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[ネタバレ]米国で9月29日放送開始の「風の勇士 ポルダーク5」 ポルダークは英雄ではなかった!学習能力のない欠陥人間たちの取って付けたようなハッピーエンドに物申す!

相思相愛で将来を誓い合ったロス・ポルダーク(エイダン・ターナー)とエリザベス・チェノウェス(ハイダ・リード)。ドラマのテーマは、「実らなかった初恋の傷は一生癒されることはない」のようだ。Courtesy of ©Robert Vigiasky/Mammoth Screen for MASTERPIECE COLUMNS
相思相愛で将来を誓い合ったロス・ポルダーク(エイダン・ターナー)とエリザベス・チェノウェス(ハイダ・リード)。ドラマのテーマは、「実らなかった初恋の傷は一生癒されることはない」のようだ。Courtesy of ©Robert Vigiasky/Mammoth Screen for MASTERPIECE

※「風の勇士 ポルダーク5」についてのネタバレが含まれます。

 

2015年、颯爽と登場した文句なしにカッコ良い「風の勇士 ポルダーク」!と言うよりは、ポルダークを演じるエイダン・ターナーの凛々しさと、アンチヒーロー横行時代の希少価値である「英雄」に魅せられて、観続けて5年と言う方が正しいでしょう。その結果が、この上っ面だけの生半可なハッピーエンドとは、興醒め以外の何ものでもありません。ポルダークは英雄ではない上、誰も何も学習していないのです。結局、このドラマのテーマは「実らなかった初恋の傷は一生癒されることはない」だったようです。

プレミア前に発表した英文評はこちらをご覧ください。

「風の勇士 ポルダーク」は、ウィンストン・グラハム作の大河ロマン長編小説「ポルダーク」を基に、デビー・ホースフィールドがテレビ化したものです。原作シリーズは全12巻ですが、21世紀のリメイクは第1巻から7巻までを「風の勇士 ポルダーク」シーズン1~4で映像化。そして、いよいよ迎える最終シーズンは、19世紀初頭の僅か2年を8話で綴ります。ホースフィールドが、第8巻~12巻から拾い集めた主要キャラの発言や未来の姿から想像を膨らませ、更に史実と19世紀初頭を生きたであろう20人余りの新キャラを追加して8話に盛り込みました。最終シーズンに、新キャラがこれだけ登場すると筋を追うだけに終わってしまいました。原作第8巻~12巻で語られる将来を歪める訳にはいかないのは重々承知ですが、「はー???それで良いの?」的生半可なハッピーエンドで表面だけ掠ったような、納得のいかないシリーズ完結でした。

 

1801年。新世紀が始まったと言うのに、コーンウォールは喪に服しています。初恋の人エリザベス・ウォーレッガン(ハイダ・リード)を数ヶ月前に失ったロス・ポルダーク(エイダン・ターナー)は、悲嘆のどん底から立ち直ることができません。ジョージの疑いを晴らすため、第二子も早産すれば良いと言うロスの提案を実行したが為に、エリザベスは出産後に他界してしまい、自責の念は半端ではありません。下手な小細工を提案したばかりに、永遠の恋人を死なせてしまったのです。落ち込んでいるロスを現実に引き戻そうとするのは、疎遠になっていた妻デメルザ(エレノア・トムリンソン)です。ロスの気を引こうと、デメルザは次から次へと言い寄る男達を飜弄しては、毎シーズン不祥事を起こしてきました。しかし、永遠の恋人エリザベスの死で、故ヒュー・アーミテージ(ジョシュ・ホワイトハウス)との不倫が帳消しになると計算したデメルザは、お互いの過ちを許し合い、コーンウォールで穏やかな家庭生活に戻ろうと提案します。

