9月20日、LA現地時間午後5時から3時間に渡って、第72回エミー賞授賞式が開催されました。パンデミック収束の目処が立たず、天災、人災(政情不安、経済破綻など)に見舞われ、お先真っ暗などん底状態で開催されたテレビ業界最大の祭典は、エミー史上初のバーチャルと生中継を巧みに混ぜ合わせた前代未聞のイベントとなりました。
最初の数分は、観客を前にジミー・キンメルが開会のジョークを飛ばし、まるで非常時ではないような授賞式の模様が映し出されましたが、実は. . .空の会場に向かって、舞台に一人寂しく立って授賞式を進めようとしているキンメルの姿があります。去年の平常時の映像を巧みに編集したものと思われます。今年は、コロナ対策で屋内で観衆が集うことが禁止されているため、司会者キンメルや12人のプレゼンターがステイプルズ・センターから生中継し、候補者は、夫々の自宅/スタジオ/パーティー会場などで待機、リモート参加します。遠隔会議が日常となった昨今でも、130人を相手にテレビ会議を行なっているようなもので、スケールの大きさには圧倒されます。こうして、パンデミー(パンデミック+エミー)授賞式が始まりました。
発表時の手順としては、ステイプルズ・センター会場で、キンメルがノミネートされた俳優を読み上げると、背後のスクリーンに写真が映し出されます。そして、今か今かと発表を待ち侘びているリモート参加候補者の映像が世界各地から送られて来ます。発表直前にはそのスタンバイ映像がノミネート数に応じて6~8画面に分割されます。我が家の50インチ程度のテレビの画面では、どれを注視するべき?と迷っているうちに、時間切れ!結局どれもよく見えなかったという不満が残りました。テクノロジーが進化したとは言え、やはりプロが撮影した画像とスマホなどで撮影したビデオでは、画質に大きな差がありますし、臨場感と言う意味では、通常のエミー授賞式にはとてもかないません。
最も通常に近い映像を送ってくれたのは、トロントのある豪邸の庭にテントを建ててパンデミー授賞式にリモート参加した「シッツ・クリーク」制作陣でした。コメディ部門の7カテゴリーの賞を総ナメした事だけでも、エミーの歴史に残る快挙だと言うのに、Zoomを使ってあそこまで受賞者の興奮や感激が伝わってくる高質画像を送って来てくれた!と、カナダ陣は今週テレビ業界の注目の的です。
コメディ部門7賞を総ナメした「シッツ・クリーク」の逸話監督賞をダンと共に受賞したアンドリュー・シビディーノは、発表を聞いた途端、興奮してダンと三度も抱き合って喜びを分かち合いました。笑ってしまったのは、開口一番「やば!顔に触ってしまったし、3回もハグしてしまった。コロナ対策なんてどこ吹く風!をやってしまった!」でした。
今回、コロナ対策としてエミー像宅配係なる役目が新たに設けられました。タキシード柄のハズマットスーツ(防護服)で、リモート参加者のいる所に宅配します。やはり、受賞者にはエミー像を握ってスピーチをして欲しいもの。宅配と言うからには、全米だけだったのか、海外から参加した受賞者は、エミー像無しで受賞の喜びを語り物足りない場面もありました。
宅配人は本当に各リモート参加者の元に参じて、発表があるまでエミー像を手に外で待機し、受賞者ではないと判明すると、さっさと像を持って去って行く段取りになっていたのです。ラミー・ユセフ(「ラミー 自分探しの旅」)がツイートするまで、本当に候補者全員の元で、しばらく待機していたなんて夢にも思いませんでした。受賞を逃した人には、手の届く所にあった、喉から手が出るほど欲しいエミー像が、去って行くのを目の当たりにするのは、まさに酷!としか言いようがありません。通常は、ステージに上がって受賞するまでは、エミー像に近付けない訳ですから、宅配は残酷そのものです。今年ノミネートされたのが運の尽き?です。
