『ボブ・マーリー:ONE LOVE』が5月17日(金)に日本公開。tvgrooveは今作を手がけたレイナルド・マーカス・グリーン監督に独占インタビューを行った。
【予告編】『ボブ・マーリー:ONE LOVE』
映画、すばらしかったです!日本は、ボブ・マーリーが公演で訪れたほか、日本のメジャーな音楽グループやメタルバンド(※)にも、レゲエから音楽を始めたりしているアーティストがいたりと、日本にもレゲエ音楽は影響を与えています。この映画が日本で公開されることは、音楽ファンとしても特別な意味があるように思います。(※湘南乃風、SiMなど)
レイナルド・マーカス・グリーン監督(以下、グリーン):わあ、嬉しいね!
グリーン監督は今回が初来日ですよね。14日のジャパンプレミアでは日本のファンと交流されていましたが、日本に来てみていかがでしょうか。
グリーン:日本、大好きだよ。「時間が足りない!」って感じているよ。日本に来て見たすべてのもの、人間性、繊細さ、文化…深く人情味に満ちた体験をもたらしてくれるね。日本の人々にこの映画をシェアできることはこの上なく光栄なことだよ。
ご夫人とたくさん食事をしたと仰っていましたね。特に印象に残ったお気に入りの日本食は何でしょうか。
グリーン:日本人がプロデュースして、日本のローカルな食材を使用したイタリアン・コースを味わえるレストラン(※)がとてもよかったよ。シェフが挨拶に出てきてくれて、それぞれの料理を紹介してくれた。すばらしい体験だったよ。
ほかにも魚市場に行ったり、ダイナーでパンケーキを食べたり…すべての料理がスペシャルでよかったよ。
※:「“チャンチー”といった感じの店名」とのことのため、「CHIANTI(キャンティ)」の可能性あり。
それでは映画の話に移らせていただきます。まずは映画の大ヒット、おめでとうございます。全米1位になるなど大きく話題になっていますが、今の心境はいかがですか。
グリーン:アメージングな気分だよ!観客のみんなが反響を生んでくれて、その友達、家族に観に行くよう薦めてくれるおかげで、共同体としての映画体験につながっているんだ。特に音楽、ボブの音楽がみんなをそうさせてくれているんだろうね。これが長く続けばいいなと思うよ。
ちなみに、グリーン監督にとって、ボブ・マーリーはどのような存在だったのでしょうか。
グリーン:正直に言うと、もともと彼の音楽については好きな楽曲がたくさんあったけど、その背景にある彼の人物像についてはあまり知らなかったんだ。だからこの映画を作ることになって、僕にとってもたくさんの発見があったよ。みんながこの映画で新たに知る多くのことは、僕にとっても初めて知ったことだった。だからこそ、新たな発見とともにこの映画を作っていく過程はとても楽しかったよ。
ミュージシャンとしての彼だけでなく、父親として、夫としての彼や、彼の人生の各要素、スピリチュアルな部分、そして葛藤などを音楽と一緒に描けてよかったよ。
いつの時代も世界には様々な戦争・紛争が起きており、今もなお続いていますよね。平和への重要な一歩を音楽によって生み出したボブ・マーリーの偉大な物語を現代に改めて伝えた価値についてはどうお考えでしょうか。
グリーン:音楽は人々をつなげるための非常にパワフルなツールだ。もしこの映画が我々に何かを示してくれるとしたら、それは“愛の発見”だ。ボブは実の父親をよく知らなかったから、人生をかけて父性を探し求めていたように思う。スピリチュアルな意味での“父”が彼を導き始めた時、彼は自分自身の痛み・罪悪感を和らげることができたといえるんじゃないかな。
この映画でも描いたそういう部分が彼の音楽のパワフルさを生み、パワフルな音楽が我々を日本や、世界中とつなげてくれた。彼が歌うのは深い葛藤や痛みだ。それでいて彼の歌は人々を楽しませる魔法のようであり、スーパーヒーローのようでもある。うん、ボブ・マーリーは実際スーパーヒーローだよね。
映画ではボブの偉大な部分だけでなく、彼の未熟なメンタルや繊細で危うい性格についても生々しく描いていましたね。実際にボブ役を演じたキングズリー・ベン=アディルの演技はいかがでしたか。
