期待の「アメリカン・クライム・ストーリー」第三弾「Impeachment」9月7日から放送開始 政争の道具にされた女達のレンズを通して描くクリントン弾劾裁判 制作に関与したモニカ・ルインスキーは、23年前に押された烙印を消せるか?

ビル・クリントン(クライヴ・オーフェン・左)には珍しく、22歳のモニカ・ルインスキー(ビーニー・フェルドスタイン)と大統領執務室で2年余りに渡って密会を続けていた。双方同意の不倫だったとは言え、27歳と言う歳の差と大統領と実習生と言う地位の格差を考えると、明らかにパワハラ=職権濫用だが、罵詈雑言を浴びて晒し者になったのはモニカのみだった。(c)Tina Thorpe/FX
ビル・クリントン(クライヴ・オーフェン・左)には珍しく、22歳のモニカ・ルインスキー(ビーニー・フェルドスタイン)と大統領執務室で2年余りに渡って密会を続けていた。双方同意の不倫だったとは言え、27歳と言う歳の差と大統領と実習生と言う地位の格差を考えると、明らかにパワハラ=職権濫用だが、罵詈雑言を浴びて晒し者になったのはモニカのみだった。(c)Tina Thorpe/FX

去る8月20日に開催された2021年夏のTCAプレスツアーの「Impeachment: American Crime Story」バーチャル・パネルインタビューで、プロデューサーのブラッド・シンプソンは、「モニカをコンサルタントに迎えて、その場で見聞き、体験した張本人にしか表現できない『モニカの真実と詳細』を映像にすることが、使命」と語りました。モニカとは、「アメリカン・クライム・ストーリー」第三弾(FXケーブル局)が取り上げる第42代アメリカ大統領ビル・クリントンの弾劾裁判の引き金となった、セックス・スキャンダルの張本人モニカ・ルインスキーのことです。ルインスキーは、パネルインタビューに参加しませんでしたが、プロデューサーのニナ・ジェイコブソンは「事件の張本人がコンサルタントとして参加するドラマ制作は初体験。信じられないスキャンダルの大波に呑まれて、声を失った上、特別検察官ケン・スターや弁護士から口止めされて、黙々と耐えたモニカの真実を描くことがライアン・マーフィーのお達しだったから」と語り、1998年以来、完全に闇に葬られていたモニカの真実・言い分にスポットライトを当てなければ無意味だと強調しました。

因みに、ジェイコブソンとシンプソンがクリントンの弾劾を「アメリカン・クライム・ストーリー」アンソロジーシリーズとして取り上げたいと思ったのは、第一弾「O・J・シンプソン事件」制作中の2016年だったと言いますから、二人の執念でここまで漕ぎ着けたと言っても過言ではありません。マーフィーがその頃からルインスキーの説得にかかり、根回しに専念しました。そして、2019年にルインスキー自身がプロデューサーの1人として制作陣に参加し、実際に起きた’犯罪’を忠実に描くという番組のモットーに則り、サラ・バージェスが書いた脚本のチェックをルインスキーに任せ、17年に発表されたジェフリー・トービンのベストセラー「A Vast Conspiracy: The Real Sex Scandal That Nearly Brought Down A President」は、飽くまでも参考資料の一部として使用。ルインスキー以外の事件当事者は、著書(ほとんど全員と言って良いほど、回顧録を出版)、インタビューやドキュメンタリー、大陪審での証言などを基に描かれています。

「アメリカン・クライム・ストーリー」第三弾「Impeachment(=弾劾)」は、今では歴史の範疇に入る米政治史に残る汚点と言うべき弾劾裁判に至る過程で、クリントン引き摺り下ろし作戦に政敵が利用した、ポーラ・ジョーンズとモニカ・ルインスキーの二人の目から見た醜い政界を描きます。

火の無い所に煙は立たないと言いますが、アーカンソー州検事/知事時代から、好色家クリントンの数限りない御乱行は公然の秘密でした。1994年に、ポーラ・ジョーンズ(アナリー・アッシュフォード)がセクハラ容疑でクリントン(クライヴ・オーウェン)を告訴した事から、クリントン政権ドミノ倒しが始まります。倫理観のないクリントン夫妻の行動パターンを露呈しようと、超保守派や女権運動家の弁護士が共和党支持者から援助を受けて、ポーラの信憑性を高めるために弁護や広報活動に全力を注ぎました。「ミセス・アメリカ」(2020年6月17日)でご紹介したフィリス・シュラフリーを彷彿とさせる弁護士・メディア論客のアン・クルター(コビー・スマルダーズ)は、ポーラの生ぬるい謝罪要求や賠償金請求(保険から降りて、クリントン本人の腹は痛まないから)だけでは物足りないと、セクハラ告訴の弁論趣意書を書く役目を買って出たほどで、最初からクリントンは嘘つきだから弾劾裁判に持ち込めると確信しての行動です。

 

このドラマで唯一、純朴なポーラ・ジョーンズ(アナリー・アッシュフォード)は、クリントンの謝罪で名誉挽回すれば、元の生活に戻れると信じていたが. . .夫スティーブをはじめとして、手を差し伸べる人間は皆企みがあってのこと。(c) Kurt Iswarienko/FX

 