心にぽっかり空いた穴をを埋める唯一の薬は、使命感に燃えて行動する事だと信じるロス。打ちひしがれた心に目を背け、心痛を避けて来た男ならではの処理方法です。今も昔も、感情に走るのは女の仕事(’女々しい’と言う表現から一目瞭然です)で、男は行動で人生を乗り切るように教えられているからです。冒険と言う名の特効薬を渇望するロスに届いたのは、アメリカ独立戦争でグレートブリテン王国陸軍大尉として戦った時の上官ネッド・デスパード大佐(ヴィンセント・レーガン)からのSOSの手紙でした。国王ジョージ3世に楯突いた反逆者としてロンドンで投獄された大佐が、妻キティー(ケリー・マックリーン)に託したのです。命の恩人のすわ一大事に、ロスは取るものも取り敢えず、ロンドンに駆けつけます。幻滅した国会を辞めて故郷に戻ると約束したものの、デスパード釈放運動は政界のコネを利用せざるを得ない上、反体制運動もロンドンに拠点無くしてあり得ないと言うのです。

又々、家族より冒険を選んだロスは、一度はデメルザのロンドン同行を許しますが、相も変わらずデメルザの余計なお節介で、ロスの努力が水の泡になってしまいます。国王の側近からデスパード大佐の動きに目を光らせるよう命を受けたロスは、大佐夫婦を伴ってすごすごとナンパーラ(ポルダーク分家の領地)に逃げ帰ります。シーズン4でも、デメルザはプレイボーイ議員に言い寄られて満更でもなく、決闘を強いられて議員を射殺してしまい、故郷に逃げ帰らざるを得なくなったロスです。元々、デメルザは何をしでかすか、何を言うかわからない厄介者です。後先顧みず、危険な真似をする衝動的で無鉄砲な人間なのです。ロスをコントロールすることに必死で、自らの過ちを反省することなく、ここまで来たからです。知識や教養が無いデメルザに、内助の功を求めるのは無理と言うものですが、少なくとも留守宅や鉱山を守って、大人しく田舎に引っ込んでいて欲しいものです。

ロス・ポルダーク(エイダン・ターナー)と妻デメルザ(エレノア・トムリンソン)は夫婦としては失格。どちらが先に屈するかを睨み合っている二頭の雄牛のようだ。Courtesy of Mammoth Screen for BBC and MASTERPIECE

 

「ポルダーク」評を書く度に毎年指摘してきましたが、デメルザはエリザベスのように育ちが良くありませんから、礼儀作法や貞節な妻(しかも準貴族の)の何たるかを教えられていません。飯炊き女から、分家と言えどポルダーク夫人にのし上ったことなど、そうそう自慢げに他人に言うものではありません。はしたないにも程があります。ロスの従姉妹ヴェリティ・ブレイミー(ルービー・ベントール)は、如何に夫をものにしたかなんて口が裂けても公言しませんよ!余りにも下衆ですよ。お里が知れると言うものです。挑戦されると受けて立つサバイバル術しか身に付いていないし、負けん気だけは人一倍強いのは分かりますが、ロスの顔に泥を塗るのは辞めてください。この夫婦は、どちらが先に目を逸らすか=屈服するかを競って睨み合っている雄牛のようです。絶対に譲らない頑固な男女は夫婦としては失格です。結婚は、死ぬまで続く和平交渉ですから。

正義感が強く、世の為、人の為と奔走する英雄ロス・ポルダークも、実は心痛に直面できず、次々と冒険に逃げ込む欠陥人間でしかなかった。ターナーの美貌と凛々しさだけが救いだ!Courtesy of Mammoth Screen for BBC and MASTERPIECE

 

今シーズンもロスの冒険に引きずり込まれたのは、このシリーズ唯一の繊細で心優しいドワイト・エニス医師(ルーク・ノリス)です。エニス医師も、アメリカ独立戦争に参戦した軍医で、デスパード大佐がロスの恩人であることは重々承知しているので、大佐の無謀な行動に最初は目を瞑っていますが、忍耐もロスへの忠誠心も遂に限界に達します。

ルーク・ノリス

[ドワイト・エニス医師を演じるルーク・ノリス。ターナーの凛々しさはないが、誠実で繊細なエニス医師が結局私の英雄像にぴったりはまる。「ポルダーク」終了後、スピンオフ「エニス」を観たいと思うのは私だけ?特に私的体験を生かして、精神分析学の草分けとなって欲しい。]

