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アマゾン・プライムもフランチャイズ化に力を入れる 「ボッシュ」ユニバース拡大企画 元相棒ジェリー・エドガーのドラマとレネイ・バラード刑事が率いるLAPD未解決事件捜査部のドラマ

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「ボッシュ:受け継がれるもの」になってから、ちょこちょこと顔を出していた元相棒ジェリー・エドガー(ジェイミー・ヘクター)を主人公にしたスピンオフ企画がある。舞台はマイアミのリトル・ハイチ地区で、マイアミでも有数の治安の悪い犯罪多発地区。FBIの命を受けて、ジェリーはおとり捜査官として侵入する。(c) Greg Gayne/Amazon Freevee

オンラインショッピングのついでに映画やドラマを観てもらえれば良いと始めたAmazonプライム・ビデオ(以下、プライムビデオ)は、パイロット版をユーザーに観てもらい、投票の結果「BOSCH/ボッシュ」を初のオリジナルドラマとして発表しました。7シーズン(2014~21年)続いた人気を更に拡散・拡大すべく始めたのが、スピンオフ「ボッシュ:受け継がれるもの」です。米国では、2022年に立ち上げたAmazon Freevee(Amazon所有のFAST=広告付無料動画配信サービス)開始時の呼びこみ目玉ドラマとして登場、現在シーズン3の更新が決まっています。

私立探偵ハリー・ボッシュ(タイタス・ウェリバー)、弁護士ハニー・’マネー’・チャンドラー(ミミ・ロジャース)、新米パトロール警官マディ・ボッシュ(マディソン・リンツ)が繰り広げる重厚なハードボイルド・ドラマ。これ程の秀作がエミー賞候補に挙がらないのが全く解せない。

 

マイケル・コナリーのハードボイルド小説「ハリー・ボッシュ・シリーズ」のテレビ化「BOSCH/ボッシュ」の3キャラをそっくりそのまま移行させ、LAPDハリウッド署の刑事部屋でお馴染みのキャラを其処此処に散りばめて、1シーズン10話で綴る「ボッシュ:受け継がれるもの」は、実質的にはボッシュの続章と言うべきドラマです。

シーズン1は、ハリウッド署内殺人課で一二を争う検挙率を誇るハードボイルド刑事で、弱い者イジメをするガキ大将が許せない正義の味方だったボッシュ(タイタス・ウェリバー)が、LAPDやFBIに愛想を尽かして辞職し、私立探偵になってかれこれ2年目を描きます。ボッシュの’翳り’を燻し銀のような渋い演技で表現するウェリバーは元より、愛娘マディ役のマディソン・リンツの体当たりの演技と、更に「BOSCH/ボッシュ7」で死ぬ筈だったハニー・’マネー’・チャンドラー弁護士役のミミ・ロジャースが三本柱となって活躍します。新キャラは、昨今何をするにも無くてはならないコンピュータや最新テクノロジーに長けたモー・バッシ(スティーブン・A・チャン)です。ボッシュ同様、ジャズが好きで、オタクにしてはユーモアのセンスと謙虚さを持ち合わせたハッカーで、ボッシュとチャンドラーの調査員を務めます。

血を分けた身内がいれば、遺産を分与して罪滅ぼしをしたいと調査を依頼してきたのは、億万長者ウィットニー・ヴァンス(ウィリアム・ディヴェイン)です。孤児院で育った苦い体験から他人事とは思えないボッシュは、醜い相続争いに巻き込まれて行き、命がけの仕事になります。

投資家カール・ロジャース(マイケル・ローズ)のインサイダー取引を告発しようと試みた弁護士チャンドラーは、隠蔽作戦のターゲットとなって銃弾に倒れましたが、PTSD症候群に苦しみながらも、ロジャースの犠牲者を代表として復讐心がメラメラと燃え上がります。’マネー’の渾名で呼ばれていた悪名高き高給取り弁護士も、命拾いしてみて、第二の人生で何が大切かを悟ったのか、恩師の下で、市民権擁護専門の弁護士となって再出発します。当時付き合っていた判事が殺されたボッシュ、胸の傷が疼くチャンドラー、二人とも復讐に燃えるシーズン1です。

