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今春の秀作SFスリラー「カウンターパート」シーズン2、早くも12月9日放送開始 SF苦手の私がすっかりハマった理由は?

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シーズン1のポスター。暗~いイメージは否めないが、氏か育ちかが見事に描かれる秀作だ。

「カウンターパート」シーズン1は、2017年12月10日~2018年4月1日に放送されたプレミア局StarzのSFスリラー、スパイアクションドラマです。今春、私がすっかりハマってしまったドラマの1本です。2018年のエミー賞候補に上がらなかったのが不思議でたまりません。日本ではWowowで放送されていたので、ご覧になった方もあるかも知れませんが、シーズン1をまだ視聴されていない方のために、毎回明かされる謎についてはできる限り触れないようにご紹介したいと思います。

ベルリンに居を構える国連の諜報部で働くハワード・シルク(JK・シモンズ)は、温順を絵に描いたようなしがない下っ端役人で、30年も勤めたのに昇進の機会もなく、万年サラリーマンのように、毎日黙々と意味不明の作業をこなして来ました。帰途、昏睡状態の妻エミリー(オリヴィア・ウィリアムズ)に面会に行っては、本を読んで聞かせるのが最近の日課です。ある日、この律儀で誠実なアメリカ人に、青天の霹靂と言える衝撃的な出会いが訪れます。並行次元の存在もさることながら、あちら側(=プライム世界)から分身ハワード(JK・シモンズ)が姿を現したのです。諜報部の幹部のみが知る並行次元は、1987年東ドイツの科学者の実験が失敗して、30年余りこちら側(=アルファ世界)から分岐を続けて今日に至っています。プライム世界から忽然と現れた秘密諜報員ハワードの使命は、殺し屋ボールドウィンを消すこと。ハワード・アルファとは正反対の’ハード・ボイルド’ハワード・プライムは、エミリーがボールドウィンに狙われているので、ハワード・アルファの協力を得て、暗殺計画を阻止しようと乗り込んで来たのです。ハワード・プライムの出現で、アルファの穏やか(=退屈)な人生が、波乱万丈、一触即発の日々に一転します。

Courtesy of STARZ

昏睡状態の妻エミリー(オリヴィア・ウィリアムズ)を毎晩見舞うのが日課になったハワード・シルク(JK・シモンズ)。

先ず、ベルリンが舞台なので、どんより曇った背景、ハワードの夢も希望もないショボくれた姿、意味不明の仕事等、とにかく暗~~いと言うのが第一印象でした。シーズン1のポスターが物語るように、心身共に落ち込みそうになる程暗い上、残虐惨殺シーンが多々あって、プレミア回を辛うじて乗り切りました。その反面、大好きなJK・シモンズが演じる二役ハワード・アルファとハワード・プライムの両極端とも言える人格にグイグイと引き込まれて行き、次々と疑問が湧いて来たのも事実です。遺伝子や子供の頃の思い出は共有している同一の人間が、どこでどう変わったのか?分岐点はどこだったのか?内向的アルファと外交的プライムを生み出したのは何だったのか?など興味津々になり、暗さや血みどろを打ち消してしまいました。野心が無い、不甲斐ないことをプライムに足蹴にされながらも、アルファはエミリーを守りたい一心と未知の世界への好奇心から、プライムの身代わりになって国境を越える展開にすっかりハマってしまったと言う訳です。

Courtesy of STARZ

あちら側から乗り込んで来たハワード・プライム(シモンズ)は、冷徹、非情な秘密諜報員。身なりも身振りも’ハード・ボイルド’を体現するプライムは、臆病で穏やかなアルファとは正反対のように見えるが….

