めなければ、何が連れ合いとの関係を阻止/妨害しているかが見えてこないからです。

 

 

人間は誰でも、両親を「お手本」にして大人になります。シーズン1では、息子さんと一緒の映像を垣間見て、離婚したシングルマザーかな?と想像していたグラルニク先生でした。今シーズンは、自宅での家族団欒や、両親の不仲に端を発して、母親の過去を知り、救世主の役目を引き受けた自らの誤ちを振り返るグラルニク先生2.0のナレーションが、番組の趣旨を語ります。ぼんやりとはしていますが、先生自身の過去の開示を聞くと、言葉の端々に読み取れる共感は、波瀾万丈の人生に根ざしていると察しがつきます。

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