マディはLAPDハリウッド署の新米パトロール警官になり、父親譲りの正義感と食いついたら離れない強靭さを発揮します。警察学校の同級生が撃たれ繁く見舞いに行ったり、タイ・タウンで頻発する連続覆面レイプの被害者を労わり相談に乗るなど、人情味溢れる新米警官でもあります。父親の心配をよそに、気になる事は飽くまでも追求/調査するマディを待ち受けていたのは. . .

「受け継がれるもの2」では、ボッシュとマディの生き方や考え方の違いが明らかになる。左から、ボッシュ、パトロール警官から一躍ハリウッド署のCRU(犯罪抑止班)に抜擢されたマディ、CRUを率いるジュリアス・エッジウッド巡査部長(デジ・ラレイ) 、CRUに推薦してくれた元指導官で現在は相棒のレイナ・ヴァスケス警官(デニース・G・サンチェス)。(c) Tyler Golden/Amazon Freevee

 

去る10月20日に世界同時配信となった「受け継がれるもの2」は、シーズン1最終回のマディの失踪という崖っぷちエンディングを最初の2話で解決し、残りの8話はボッシュとチャンドラーがロジャースの活動資金を絶とうと爆破した石油パイプラインの真犯人(=テロリスト行為とみなされる)としてFBIの捜査を受けて追われる身となります。チャンドラーが引き受けた殺人事件の容疑者弁護の調査員となったボッシュが、ゆすりたかり〜殺人まで弱い者イジメに精を出す悪徳刑事ドン・エリス(マックス・マーティーニー)とケビン・ロング(ガイ・ウィルソン)に捜査を妨害され、命を狙われ、追われる身になります。

マディは生き埋めのPTSD症候群に苦しみながらも、新米警官から一躍ハリウッド署のCRU(犯罪抑止班)に抜擢され、これまで父親の庇護を受けていた娘の立場から、ボッシュを護衛する側に回って、役目が逆転します。刑事の権威も恩典も失い、「浪人」になったボッシュですが、以前と同様の強靭、無口な仕事の鬼、無欲無私、妥協しない頑固者は全く変わらず、LAPD内でルール通りに行動しなければならないマディとの間に亀裂が生じます。特に、マディを誘拐してレイプ罪を軽減するために利用したデビッド・ドックワイラー(デビッド・デンマン)が刑務所で殺されたのは、誰の差し金だったのかを巡って、理想的だった父娘関係に不信という名のヒビが入ったようで、とても残念です。酸いも甘いも嚙み分けいつ引退してもおかしくないボッシュ対、社会に出て日が浅い若者の潔癖さとの闘いと言えます。

ボッシュが、証拠を捏造した?と疑われた時には、署内で入手した調書をチャンドラー弁護士に渡してボッシュを救ったことがあるマディも、法を遵守する側に立って以来、父親の影の部分が気になり始める。(c) Tyler Golden/Amazon Freevee

 

「ボッシュ:受け継がれるもの」のテーマソング「Times are changing」が全てを物語っています。旧いものにしがみついていても、時代はどんどん変わるもの!と言う教訓に聞こえるのは、現在どの世界(政界、法曹界、ビジネス界、エンタメ界等々)を見ても進行中の世代交代と同時に、私が時代に取り残されていく旧いタイプの人間グループに属しているからに違いありません。ボッシュは足で捜査する旧いタイプの’でか’で、テクノロジーは御免、乗り遅れている事は苦にならず(居直っているように見えるかも知れませんが)、今更何を言われても変わる必要などないと思っています。現金ベースの生活をしているボッシュをモーが「ふっるー」とからかったシーンには、思わず苦笑しました。今夏、現金が遣えない新型の施設に遭遇して実際に「ふっるー」を体験したからです。

