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ポスト・トランプ/ポスト・コロナの混沌とした米国社会を描く「グッドファイト5」配信中 既にシーズン6更新の発表も 益々好調のキング夫妻はCBSのお抱え契約5年延長

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「グッドファイト5」の番宣ポスターは、公共サービスキャンペーン風プラカード様になっていて、黒人対白人の一騎討ち的力強さを感じる。

2016年の米大統領選の遺憾な結果が出た時点で、「グッドワイフ」のクリエイターチーム(ロバート&ミシェル・キング夫妻)のミシェルが「ダイアンを黒人(=黒人の黒人による黒人のための)法律事務所に放り込んだら、どうかしら?」でスピンオフ「グッドファイト」の設定が決まりました。又、「グッドワイフ」も、ミシェルの一言「辞任記者会見の後、向き合った夫婦はどんな会話を交わすのかしら?」に端を発しています。ご存知でしたか?

こうして私の不死鳥アリシア・フローリック(ジュリアナ・マルグリーズ)の戦友で、筋金入りの民主党派ダイアン・ロックハート(クリスティーン・バランスキー)は、「グッドファイト」で新たな旅を始めました。

「グッドワイフ」は、オバマ政権下のシカゴが舞台でしたが、直接言及されることはありませんでした。しかし、「トランプ当選で度胸が据わった」と2016年の制作発表会の席で公表したキング夫妻は、オバマ政権下で正義を貫いた’理想に燃える進歩派弁護士’ダイアンが、トランプが崩壊にかかった民主主義を守るべく、ほとんどリアルタイムで辛辣なトランプ批判に専念しました。更に、キング夫妻が得意とするのは、メインのキャラを竜巻に吸い込み、風が止んだ時点で、とんでもない場所に着陸を強いるドラマチックな状況を創りだすことです。何度も言いますが、「天と地がひっくり返った時こそ、人間が成長する時」がキング夫妻のモットーだからです。キャラが成長する過程を描くドラマは、そんじょそこらに転がっている訳ではなく、何シーズン続いても、キャラの人生観が始まった時とほとんど変わらず、時間を無駄にしてしまった!と後悔するドラマの方が圧倒的に多いのが現状です。去る6月にCBSがお抱え契約を5年延長したのは、キング夫妻の稀なる才能と実績を高く評価した証しだと言えるでしょう。

英文評はこちらをご覧ください。

シーズン5の第一話は、100年に一度のパンデミックの魔の手が伸び始める2020年早々に始まり、3月中旬の外出禁止令発令、ジョージ・フロイド殺人事件に端を発したBLM人権擁護デモ、ルース・ベイダー・ギンズバーグ最高裁判事の死、更に21年1月6日、全米を震え上がらせた議会議事堂襲撃事件など、次から次へと米国を襲った津波級の悲劇のおさらいです。同時に、ダイアンやパートナーのエイドリアン・ボウズマン(デルロイ・リンド)、リズ・レディック(オードラ・マクドナルド)、離婚弁護士ルッカ・クィン(クッシュ・ジャンボ)、調査員ジェイ・ディパーシャ(ニャンビ・ニャンビ)とマリッサ・ゴールド(サラ・スティール)等、お馴染みのキャラがコロナ禍をどう生きたかを描きます。ジェイのみがコロナに感染して救急車で搬送され、妄想に取り憑かれたり、臨終の崖っぷちで醜い人種差別を、更に退院後も様々な後遺症を体験する展開になっています。ダイアンが、困った時の神頼みなのか、アイドルのヒラリー・クリントンを失ったためか、ギンズバーグ最高裁判事の霊に相談するのも、コロナの後遺症なのでしょうか?

ダイアン(クリスティーン・バランスキー)を拾ってくれたエイドリアン(デルロイ・リンド)は、次期大統領選に出馬する予定だったが、ジョージ・フロイド殺人事件を目の当たりにして、アトランタで第二の人生を始めると、RBL法律事務所を去る。(c) Patrick Herbron/CBS

 

パンデミックで撮影中止となり、シーズン4が尻切れトンボで完了した為、エイドリアンとルッカがシーズン5には姿を消してしまう経緯も第一話に盛り込まれています。お陰で、存在感のあったキャラ2人に正式に別れを告げることができました。ルッカは私の想像通りでしたが、エイドリアンの再出発は、明らかにジョージ・フロイド殺人事件に端を発したBLM運動の影響です。

家族法部門で活躍していたルッカ(クッシュ・ジャンボ)は、実力に見合う報酬をもらっていない事に不満を抱いていた。シーズン4に登場したコスメ成金ビアンカは、そんなルッカをあの手この手で引き抜こうとする。(c) Elizabeth Fisher/CBS

 

若者と黒人票で当選したと言われるバイデン大統領に政権が交代したことで、父カール・レディックが設立した黒人の法律事務所を元の栄光に導くのは、娘リズの肩にかかっています。シーズン1では、所謂「ダイバーシティ雇用」とエイドリアンがからかいながら引き抜いたダイアンは、今回の政権交代で黒人の法律事務所を切り盛りするには「そぐわない存在」に急転、下からの突き上げや批判をもろに受け、ネームパートナー職(事務所の名前の一部となる出資パートナー、主に経営に携わる)を追われるやも知れず、針の筵の毎日です。リズと二人で女性のみの法律事務所を開設しようと持ちかけても、リズはのらりくらりと交わすのみです。折から、夫カート・マクヴェイ(ゲーリー・コール)が議会議事堂襲撃事件の主犯容疑をかけられ、又々夫を守るために奔走することになります。妻は民主党派、夫は共和党派と相対する世界観を維持しつつも、夫婦でいることは現在の分断した米国では、至難の業なのでしょう。ダイアンとカートの結婚号は、荒波を乗り越えられるのでしょうか?それとも座礁してしまうのでしょうか?

