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ABCのお涙頂戴新ドラマ「A Million Little Things」は、「THIS IS US 36歳、これから」級のヒット作になるか?

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© ABC

昨シーズン(2017~18年)「THIS IS US 36歳、これから」を模した柳の下のドジョウ狙いドラマが一本も登場せず、地上波もケーブル局もとても太刀打ちできないと諦めたかのように見えました。しかし、1シーズンクッションを置いて、去る9月26日、ABCにお涙頂戴新ドラマ「A Million Little Things」が鳴物入りで登場しました。

8月7日に開催されたTCAプレスツアーでパネルインタビューを実施したドラマは、「A Million Little Things」と「The Rookie」の2本で、毎年あーでもない、こーでもないと試行錯誤を繰り返してヒットを生み出そうと努力して来たABCとしては、実にお粗末なプレスツアーでした。ABCが三種の神器(「LOST」「デスパレートな妻たち」「グレイズ・アナトミー」)で全盛を誇っていた時に、テレビ評論家の仕事を始めただけに、火の消えたような、全く元気のないABCを見ると、心が痛みます。ションダ・ライムズ局にしてしまった挙げ句の果て、「グレイズ」のみを残して、Netflixのお抱えプロデューサーにそそくさと鞍替えされ、二進も三進もいかないのでしょうか?それとも、Foxを合併吸収して巨大化し、ネット配信でNetflixに対抗する事しか頭にないのかも知れません。新作は、その一大プロジェクトが終わってからと思っている節があります。来春に予定されているスコット・フォーリー主演の「Whiskey Cavalier」を今秋に早めた方が良かったと思います。

今秋の新ドラマ「A Million Little Things」は、幸い心理分析が三度の食事より好きな私には、大歓迎のドラマです。但し、柳の下のドジョウ狙いは明らかなのと、8月中旬から始まった番宣トレーラーの攻撃に(特に、ABCでは5分毎に流していたような….)興醒めした人が多いのか、26日のプレミア視聴率は、NBC「シカゴ・ファイアー」シーズンプレミア2時間には勝てず(4.9)、昨年までこの時間枠で頑張っていた「Designated Survivor」同様の3.9で、期待を裏切る結果となりました。

プレミア前に公開した英文評はこちらをご覧ください。

「A Million Little Things」は、たまたまエレベーターに閉じ込められた4人の男性がボストン・ブルーインズ(プロアイスホッケーチーム)の試合に通っているうちに生まれた友情を描きます。皆のまとめ役「完璧ジョン」(ロン・リビングストン)がある日、飛び降り自殺をして、10年余り培った友情が試されます。家族も仕事も富も地位も、何もかも手に入れた完璧ジョンが何故?何を悩んでいたのか?何故、誰も知らなかったのか?阻止できたかも知れない?など、何故?が渦巻き、疚しさと後悔に苛まれたグループは、奈落の底に突き落とされます。ジョンが抜けたグループは、この逆境を切り抜けられるでしょうか?

ゲーリー(ジェームズ・ロデイ)は、ガンと闘う保険会社社員ですが、ジョン亡き後、どういうわけかグループのリーダー格になってしまいます。アルコール依存症を克服したエディ(デヴィッド・ジュントーリ)は、妻キャサリン(グレース・パーク)が弁護士をして稼いで来るので、独り息子の世話をする育メンです。一方、ローム(ロマニー・マルコ)はCF制作で何とか食べていますが、映画作りの夢を果たせない人生に失望し、大量の薬を飲み込もうとしている時に、ジョンの死を知らされて思い止まります。

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8月7日TCAプレスツアーに勢揃いしたキャスト。(左から)デライラ役ショスタク、マギー役ミラー、ゲーリー役ロデイ、ジョン役リビングストン、アシュリー役クリスティーナ・オチョア、レジーナ役モーゼス、エディ役ジュントーリ、キャサリン役パーク、ローム役マルコ。

