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英国王室激動の1990年代を描く「ザ・クラウン5」と、女王のお気に入りから欲望三銃士に転落!お先真っ暗の放蕩息子アンドルー王子のドキュメンタリー「Prince Andrew: Banished」

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アンドルー王子(左)と当時17歳のヴァージニア・ロバーツ(旧姓)が一緒に写った写真は、2016年に原告ヴァージニア・ロバーツ・ジュフリーが王子から性的暴行を受けた証拠として公表。右後方に、仲を取り持ったギレーヌ・マックスウェルも写っている。Photo by Peacock

ネットフリックスの世界的大ヒット作「ザ・クラウン5」が、いよいよ11月9日に、配信開始となります。

 

毎シーズン、フィクションか、ノンフィクション(実際に起きた事件やスキャンダルを織り交ぜていることから事実だと思う人が続出)かが物議を醸してきましたが、まだ視聴者の記憶に新しい激動の1990年代を描く11月公開のシーズン5に、公に物申す人が登場しました。女王の逝去間もない時期に、余りにも無神経でデリカシーに欠けると、「Queen Victoria至上の恋」(1997年)や「ヴィクトリア女王 最期の秘密」(2017年)でヴィクトリア女王を演じた女優ジュディ・デンチが、「下品な扇情主義」ドラマの各逸話の冒頭にディスクレーマー(免責条項)を記載するべきだと「タイムズ」紙で非難しました。

上の予告編には、ディスクレーマーは見られませんが、ネットフリックスは「シーズン5は、実際の出来事を多少脚色してドラマ化しました」と配信開始時には但し書きを付けると発表しています。王室にとって忘れられない激動の10年間に、ロイヤルファミリーが王室を守るために、何をどう犠牲にせざるを得なかったかを描きます。更に、この激動の10年は、ジャーナリスト、伝記作家、歴史学者が詳細に調べ上げて記録しており、制作に当たって文書として存在する「歴史的事実」にヒントを得てエリザベス女王の治世と人柄を描いたと発表しています。

シーズン5は、ジョン・メジャーが首相兼保守党党首として権力を握る1990年代前半に始まり、アン王女の離婚、チャールズ皇太子夫妻とアンドルー王子夫妻の別居、ウィンザー城の火事など、女王が「最悪の年」と表現した1992年に英王室に降りかかった悪夢のような出来事を綴り、最終回はパリで起きたダイアナ妃の悲劇で締めくくるものと思われます。

シーズン5は、エリザベス女王役にイメルダ・ストーントン、フィリップ王配役にジョナサン・プライス、チャールズ皇太子役にドミニク・ウェスト、ダイアナ妃役にエリザベス・デビッキ、カミラ・パーカー・ボウルズ役にオリヴィア・ウィリアムズ、アン王女役にクローディア・ハリソン、マーガレット王女役にレスリー・マンヴィルが配役されています。

一方、NBC系列の動画配信サービス会社ピーコックで10月5日より配信されている「Prince Andrew: Banished」は、英国王室の面汚しに成り下がり、チャールズ国王に追放されそうな、お先真っ暗のアンドルー王子の半世紀余りを綴るドキュメンタリーです。エリザベス女王が目に入れても痛くないほど可愛がって甘やかした、次男アンドルー王子の生い立ちからプレイボーイ時代を経て、助平じいさんに成り下がり、何もかも失うまでを王室関係者/報道官/警護官やアンドルー王子の社交界の知人、ジャーナリスト、セクハラを受けた被害者女性らの証言を交えて綴ります。英王室のスキャンダルは今に始まったことではありませんが、謎の成金ジェフリー・エプスタインとギレーヌ・マックスウェルが巧妙に構築した少女売春組織の恩恵に預かり、ヴァージニア・ロバーツ・ジュフリーに数回性的虐待を受けたと訴えられ、民事裁判とは言え被告として裁判に引きずり出されそうになった前代未聞のスキャンダルには、流石のエリザベス女王も、放蕩息子を切り捨てる苦肉の策に出るしかありませんでした。

 