妻キャロライン(ガブリエラ・ワイルド)が、社交界の名士振りを利用して、デスパード救出に手を貸すのだ!と嬉々としてロンドンについて来て、又々面倒に巻き込まれます。何よりも気が喰わないのは、夫の患者最優先と人助けへの献身振りです。又、デメルザや奴隷上りのキティー等、強かな女性を敬うドワイトが癇に障ります。軽率なお節介で、キャロラインもドワイトの気を引こうと必死です。ドワイトを追いかけていた頃の自信はどこへ行ってしまったのでしょう?いつまで経っても大人になれないんですね?何でも権力と財力で解決して来たので、自分を変えると言う発想自体すらないのでしょう。このわがまま娘が母親になるなんて、聞いただけでもぞっとします。

ガブリエラ・ワイルド

[キャロライン・エニスを演じるガブリエラ・ワイルド。何の不自由もなく育った特権階級の権利意識をひけらかしては高飛車に出る。本人は貴族と庶民の橋渡しをする大使だと過信しているが、自己チューのお嬢様の余計なお節介に終わることが多い。]

キャロラインの自己チューの極みは、ドワイトのカルテを盗み見して得たジョージ・ウォーレッガン(ジャック・ファーシング)の秘密を恐喝に利用したことです。ったく!夫の医師免許を剥奪されても文句は言えない行動。執念深い陰険男ジョージなら、免許剥奪など朝飯前ですが、幸いこのシリーズは先がありませんから、その危険性はありません。最終シーズンでも、エニス医師の分別をわきまえた真っ当な人柄は一際輝き、一見英雄のように見えるロスより、私の最も尊敬するキャラとして軍配が上がりました。「ポルダーク」終了後、スピンオフ「エニス」を観たいと思うのは私だけでしょうか?フランスで捕虜となって患ったPTSD(心的外傷後ストレス障害)や我が子を亡くした結果のうつ病体験を鑑みて、今シーズンは精神錯乱の原因や治療法を研究し、裁判にかけられた国王暗殺未遂犯を弁護したり、妄想に取り憑かれたジョージの治療にもあたります。19世紀後半にジークムント・フロイトが創始するまでは、精神分析学は理論も治療体系もなかったので、明らかに時期尚早ですが、スピンオフ「エニス」はあくまでもフィクションですから、精神分析学の草分けとして設定すれば問題ないと思うのですが. . .

左からジョージ(ジャック・ファーシング)&エリザベス(リード)・ウォーレッガン夫妻、ロス(ターナー)&デメルザ(トムリンソン)・ポルダーク夫妻、ドワイト(ルーク・ノリス)&キャロライン(ガブリエラ・ワイルド)・エニス夫妻。 Courtesy of ©Robert Vigiasky/Mammoth Screen for BBC and MASTERPIECE

 

幼い頃から「ロスになりたい!」と憧れてきたジョージは、鍛冶屋から叩き上げた成金三代目。一旦はロスに地位を奪われたものの、あらゆる汚い手を駆使してウエストミンスターに返り咲き、最後の望みだったナイト爵位に手が届きそうになった時に、エリザベスを亡くしてしまいました。余りの衝撃に、妄想に取り憑かれたジョージは、エリザベスの亡霊と会話をして現実逃避します。仕事に支障をきたすようになり、叔父ケリー・ウォーレッガン(ピップ・トーレンス)が連れて来た医者に悪霊払いと称して、お清めから果ては拷問にかけられます。最愛の妻を亡くした上に、拷問にかけられて、ジョージの曲がりに曲がった根性が真っ直ぐになるのかと思いきや、卑劣さ、冷淡さ、陰険さは、何倍にもなって戻ってきます。今シーズンは、奴隷を使って中米に築き上げたマホガニー材輸出商のラルフ・ハンソン(ピーター・サリバン)と手を組みます。ようやくナイト爵位を授かったにも関わらず、劣等感と自己嫌悪は微動だにしません。エリザベスと略奪結婚して少なくともロスの初恋が実ることだけは阻止しましたが、宿敵ポルダーク一族への恨みつらみが衰えることはありません。ポルダーク本家唯一の跡取りジェフリー・チャールズ(フレディー・ワイズ)の陸軍士官学校に授業料を払うことを拒否し、乗っ取った本家の領地トレンウィスを閉鎖して、ポルダーク一族撲滅に励みます。ロスは分家の長男ですから、元々興味はないようですが、ポルダークの名前に無頓着過ぎるのではないでしょうか?