又、ボッシュの上司/友人/唯一の味方グレイス・ビレッツ(エイミー・アキノ)をセクハラで通報したクリスティーナ・ベガ刑事(ジャクリーン・オブラドス)と相棒ロンデル・ピアス刑事(ダジュアン・ジョンソン)コンビが、協力を求めるボッシュに渋々調書や証拠写真を見せた挙げ句の果て、「相変わらずエラそうで、知ったかぶりの嫌なおじん」と言ったのには驚きでした。同じ殺人課で働いていても、世代が違うとこれほど大きな溝があるんですね?ベガはどうも虫の好かない不可解な刑事だと思っていましたが、ベテラン刑事(私のヒーロー)への尊敬の念はないのでしょうか?いや、自分が若い頃に職場の先輩を尊敬していたかどうか?と考えると、年を重ねていれば尊敬できるってものでもありませんから、「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」のグループになって初めて悟る哀しい事実です。

リニアテレビ業界のフランチャイズ作戦と、動画配信会社の最新の苦肉の策フランチャイズ化猛ラッシュについて、詳しくご紹介した23年5月25日の記事から明らかなように、ストリーミング会社のフランチャイズ合戦が始まっています。プライムビデオが、最長寿シリーズ「BOSCH/ボッシュ」をフランチャイズ猛ラッシュに選んだのは充分頷けます。スピンオフ第一弾「ボッシュ:受け継がれるもの」が好調なので、今年5月には第二弾と第三弾の内容を明らかにしました。J・エドガー企画と呼ばれるタイトル未定の第二弾は、ボッシュの元相棒ジェリー・エドガー(ジェイミー・ヘクター)が主役です。自らの暗い過去に苛まれながら、マイアミのハイチ人ギャングが仕切るリトル・ハイチ地域に侵入したFBIのおとり捜査官ジェリー・エドガーを描きます。スピンオフ第三弾は、マイケル・コナリーの人気シリーズをドラマ化するもので、LAPD新設のお蔵入りした事件を解決する未解決事件捜査部を率いるレネイ・バラード刑事を描きます。バラード刑事は、「ボッシュ」には未登場で、配役は未定ですが、小説にはレネイ・バラード・シリーズがあります。ボッシュ・ユニバースを拡散・拡大すると言うよりも、コナリー作品のフランチャイズ化と称した方が相応しいかも知れません。

余談ながら、2023年4月20日の、「Showtimeよ、お前もか?」でお知らせした「ビリオンズ 」スピンオフ制作ですが、先日ようやく観終えた「ビリオンズ 7」の最終話で、
「ビリオンズ  マイアミ」に移行するのは、アックス(ダミアン・ルイス)の右腕ワグス(デビッド・コスタビル)だと判明しました。アックスがスイスに逃亡した後、後釜に座ったマイク・プリンス(コーリー・ストール)という名の「新型億万長者」が米大統領に立候補します。「こんな奴が大統領になったが最後、世も末」と恐怖を抱くウェンディ(マギー・シフ)、ワグス、テイラー(エイジア・ケイト・ディロン)の3人が結託して、アックスも引き込んで裏でプリンス打倒を画策します。しかし、最終回で負け組として追放されたのは、マイクのみで、残りのキャラは金持ちになったか、何らかの明るい将来を約束されて完となりました。こんなことだろうとは想像していましたが、やはりアックスには何のお咎めもなく、幸せに暮らしましたとさで終わってしまいました。あんな薹の立ったドラマ、アックスを呼び戻してまで作ったのは、ワグスがマイアミ版に移行するというお知らせだけのためだったのですか?無駄遣いも良い所です。何度、視聴者の期待を裏切ったら気が済むのでしょう?勧善懲悪を無視して、皆が皆、勝ち組になる、ずっこけエンディングはもう御免です!「羹に懲りて膾を吹く」とは、正にこの事です。

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