長男チャールズや長女アンとは比べ物にならないほど、女王の寵愛を受けて育ったアンドルー王子は、「ダメ!」という言葉を聞いたことがありません。何を仕出かしても、責任を問われることもなく、厳しい現実に直面したことがないやんちゃ王子は、女王陛下のお膝元でミニ国王扱いされて味を占め、常に脚光を浴びていないと気が済まない、尊大なナルシストに育っていきました。

1982年、フォークランド島を巡ってアルゼンチンに果敢に挑む紛争の第一線で、英国海軍航空隊ヘリコプター・パイロットとして戦い、アンドルー王子は一躍スターダムにのし上がりました。以来、ルックス+英雄崇拝+母親の地位を傘に着て、20代で「好色アンディー」と呼ばれるほど、女優やモデルを引っ換え取っ替えて夜な夜な遊びまくり、正に独身貴族を地で行くプレイボーイ振りを満喫しました。しかし、米国ポルノ女優クー・スタークとの交際を禁じられて仲を割かれ、相思相愛の初恋と同じく、我を通し切れない事もあるという挫折を初体験したに違いありません。

1986年に、ダイアナ王妃の友人セーラ・ファーガソンと結婚し、2女(ベアトリス王女とユージェニー王女)をもうけましたが、問題は夫婦共々、脚光を浴びていないと不安になるタイプだったことです。ヨーク公爵一家の写真を雑誌の表紙に使う版権を売って、ロイヤルファミリーを庶民化し過ぎと王室の顰蹙を買ったり、結婚1年目にして、王子が軍任務で家を空け、留守宅を守る筈の妻ファーギーが、浮気の現場をパパラッチされる等、結婚は10年と持たず、1992年に別居、96年には正式に離婚の運びとなりました。

ファーギーに慰謝料を払うと同時に、幼い頃から慣れ親しんだVIPライフスタイルや地位に伴う役得を維持する為に、アンドルーは常に女王の資産(5億ドル)や年間3千万ドルと言われる不労所得などから、お小遣いをせびって賄おうとしました。ヨーク公爵とは言え、王位継承者以外は(姉アン王女や三男エドワード王子等)、年間35万ドル程の収入しかないので、分相応の慎ましい(?)生活を強いられます。離婚後、アンドルー王子が住んでいたバッキンガム宮殿の古くてむさくるしい中級ホテル並みの狭いアパートや、良い年をした大人が毎晩ベッドの上に並べた50〜60体のクマのぬいぐるみを楽しむ(?)奇癖があり、並べる順番を間違えたスタッフをクビにする程、怒り狂う等が紹介されて、父親になってもやんちゃ王子のまま、全く成長していない事がわかります。22年の軍役を終えた後、アンドルー王子は英国貿易産業省の貿易・投資振興大使に任命され、見本市や国際会議に英国の代表として参加しました。しかし、公務で大使館に宿泊するなど言語道断、アイロン係やお礼状係等10人余りのスタッフを従えて5つ星ホテルに泊まり、どこへ行ってもVIP待遇を要求して関係者から疎まれ、実質的には何の権限もない割に、理不尽な要求ばかりの「扱い難い使い走り」とあなどられました。お国の為、世界中を駆け回って働いているとは建前で、本音は公の立場を利用して、私腹を肥やす事が目的でした。当時の仇名「マイレージ・アンディー」は、金と権力に執着するうとましい存在に成り下がってしまった哀しい事実を物語っています。

 

ギレーヌ・マックスウェルは、どこの馬の骨だかわからない(左後ろ)ジェフリー・エプスタインに、元彼アンドルーを紹介して「箔をつけ」、社交界での地位を確固たるものにした。得体は知れないが、金や自家用ジェットを自由に使わせてくれ、ちやほや持て囃してくれるエプスタインは、アンドルー王子の願っても無い金蔓だった。「欲望三銃士」と言われるのは、乱行にうつつを抜かすために団結した三人組だったから。Photo by Peacock

 

1999年、ギレーヌ・マックスウェル*は、金融アドバイザーとは名ばかり、ゆすりたかりで財を成した詐欺師ジェフリー・エプスタインとアンドルー王子を引き合わせました。内向的で根暗な謎の成金に「箔をつける」のが目的で、王族・貴族・各界の大物が集う社交会への切符として、マックスウェルは、元彼アンドルー王子に白羽の矢を立てました。エプスタインはアンドルー王子が渇望していた、金、力、プライバシー、煌びやかなハイソ生活を提供し、その見返りにどこの馬の骨だかわからないエプスタインは、エリザベス女王の私邸サンドリンガムや夏季の別荘バルモラル城、ウィンザー城での舞踏会への招待状を手に入れました。