ロームの妻レジーナ(クリスティーナ・モーゼス)は、夫の絶望感など全く気づいておらず、ジョンが残してくれたレストランをオープンすることにエネルギーを注ぎます。ジョンの妻デライラ(ステファニー・ショスタク)は、夫の悩みに気がつかなかったのか?気づいていたのか?は、パイロットでは不明です。食事会に来たジョンのアシスタント、アシュリー(クリスティーナ・オチョア)から、自殺の糸口を探ろうとする所をみると、全く気づいていなかったようです。家族や友達には見せない職場ジョンを知っているアシュリーですが、遺書を隠した事実は否めません。ゲーリーがガン生存者サポートグループで巡り合ったマギー(アリソン・ミラー)は告別式に参加し、新参者にも関わらず、グループにすんなり受け入れられます。うつ病専門の臨床心理学者で、何故?を追求する友達に、人間誰だって身内に知られたくない秘密を抱えているものだと説明します。

私事で恐縮ですが、パイロットを観た時、元夫がうつ病で自殺する場所を探していると打ち明け、何とか生きてもらわねばと奔走した日々がまざまざと蘇って、胸が苦しくなりました。パネルインタビューで、本作のクリエイターDJナッシュが、「何十年ぶりにばったり会った友達とお昼を食べる約束をしていたのに、1週間後に自殺してしまった。あの時の悔しさをドラマにしたかった」と制作の動機を語ってくれました。で、す、よ、ね。身近な人が自殺した体験のない人には表現できないやるせなさ、辛さ、悲しさが如実に描かれている訳です。

© ABC/Image Group LA

8月7日TCAプレスツアーのパネルインタビュー。前列左からクリエイターのDJナッシュ、ミラー、マルコ、リビングストン、ショスタク、EP(Executive Producer)デイナ・オナー。後列左からオチョア、ロデイ、モーゼス、ジュントーリ、パークス、EPジェームス・グリフィス

一寸先も見えない深い霧のかかったうつ病の暗闇で、私は必死に夫に手を差し伸べていたのです。しかし、夫は刻々と怒りの奈落に転落して行き、素人の私には手も足も出ない重症になって行きました。元々、繊細な割には、感情表現ができず、特に怒りをどんどん心の奥に押し込んで表現しない分、怒りの矛先を向けた自分がうつ病になったと理解しています。四六時中監視していたかったのですが、底に穴が開いた「結婚号」と言う名のボートは、どんどん浸水しており、健康体の私が稼いで来なければ、ボートは沈んでしまいます。看病と稼ぎ手、しかもパートに出ている間は(通勤時間も含めて1日10時間は留守にする訳ですから)、今晩帰宅したら夫は家にいるだろうか?いつ何時、警察から電話がかかってくるかも知れない!ピリピリ、ビクビクの日が続きました。よく、生き延びたものです!半年ほどして、夫は両親に相談しに行くと家を出たまま、二度と顔を合わす事はありませんでした。あの時の、恐怖と絶望感は今思い出しても、涙が出て止まりません。遠方から、離婚を言い渡され、一体何が起こったのだろうと考えている内に、新しい現実をこなして行くしか手がなく、今に至ってしまいました。

「A Million Little Things」のキャラ同様、私も長年に渡って何故?を探索して来ました。「偶然なんてない、全て必然だ」が口癖だった完璧ジョンのモーニングコールだったのでしょうか?様々な理由で足踏みを続ける仲間の背中を押して、新しい未来に前進させるためでしょうか?うつ病に苦しむ人の自殺の理由は、「自分がいない方が皆幸せになれる」だとか。ジョンもそう思ったのでしょうか?

私は元夫の家族から「うつ病にしたのはお前だ!」と責められましたが、あの時点で、できる限りの手を尽くしたので、悔いはありません。誓いの言葉「健やかなる時も病める時も」「喜びの時も悲しみの時も」を忠実に守ったのは私だけだったのです。ジョンがうつ病で自殺を考えていたなど、全く知らなかった、気が付かなかったデライラが誰よりも辛い筈です。全く利害関係のない見ず知らずの女性には曝け出せても、男は奥さんにだけは弱味は吐きません。プライドが許さないからです。夫が病んでいることを重々承知していた私の方が、デライラよりはラッキーなのかも知れませんね?何も気づいておらず、自殺の理由が謎では、疚しさは一生付きまとうに違いありません。特に、デライラには誰にも知られたくない秘密があるからです。これは、パイロットの最後にジャーンと明かされるので、ここでは言えませんが….私なら、疚しさに苛まれて、生きていけないと思います。

さて、うつ病や自殺など、暗~いテーマを扱う「A Million Little Things」の運命は?

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