並行次元の概念が面白いのは、私が昔から書きたいと思っていたストーリー展開に持ってこいだからです。人間は人生に十回は、進路を大きく変えてしまう一大決心をしたり、一大事に遭遇すると言われています。所謂、人生の岐路に立った時に、選択しなかった道を歩いていたら、今の自分はどう変わっていただろう?と思いを巡らし、それを映像化して比較することは出来ないだろうか?と昔から考えていました。第四回以降ハワード・アルファがプライム世界で体験するアルファ世界には存在しない家族との触れ合いが、並行次元のカラクリや二次元間の冷戦や政界スリラー要素の何倍も心に響きました。

Courtesy of STARZ

部下ハワード・アルファ(シモンズ・左)に並行次元の存在を説明せざるを得なくなり、ご機嫌斜めのピーター・クエイル(ハリー・ロイド)。

クリエイターのジャスティン・マークスの意図は、どちらのハワードが真のハワードなのか?を探求して行くことです。ご対面!当初は、両極端のようでしたが、第一回目の最終部分に、アルファに積極性が生まれ、義理の弟エリックに最後通牒を突きつけるシーンが書き込まれています。プライムの力を借りての上の行動で、この時点ではまだ「狼の皮を着た羊」でしかありませんが、変化は誰の目にも明らかです。そして、回を重ねる毎に、人の振り見て我が振り直せではありませんが、従来夫々の世界ではあり得なかった事や許されなかった事に挑戦するようになります。シーズン1が終わる頃には、ハワード・プライム(「羊の皮を着た狼」)の弱点が曝け出されます。分身に成りすまして、お互いの生活をしてみて初めて人の痛みが分かったのでしょう。「両極端のような人格が、心優しいアルファ寄りになるのか、ハード・ボイルドなプライムに近づくのかを、何シーズンかかけて探るつもり」とマークスは述べています。

又、マークスは自然淘汰と適者生存による進化論(ダーウィン説)の対立が本シリーズの心髄とし、「オリジナルと改訂版が一丸となって初めて生き残れるものだ」と、冷戦の黒幕アレクザンダー・ポープ(スティーブン・レイ)のセリフで指摘しています。氏か育ちか、遺伝子や生まれ持ったもの(生得的要因)対経験や学習(環境的要因)のいずれが人格を形成して行くのか?という、興味深いテーマを扱うのも「カウンターパート」の魅力です。ハワード・アルファとハワード・プライム、ナディア・フィエロとボールドウィン(サラ・セライオッコ)の二例を見ると、遺伝子を共有しながら、両極端の性格になり、正反対の仕事に就いたのは、飽くまでも環境的要因が多大なる影響を及ぼした結果だと言えます。バイオリンの鬼才ナディアは、父親のスパルタ教育(=虐待)に対する怒りを内に向け、ボールドウィンが外に向かって発散する殺し屋稼業を選んだのは偶然ではありません。ナディアを目前にして、幼い頃に体験したトラウマから、誰も逃れることは出来ないのだとボールドウィンは悟ります。

1996年に豚インフルエンザが蔓延して死者が続出、以来豚肉は食べない、喫煙禁止、細菌恐怖症、時代遅れのケータイ、テキーラだけが自慢のあちら側です。96年のインフルエンザは、アルファ世界が仕掛けた細菌戦争と信じて止まない過激派は、政界の黒幕ポープの命を受けて、アルファ世界に深く潜入し、国境を閉鎖して冷戦を開始しようと企んでいます。

数々の疑問を残してシーズン1が4月に幕を閉じたばかりと言うのに、シーズン2は12月9日から始まります。ハワード・プライムはこちら側で妻エミリーと暮らし、アルファの職場に出勤します。一方、ハワード・アルファは、あちら側のエコーと呼ばれる秘密軍事施設に監禁され、外界との接触を遮断されてしまいました。冷戦は益々エスカレートし、両次元は一触即発の状況です。プライムとアルファは、夫々が置かれた環境に順応し、生存を賭けて日に日にお互いの人格に近付いて行きます。マークスは、「シーズン2は、ハワード・プライムが丸くなる過程に焦点を当てる」と述べています。シーズン1のように、毎回何らかの秘密を明かす早いペースの展開は無理としても、分身に対面するキャラの数が増えて、氏か育ちかが探求される益々面白いシーズン2が期待できそうです。

Courtesy of STARZ

シーズン2のポスターは、少々明るいイメージに変わった。
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