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2023年冬のTCAプレスツアー は、身の危険を冒してまで参加する意味がなかった 今夏は バーチャルに戻して欲しい

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MGM+のオリジナルドラマ「A Spy Among Friends」のパネルインタビュー。ロンドンからバーチャルで参加したMI6捜査員役のダミアン・ルイス(左)とKGBの二重スパイ役のガイ・ピアース。身の危険を冒して参加したのに、主演の役者2人は衛星中継とは情けない! Courtesy of MGM+

2020年冬のTCAプレスツアー以降、コロナ禍のロックダウン真っ最中の20年夏からドタキャンされた22年夏のプレスツアーまで、計5回をバーチャルで実施してきましたが、今年は1月9日から19日まで10日間に渡って、パサデナにあるランガム・ハンティントン(ホテル)で開催されました。

1月9日     Paramount+
1月10日  AMC、MGM+(元EPIXプレミアケーブル局)
1月11日  ABC、Freeform、Disney Television Studios
1月12日  FX
1月13日  Disney+、ナショナジオ
1月14日  Hulu、オニックス
1月15日  NBCユニバーサル
1月16~17日  PBS公共放送
1月18日  Apple TV+

参加登録する際には、コロナ対策を施して万全を期して執り行うので、参加者側(TCA会員)は新型コロナワクチン接種証明書(1〜2回目接種済証+3〜5回目接種済証)の提出を第一必須条件とし、以下会場での常時マスク着用、マスクの種類限定等の数々の注意事項を守る事が義務化されました。そして登録後も、同一の注意事項が再三(うるさい程と言う意味)送られてきました。

ストリーミング配信会社の新ドラマの日本語コーチをした昨夏の超厳しいコロナ感染対策がまだ記憶に新しい私は、地上波局/ケーブル局/配信会社側も、検査に検査を重ねて、誰もが安心して参加できるコロナ陰性のバブルを人工的に創り出してくれるものと期待して出かけたのですが. . .

接種証明書を携帯、マスクとシールド着用で到着した大雨のツアー初日。証明書を求められる訳でもなく、コロナ検査官が1)過去3日間にコロナの症状があったか?2)発病している人と近距離で15分以上会話したか?3)人が大勢集まるイベントに参加したか?を確かめる訳でもありません。会場が消毒されているのかも不明で、マスク着用の注意事項をおさらいする訳でもありません。陽性が出て撮影を中断せざるを得なくなる状況を回避しようと万全を尽くす、撮影所並みの神経ピリピリ感は皆無です。

Paramount+のコロナ対策注意事項に書かれていた通りに接種証明書を見せると「そんなの不要!」と笑われ、(笑い事ではないんですが. . .)従来と何の変わりもないチェックインを済ませて、会場に足を踏み入れて目にしたのは、これまでと何の変わりもない会場設定でした。身体的距離も1m以下で、どこが万全を期したコロナ対策なのと憮然!?としました。少なくとも、ロックダウン以降、銀行/市役所/病院/郵便局などの公共施設に常設されているプラスチック保護バリアシールドを期待していた私は、以前と全く同じ会場に、マスク着用して座っているだけが、万全のコロナ対策なの?と呆れてものが言えません。ロックダウン以降、外出は必要最小限に抑えていた超怖がりの私は、コロナ陰性のバブルを創り出すことに全力を尽くす撮影所なら安心と言われて、日本語コーチの仕事を引き受けましたが、何回か陽性が出たと警報が送られてきてびっくり!あれ程、ピリピリしていても、職場を出てからの撮影班の行動をコントロールすることはできません。又、昨年、2度ロサンゼルス空港に行かざるを得なかった時も、人のいない場所を探すのに苦労し、私のスペースにマスクなしでズカズカと侵入してくる人達に脅威を感じました。極力家に籠っていた私にとって、実に3年ぶりに復帰した狭い空間に大勢が集うプレスツアーと言う名の共同生活は、何もかもが初体験だったこともあって、おっかなびっくりの連続でした。