エイドリアンから「全ては君の肩にかかっている」と言われたリズ(オードラ・マクドナルド)は、シーズン3に秘密結社で同志として闘ったダイアンとは言え、最早ネームパートナーとして経営を任せて良いものかどうか、迷い始める。かと言って、降格すると、ダイアンのクライアントを失う羽目になることは目に見えている。(c) Patrick Herbron/CBS

 

今シーズンの新キャラは、RL(レディック・ロックハート)法律事務所のアソシエイツ1年生(パートナー弁護士の補佐役をする若手弁護士)として入所した28歳、法学部を卒業して8ヶ月のカルメン・モヨ(シャーメイン・ビンワ)です。研修中に訪れたセキュリティ刑務所で服役中の麻薬王リヴィ(トニー・プラナ)やレイプ容疑者コールマンの弁護に抜擢され、リズの不審を買います。経験が浅い故の無知のなせる技なのか、無敵を誇るカルメンの能面の裏には何が隠されているのでしょう?時々、カルメンが口にする道徳心欠如を示唆する言葉に、一体どんな過去を抱えているのだろう?と考えてしまう謎の女として描かれています。

 

ダイアンのアシスタントから調査員になり重宝がられていたマリッサ・ゴールドは、やり甲斐のある仕事を求めて模索中。ルッカの推薦でシカゴーケント大学法学部に入学したマリッサは、カルメンと同じくアソシエイツ1年生として、RLの研修を受け始めます。

「グッドワイフ」で、イーライ・ゴールドの娘として時々顔を出していたマリッサは、シーズン6からアリシアのボディーウーマンとして活躍。「グッドファイト」では、ダイアンの押しかけ秘書から調査員を経て、シーズン5では弁護士の卵として、似非法廷で活躍(?)する。(c) Patrick Herbron/CBS

 

ある日、調査員として関わっていた案件を補佐するようにダイアンに言われて、コピー店の奥で人知れず開催される似非法廷に出くわします。マリッサが目にしたのは、判事でもない、弁護士でもないハル・ワックナー(マンディ・パティンキン)によるスピードと公平をモットーとする仲裁でした。あれよあれよと言う間に、弁護士の真似事をすることになったマリッサですが、持ち前の辛辣さがワックナーに受けて、繁く足を運んでいるうちに、弁護士としての意見を求められ、果ては裁判所書記官にと誘われます。ワックナーは、「万人にアクセスできて初めて正義と言える」と確信しており、裁判引き延ばし作戦で大手企業が、庶民から公平に闘うチャンスを奪っている現存の法廷制度を覆そうと躍起になっています。金と人脈に物を言わせて特権階級が’買う’正義は、庶民にはとても太刀打ちできないからです。そんなワックナーの元に、長年共和党選挙資金に出資して来た富豪デビッド・コード(スティーブン・ラング)やゲーム番組を制作するデル・クーパー(ウェイン・ブローディ)が、「米国を救おう!」と集まってきます。ワックナーの似非法廷は、伝統や四角四面の考え方に捉われない、斬新な正義を目指しているかのように見えますが、次第に三人三様の腹黒さが見え始めます。そんな渦中の人ワックナーの法律コンサルタントを引き受けたばっかりに、RL法律事務所は「米国を救おう!」軍団の茶番劇や訴訟に巻き込まれ、収拾がつかなくなります。

シーズン5は、トランプの独裁や横暴ぶり、毎日の狂気の沙汰から解放されたポスト・トランプ社会で、何が起こっているかにスポットライトを当てます。恒例の漫画で「通信品位法230条」が説明され、インターネット企業(Facebook、Google、Twitter等)は、第三者が提供したコンテンツを掲載して何か問題が生じても法的責任はない事が明らかになります。つまり、誹謗中傷はおろか犯罪を促すような悪意ある情報を発信し実害が出ても、「表現の自由」を楯に取って、責任回避できるのです。チャムハムを相手取った裁判の内容を聞くと、1996年に成立したこの条例は、明らかにインターネット企業が旧メディア(新聞・雑誌・ケーブルテレビ)を押さえ込んで倒産に導き、何の制約も受けずに成長できるように定められたものだと判明します。

「米国を救おう!」軍団によるスピードと公平をモットーとする仲裁に一抹の光を見出すのは、第四話くらいまでです。ポスト・トランプ社会では、法律の箍が完全に外れ無法国家に成り下がり、私利私欲に走る輩や主義主張を貫こうと暴力に訴える白人至上主義者やトランプ派人間などが、全米各地でカオスを引き起こしています。コロナ禍が浮き彫りにした社会全体に組み込まれた人種差別がまかり通っていた社会は、解決の糸口さえ掴めない難問が山積みで、今更’従来のノーマル’=プリ・コロナ社会には戻れません。かと言ってニューノーマル(かつての社会とは異なる新たな世界秩序)は、雲を掴むような話です。「グッドファイト5」は、ポスト・トランプ/ポスト・コロナの混沌とした米国社会を見事に描いていますが、シーズン3と同様、日本の視聴者には眉唾物にしか映らないかもしれません。

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