*マックスウェルの波瀾万丈の半世紀については、同ピーコックのドキュメンタリー「Epstein’s Shadow: Ghislaine Maxwell」の内容をご紹介した、2021年6月7日の「エプスタイン亡き後、被告ギレーヌ・マックスウェルに世間の目が集まる!」をご覧ください。

アンドルー王子(左)は、エプスタイン(右)が性犯罪で有罪判決を受けた後の2010年、マンハッタンにある自宅に滞在。近くの公園を散歩しながら歓談(?)する二人の親交を証明するのに不可欠となった証拠写真。「デイリー・メール」も、アンドルー王子がエプスタイン宅玄関のドアを少しだけ開いて、若い女性に名残惜しそうに手を振る姿を録画した証拠を発表した。Photo by Peacock

 

類は友を呼ぶとはうまく言ったものです。「欲望三銃士」と呼ばれるエプスタインとアンドルー王子との間をとり持つ糊役がマックスウェルで、三人は金・力・色を求めて性的虐待のネズミ講売春組織に関与していました。「欲望三銃士」の関係は、2014年にエプスタインがフロリダ州ウエスト・パームビーチの売春館で、マックスウェルが調達してきた未成年(18歳以下)少女にマッサージという名の性的虐待を強要した罪で起訴された時に既に発覚していましたが、その時点ではアンドルー王子はクライアント・リストに挙がっていたのみで、確固たる証拠はなく、小児性愛者エプスタインと親交があったのか?という疑惑で終わっています。

その後、疑惑が一大スキャンダルに発展したのは、NYでの追訴公判を控えたエプスタインが、2019年8月に収監先で怪死を遂げた時点だと、ドキュメンタリーは指摘します。ペドファイル(幼児性的虐待者)のネズミ講売春組織構築に尽力した共犯者マックスウェルはどこに雲隠れしたのか?から、世間はアンドルー王子とエプスタインの繋がりは?に目を移したため、エプスタイン死後数週間に渡り、バッキンガム宮殿は王子とエプスタイン被告との関係を全面的に否定する声明を何度も発表しました。11月中旬、アンドルー王子が(止せば良いのに)自ら買ってでたBBCの報道番組「ニュースナイト」インタビューは、濡れ衣を晴らすどころか、墓穴を掘ってダイナマイトを仕込んだ上で飛び込んで自爆したような広報上の自殺行為となりました。その後、アンドルー王子は、ジュフリーの民事訴訟の却下を求めましたが、裁判所が継続を決めたため、2022年1月13日、エリザベス女王は、アンドルー王子の王室の役職や軍役職を剥奪し、民間人として裁判に臨むと発表しました。

結局、今年2月15日、ジュフリーが設立した被害者権利擁護の慈善団体にアンドルー王子が寄付し、ジュフリーが和解金を受け取って訴えを取り下げて、和解に合意しました。示談に持ち込んだ以上、被告王子は自らの罪を認めておらず、今後民事訴訟に引っ張り出されることはないと言うことです。しかし、これで一件落着と言うわけでありません。ドキュメンタリー「Prince Andrew: Banished」は、数億円に上ると憶測されている和解金を、無職無収入のアンドルー王子がどう工面するのか?と問いかけると同時に、今年6月に未成年人身売買に加担した罪で、禁固20年の刑を言い渡されたマックスウェルが減刑を求めて、各界の大物/著名人が名を連ねるクライアント・リスト(トランプ、クリントン、ビル・ゲイツ、トランプ政権時代に見え隠れした悪徳政治家/政府高官/弁護士/ロビイスト、#MeToo運動最盛期に芸能界を追放されたウッディー・アレンやセクハラ・プロデューサー等々)や人身売買の証拠ビデオを提出する可能性が高いと指摘します。来年6月28日まで、アンドルー王子を始めエプスタインの売春組織の常連客は針のむしろに座る思いに違いありません。特権階級の皆さん、そろそろ、年貢の納め時ですよ!

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