こうして始まった23年冬のTCAプレスツアーは、毎日、危険が一杯!無神経・無頓着・無用心な人達にムカつき、神経ピリピリ、危険を感じたら逃げの一手で対処するしかありません。朝食は一番乗りして人が群れ始める頃にはさっさと撤退することで、マスクを外したままのテーブルでの会話を避け、何とか感染リスクを回避することができましたが、問題は昼食です。特に、ツアー初日から大雨に見舞われ、外で昼食を楽しめる快晴の日が1日だけしかありませんでした。鮨詰めとまでは言いませんが、狭い場所に押し込められて、マスクを外しての飲食が食後の長〜い会話に繋がるからです。大人数の飲食の場では、当然、大声で会話をせざるを得ず、飛沫による感染リスクが高まることが目に見えているだけに、(失礼は覚悟で)そそくさと食べて席を立つしかありません。人口密度の低い場所が見当たらない場合は、午後の部を諦めて帰宅するしかありませんし、どうしても参加したいと思うパネルインタビューがない日は、さぼって身を守るしかありません。又、いくらTCA会員が感染リスクを下げる対策を講じても、パパラッチまがいのカメラマンの無神経極まりない行動(望遠レンズを武器にするのはやめて!)や、仕事中は喋らないので、飛沫が飛ばないと高を括ってかマスクを着用しない速記者が私の隣に座っているのです。しかも、身体的距離は1mにも及びません。舞台かぶり付きに座っているから、カメラマンや速記者の無謀な行為を体験するのですから、席を変えれば良いのですが、私の貴重な席を譲るくらいなら、逃げ帰る方法を選びました。プレスツアーを開催するべきかどうかアンケートをとった時に、TCA会員以外の無謀な行為が予想できると訴えたのですが、馬の耳に念仏だったようです。

 

アレクザンドラ・ダダリオ(左から4人目)主演の「The Mayfair Witches」のパネルインタビュー。昨夏にバーチャルでも実施したにも関わらず、再度プレスツアーに登場したのは、AMC局が原作者アン・ライス・ユニバース(フランチャイズ)の一環として力を入れているからだ。魔女の家系を引き継ぐ脳外科医が主人公のドラマ。Courtesy of AMC

 

今回のプレスツアーでは73本の新・継続番組(ドラマ、コメディー、ドキュメンタリー、リアリティー等)のパネルインタビューが実施されましたが、パネルインタビュー終了時までいたのは、初日だけです。従来、パネルインタビュー後に、メディア・スクラム(日本語で言う集団過熱取材という意味ではなく、ぶら下がり取材のイメージ)でキャストや制作陣に直接話をする機会が設けられていました。メディア大手でない限り、プレスツアーでの個人的インタビューはさせてもらえないので、スクラムが終わるのを待って、タレント本人かマネージャーにインタビューを申し込み、後日取材するのが私の常套手段だったのですが、お目当のキャストや制作陣に直接アプローチできないとなると、身の危険を冒してまで参加する意味が全くありません。バーチャルでやっても何も変わらないと言うより、バーチャルの方があらゆる意味で安全です。また、今回行われた唯一のスタジオツアーに参加した友人は、往復3時間バスに閉じ込められて、大した歓迎もなく、おつまみ程度のスナックを配られただけで、パサデナ会場と同様のパネルインタビュー後、またバスに押し込められて、ホテルに送り届けられ、時間を無駄にしたと愚痴をこぼしています。やっぱり!

あるオンライン誌は、元々紙媒体を対象に1984年に設立されたTCAは、今や死に絶えて行く恐竜の運命にあると指摘しています。どれほど元の形態に戻そうとしても、テレビ評論(?)が瞬時にデジタルの波に乗る時代に移行してしまった今、「どう足掻いてももう遅い!」と、今回のプレスツアーを非難しています。そしてケーブル局や動画配信会社に不参加の理由を尋ねたところ、「1日開催するだけで50万ドル余り!高過ぎ!」と全員が(匿名で)答えたと報道しています。つまり、経費と結果が比例しないと言う意味ですが、TCAに将来はないと言っているのと同然です。今後、全てのパネルインタビューをバーチャルで行う事になれば、TCAの存在は不要だからです。3年振りにおっかなびっくりで参加したプレスツアーは、身の危険を冒してまで参加する意味が全くありませんでした。バーチャルに戻して欲しいと思ったのは私だけではありません。

それが証拠に、上記スケジュールに見当たらない地上波局Foxは、昨年12月14日に早々と春の新作「Accused」(1月22日放送開始)と「Alert」(1月5日放送開始)をバーチャルプレスツアーで紹介しました。CBSは、春の新作が映画「トゥルーライズ」(1994年)をテレビ化した同名のドラマが1本しかないことを理由に、不参加。但し、1月31日に、シーズン5を迎えるコメディー「The Neighborhood」と共に、バーチャルプレスツアーで紹介します。

TCA役員は、今回のプレスツアーの感想や意見・希望を聞きたいとメールを送って来ましたが、入会直後に総会に出席して、1)何事もやったらやりっぱなし、2)公言しておいて実行しない、3)つまらない派閥争い、4)地元の評論家は完全に無視する、等に嫌気がさして以来、何を言っても暖簾に腕押しと諦めてしまいました。今回も何も言わずに穏便にすませるつもりです。崖っぷちに辛うじて引っかかっている恐竜のような、お先真っ暗感に満ち満ちた23年冬のプレスツアーでした。

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