グリーン:キングズリーは本当にすばらしい俳優だよ。そもそも彼はジャマイカ人じゃないから話し方も発音もすべて矯正しなければならなかった。身を削るほどの努力を求められたんだ。さらに言語だけでなく、歌もダンスもパフォーマンスも学んだんだよ。彼が今回行ってくれた努力は、並大抵の人にできることじゃない。まさに「輝かしい」功績を残してくれたと思う。
しかもボブ・マーリーは世界で知られるアイコン的な存在だから、(彼を演じるキングズリーは)孤独にプレッシャーと闘っていたはずだよ。この大役を果たしてくれた彼が、十分な愛とサポートに包まれているといいな。彼の功績は本当に誇らしいよ。
キングズリーのカリスマ的風格は圧倒的でした。マルコムX(『あの夜、マイアミで』)からケン(『バービー』)まで幅広い役をこなすキングズリーですが、グリーン監督が彼をキャスティングしたきっかけは何でしたか。
グリーン:彼がテープを送ってくれたんだ。それで、彼の初期の仕事をいくつか見た。英国俳優である彼のことを(アメリカ人の)僕は当時よく知らなかったんだよね。でもテープを見た僕は、気づけば身を乗り出して見ていたよ。「なんだこの俳優は!?」って感じだったな。新鮮で興味を惹き、思慮深さと魅力を兼ね備えた彼を見て、「彼はカリスマだ!」と、そのテープで確信させられたんだよ。
そこからが映画製作の楽しいところだよね。(ボブ・マーリーは長髪なのに)彼は短髪だし、適切なアクセントを覚えてもらわなければならないし、さらに適切な衣装とヘア&メイクアップを提供して…そうやって僕らはキングズリー版のボブを作り上げていったんだ。完成させられて誇らしいよ。
彼は作品に十分な基盤を与えてくれた。僕やファミリーに楽しみを与えてくれたんだ。さらに撮影が始まって彼が演技を始めると、チームの中心としてそのパフォーマンスで全体を支えてくれたんだよ。
ボブの人間性を描くにあたっては、やはり彼の家族リタやジギーとの協力が大きな役目を果たしたのでしょうか。
グリーン:うん、もちろん!映画製作者としての僕の役目は、ジャーナリストのようにボブについてリサーチすることだった。ボブについての情報を漁り、家族だけでなく、存命のボブの友人にもたくさん会いに行ったよ。ダイアン・ジョブソン、クリス・ブラックウェルとかね。
できる限り思いつくすべての質問を彼らに投げかけたんだ。過去の記憶を刺激することで、文献では一切見つけられなかったような、忘れられていた物語も語ってもらえたよ。そういった類の物語を僕は“採掘”していった。そのおかげで、誰かだけが知っていたようなボブの瞬間・エピソードを映画に盛り込むことができたんだよ。
リタ役のラシャーナ・リンチの力強い演技もとても印象に残っています。彼女のキャスティングや、彼女の演技について語っていただけますか。
グリーン:ラシャーナも英国俳優だけど、彼女のルーツはジャマイカだ。それがまずキャスティングでは大きなポイントだったね。そしてもちろんラシャーナも明らかに卓越した俳優だ。BAFTA(EEライジング・スター・アワード)を受賞しただけでなく、『007』でも活躍しているね。
僕は彼女と会って驚いたんだ。なぜなら、彼女は最初からリタ役を演じたがったけど、当時の脚本だとリタにそこまで出番がなかったから。でも彼女のその選択は間違いじゃなかった。彼女の参加が決まってから、脚本がリタについて不十分だと感じてきたんだよ。ラシャーナの参加は今作のクオリティを押し上げてくれた。彼女が今作のリタに、ジャマイカ人女性に、声を与えてくれたんだ。
彼女の参加は本当にこの映画に貢献してくれた。この映画が何を目指すべきかを指し示してくれたんだよ。基本的な部分がラブストーリーになっていくとは、当初の僕は思っていなかったな。彼女をキャスティングしてからは、監督の方向性や脚本の形も変わった。彼女は本当に僕らを助けてくれたよ。
映画では、音楽が作られていくシーンやスタジオやステージでの演奏シーンなど、音楽シーンへの強いこだわりも感じました。音楽に関するシーンで特にこだわったポイントはどこですか。