宅配人ではない、別の方法でエミーを受け取った人が一人だけいます。リモートコントロールで開く箱入りのエミー像を受け取ったジョン・オリバー(「ラスト・ウィーク・トゥナイト・ウィズ・ジョン・オリヴァー 」)です。あの仕掛けだと、紙吹雪の掃除は誰がするのかな~と所帯臭い考えが一瞬頭をよぎり、男性ならこんなこと考えない?と笑ってしまった私です。
レッドカーペットがないのも、煌びやかさに欠けた大きな原因です。自宅で受賞するし、時間が時間だから(東海岸では午後8時から開始)パジャマで画面に登場すると発表した俳優やタレントが多数いましたが、実際にパジャマ姿(と言うよりは、ガウンでしょうか?)だったのは、ドラマ部門助演女優賞を昨年に引き続き受賞したジュリア・ガーナー(「オザークへようこそ」)と共に画面に登場したご主人マーク・フォスターのみでした。
やはり、イブニング姿の女優とタキシードで決めた男優の晴れ姿が見られないと、煌びやかな祭典とは呼べません。メッセージの入ったTシャツ姿で登場したレジーナ・キング(「ウォッチメン」)やウゾ・アドゥバ(「ミセス・アメリカ」)は、通常のエミー賞であってもきらびやかなイブニングではなく、Tシャツにジャケットを羽織ってレッドカーペットだったのでしょうか?今回、ファッションで話題になったのは、ゼンデイアのみですが、私は今回もコックスをベストドレッサーに選びました。
受賞者/作は、9月16日に「祝!「シッツ・クリーク」とキャサリン・オハラ」でお知らせしたTCA(テレビ評論家協会)賞をそっくりそのまま拡大したような結果となり、意外や意外!でした。TCA賞には、助演カテゴリーがない上、俳優は男女を問わず個人功労賞としているため、「シッツ・クリーク」のユージン&ダン・レヴィ親子、アニー・マーフィーには賞が回らなかったのです。テレビアカデミーには、いつもガックリさせられて来たので、まさか「シッツ・クリーク」が歴史に残る快挙を遂げるなど、想像だにしませんでした。但し、最後に発表された助演女優だけ、マーフィーが獲れなかったらどうしよう?と言う不安は、時間と共に募って行ったことは確かです。とにかく、リモート参加でも美しい画像と「シッツ・クリーク」の心意気がひしひしと感じられたパンデミー授賞式の最初の1時間余りでした。真に有終の美を飾った「シッツ・クリーク」バンザーイ。既に、ケーブル局がシンジケーション契約を交わし、Netflixは10月7日から最終シーズン配信開始を発表しました。益々、注目を浴びるにふさわしい秀作です。
限定シリーズ・カテゴリーは、 レジーナ・キングを始め「ウォッチメン」が、11部門のエミーを受賞しました。ドラマ部門では、やはり「キング・オブ・メディア」が最優秀ドラマ賞、主演男優賞はジェレミー・ストロングが獲得しました。また、脚本賞と監督賞も獲得し、ドラマ部門の主要4カテゴリーを制覇しました。
第72回エミー賞 授賞式
放送日時:9 月 26 日(土) 夜 11:00~1:30 ほか (字幕版)
FOXチャンネルにて日本独占放送
本年の司会を務めるのは、米 ABC で最も長く続いている深夜のトークショー「ジミー・キンメル・ライブ」のホスト兼エグゼクティブプロデューサーを務めるジミー・キンメル。2012 年、2016 年に次いで今回は自身 3 度目となる。1 年に 1 度の大舞台を取り仕切る名司会者の手腕にも注目が集まる。
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◇Meg Mimura: ハリウッドを拠点に活動するテレビ評論家。Television Critics Association (TCA)会員として年2回開催される新番組内覧会に参加する唯一の日本人。Academy of Television Arts & Sciences (ATAS)会員でもある。アメリカ在住20余年。