ジャック・ファーシング

[ロスを目の敵にするジョージ・ウォーレッガン(ジャック・ファーシング)。エリザベスとロスの永遠の愛のあかし=ヴァレンタインを手放さないのは、ロスに仕返ししているつもりなのか?我が子である確率に賭けたのか?いっその事、ロスに引き渡した方が良いのでは?]

エリザベスが死んでまで証明しようとした、長男ヴァレンタイン・ウォーレッガン(ウッディー・ノーマン)誕生の秘密。この時代、実父確定検査が出来ない上、確たる証拠がないため、ジョージはヴァレンタインの扱いに右往左往します。しかし、ヴァレンタインとロスの間に存在する絆は否定できませんし、日に日に、ロスの小型版として成長していくヴァレンタインは、エリザベスとロスの永遠の愛のあかしです。ヴァレンタインを見る度に、どう足掻いてもロスには勝てない!と思い知るのです。唯一の跡取りだからヴァレンタインを手放せないのでしょうか?実の娘が生まれているではありませんか?そこまで罪のないヴァレンタインに八つ当たりするのなら、いっそのこと、ロスに引き取ってもらえば良いのです。何しろ、デメルザにとってもヴァレンタインは、目の上のたん瘤です。ロスとデメルザは疎遠になっているのですから、ヴァレンタインと一緒に暮らすのは、いつ爆発するかわからない時限爆弾を抱えているようなものです。ロスに愛想を尽かして、デメルザが家を出て行くのは、時間の問題ではないでしょうか?これでポルダーク分家も撲滅できると言うものです。そこまで考えなかったとは言わせませんよ。最終回にヴァレンタインはどうしたものか?とジョージが躊躇う瞬間を読み取ったのは私だけではないと思います。

最終シーズンを観終えた感想は、私が定義する英雄は、実はエニス医師だった!でした。残念ながら、ポルダークは私の英雄ではありません。2016年7月にターナーと交わした英雄論(2016年9月29日旧サイト掲載の『エイダン・ターナー、ポルダークを語る』を参照)は、無駄だったと判明しました。ターナーの言う通り、ポルダークは「今で言う『仕切りたがり屋』ですね。何をするにもお山の大将でないと気が済まないし、人に任せられない性格って言うか. . .何でも自分で差配したがるタイプ。追い詰めると、冷淡、猪突猛進の自己チューで根性の悪い男に変身するしね」でした。英雄と崇拝していたポルダークも過ちを反省して学ぶことをしない、大人になれない欠陥人間なのです。唯々、猪突猛進するのみでは、人間誰も成長しません。

猪突猛進あるのみで、仕切りたがり屋のロス。この人のトラウマは、アメリカ独立戦争と帰郷してエリザベスをフランシスに盗られて以来の喪失感か?それとも幼い頃に何かあったのか?Courtesy of Mammoth Screen for BBC and MASTERPIECE

 

全くの余談ですが、もう一つ気が付いたことがあります。ロス、従兄弟フランシス・ポルダーク(カイル・ソーリー)、ジョージの3同級生が、若かりし頃恋い焦がれたのが、エリザベス・チェノウェス(リード)です。ロスと将来を誓い合ったエリザベスは、3年も音沙汰がなかったことを理由に、ポルダーク本家のフランシスに鞍替えします。母親に強制的に婚約させられた節があることは否めませんが. . .フランシスを亡くしたエリザベスは、ポルダーク本家唯一の跡取りジェフリー・チャールズを守るため、更に準貴族の華やかなライフスタイルを維持するために、ジョージと打算的再婚に走りましたが、ジョージが爵位を授かれるように内助の功を発揮しました。「永遠の恋人ロス」とだけ結婚し損ねたのは、皮肉と言えば皮肉ですが、だからこそお互いの「永遠の恋人」ファンタジーが崩れ去っていないのも事実です。更に、よーく考えてみると、エリザベスはフランシス、ロス、ジョージ夫々の子供を産んでいます。あの時代の女の数奇な生涯を送ったのは、エリザベスだけなのです。

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