グリーン:僕らは“音楽の本質的な部分を描く”ということをいつも課題にしていたんだ。ただ流れているだけの音楽、押しやられるような音楽ではいけない。ボブが音楽を発見していくシーンでは僕らも一緒に音楽を発見するような感覚になるし、彼がベッドルームで寝転んでギターを奏でる時も、彼らがリハーサルルームで演奏する時も、いつでも観客には音楽の本質的な部分を感じてもらおうと思ったんだ。
「Exodus」が創造されるシーンにおいてもバンドでのセッションのシーンにおいても、撮るときは本質的で、クールで、傑出したものになるよう心がけたよ。
ちなみに、ボブ・マーリーの楽曲で、グリーン監督が特にお気に入りはどの曲ですか。
グリーン:選ぶなら「Redemption Song」だけど、「I Shot The Sheriff」も「Exodus」も「Turn Your Lights Down Low」も好きだし、好きな曲が多すぎて挙げきれないよ!
音楽シーンの撮影は毎回楽しかったな。だって本物のミュージシャンが集まって僕らの作品のためにパフォーマンスしてくれているわけだからね!
『ジョー・ベル 〜心の旅〜』『ドリームプラン』から今回の『ボブ・マーリー:ONE LOVE』まで、近年のグリーン監督は伝記映画を多く手がけていますね。今後も伝記映画を愛し、撮り続ける予定でしょうか。
グリーン:(マーティン・)スコセッシ監督の『グッドフェローズ』や『ウルフ・オブ・ウォールストリート』もみんな誰かのリアルな人生に基づいている伝記映画ではあるけど、単なる伝記映画ではないよね。僕も(伝記映画かはさておき)「真実のストーリーを描く」ということは続けていくと思うよ。
ボブ・マーリーはユニークでスペシャルな人物だった。これからもそういった真実の物語を探して描いていきたい。でも誰かのリアルな人生に基づいていれば、ジャンルは何になってもいいんだ。リアルな犯罪映画でも、コメディでもホラーでもね。
今後のグリーン監督の作品も楽しみにしております! ではインタビューの終わりに、これから『ボブ・マーリー:ONE LOVE』を観ることになる日本の観客に、メッセージをお願いします!
グリーン:みんなが僕らと同じように今作を気に入ってくれることを願っているよ。ボブの音楽やメッセージをシェアしてくれて、このメッセージがさらに世界中に広く拡散されるといいな。人々が今作をただ楽しんでくれて、広めてくれたら嬉しいよ!
(インタビュー以上)
レイナルド・マーカス・グリーン監督最新作『ボブ・マーリー:ONE LOVE』は5月17日(金)日本公開。
作品情報
タイトル:『ボブ・マーリー:ONE LOVE』
監督:レイナルド・マーカス・グリーン(『ドリームプラン』)
出演:キングズリー・ベン=アディル(『あの夜、マイアミで』)、ラシャーナ・リンチ(『キャプテン・マーベル』)
脚本:テレンス・ウィンター(『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』)、フランク・E・フラワーズ、ザック・ベイリン(『グランツーリスモ』)、レイナルド・マーカス・グリーン
全米公開:2月14日
日本公開:5月17日
原題:Bob Marley: One Love
配給:東和ピクチャーズ
© 2024 PARAMOUNT PICTURES
X:https://twitter.com/BM_OneLove_JP
Instagram:instagram.com/paramount_japan/
公式 Youtube:/ParamountJapan
公式 TikTok:@paramountjapan
#ボブマーリーワンラヴ
フリーライター(tvgroove編集者兼ライター)。2019年に早稲田大学法学部を卒業。都庁職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)においても映画に関する発信を行いながら、YouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」にて映画情報・考察・レビュー動画などを配信したり、映画関連イベントの企画・運営も行っている。