1998年、ジョーンズ訴訟の弁護団は、クリントンがホワイトハウス実習生と密会を続けているとの垂れ込みを受け、クリントンの行動パターンを実証すれば勝訴に繋がると信じて、首都ワシントンに来てからの御乱行相手のリストを作り始めました。そのリストに上がった一人が、1995年~97年まで、クリントンと2年余り不倫関係を続けていたホワイトハウス実習生モニカ・ルインスキー(ビーニー・フェルドスタイン)です。モニカののめり込む性格を知っている友人は、危ない橋を渡るなと口を酸っぱくして諭しますが、目に余るストーカー的行動が再選に差し障ることを懸念したホワイトハウス職員が、ペンタゴン(国防総省本庁舎)に異動させます。

島流しになった職場で、法律顧問付き秘書だったリンダ・トリップ(サラ・ポールセン)と出会い、ホワイトハウスから追放された被害者意識で意気投合します。不倫の一喜一憂を聞いてくれる唯一の’友達’と気を許したのがモニカの運の尽きで、ゴシップ本を書いてしがない国家公務員におさらばしようと画策するリンダの通報で、ジョーンズ公判への召喚状をつき付けられてしまいます。しかし、クリントンに脅したり宥めすかされて、二人の「不適切な関係」がバレないように、モニカは嘘の宣誓供述書を提出し、クリントンはモニカとの関係を否定しました。数日後、土地取引や融資の不正を巡るホワイトウォーター疑惑捜査を続けていた特別検察官ケン・スターは、モニカとリンダの会話を録音したテープを聴いて、モニカの偽証を知ります。1998年1月17日にドラッジ・レポート(オンラインのゴシップ紙)が、1月21日にワシントン・ポスト紙が二人の不倫をすっぱ抜き、特別検察官スターはジョーンズ訴訟とは別途、クリントンを偽証罪と司法妨害罪(個人が進行中の捜査に影響/妨害/邪魔する目的で不正に働きかける行為)で弾劾裁判に引っ張り出します。しかし、1999年2月12日、スキャンダル発覚から13ヶ月後に上院でクリントンは無罪放免となります。

 

 

 

2018年7月20日に掲載した男至上主義の「マッドメン」対’女の敵’吊るし上げ「ダイエットランド」の記事の末尾に、2015年TEDスピーチ「晒された屈辱の値段」(和訳付きのビデオを是非ご覧ください)やヴァニティ・フェア誌2018年2月号掲載の随筆で、すっかりルインスキーのファンになったことをお知らせしました。人生最大の過ちから学んだ貴重な教訓や今後の人生の使命を語るルインスキーは、20年余りに及ぶ屈辱を耐え抜いて遂に吹っ切れ、第二の人生を見出した女性の輝きに満ち満ちています。よくぞここまで耐えましたね!と、私は感涙せずにいられませんでした。ヴァニティ・フェア誌上では、「ずっと、大統領に恋をしたと思ってたけど、よくよく考えてみれば、あれは職権濫用だったと気が付いたの!」と45歳のルインスキーがパワハラを認めたのは、#MeToo運動が功を奏した証拠です。

この酸いも甘いも嚙み分けた大人の女のイメージが脳裏に焼き付いていた為でしょう。全10話のうち7話まで観た現在、23年前に押された烙印を消し去るどころか、恥の上塗り!そんな醜態は観たくなかった!と言うのが、私の正直な感想です。残り3話でどこまで話が進むのかわからないので、挽回の可能性はありますが、同意の上の不倫だとは言え、晒し者の半生を余儀なくされる、ビバリーヒルズ育ちの我儘なお嬢様の狂気の沙汰を観るのは、胸が痛みます。TEDスピーチで目にした輝かしいルインスキーと、ドラマの二十代そこそこのモニカが、同一人物だとはとても信じられません。若気の至りと言えば説明は付きますが. . .現時点でルインスキーが提唱するネットで広がる誹謗中傷を止めようという運動に参加している、十代の女性ファンは、弾劾裁判時には生まれていなかった訳ですから、このドラマで描かれるモニカの’真実’をどう受け止めるのでしょうか?

 

当年とって48歳のルインスキーは、正に酸いも甘いも嚙み分けた大人の女に成長。一方、クリントンは49歳で「不適切な関係」を始めて、未だに「公に謝罪したから、ルインスキーにはプライベートに謝る必要などない」と逃げの一手。過ちから何も学ばず歳だけ重ねた卑怯者の決まり文句だ。

 

ジェイコブソンは、このドラマで「権力の周辺で生きる女の無力感・挫折感を描きたかった」と言います。男尊女卑社会では、女は使い捨ての補佐役か、職場に花を添えるだけの存在でしかありません。特に、公務員のリンダやポーラは、キャリアアップの望みもなく、黙々と働くことのみが求められる時代でした。「力も声もない三人の女の葛藤を描きたかった」とジェイコブソンは言いますが、リンダの存在がなければ、ルインスキー・スキャンダルはあり得なかったので、私は敢えて加害者の範疇に入れます。共和党大統領ブッシュ(父)政権時に政治任用としてホワイトハウス入りしたリンダは、ホワイトハウスの隅々まで知り尽くしているベテラン秘書としてエリート意識が強く、伝統に拘る独善的で陰険な女です。クリントンに政権交代した時に、退職すれば良かったのですが、居座ることになった日から、民主党の大統領とホワイトハウスに敢えて事務所を構えたファースト・レディに、自分の聖域に土足で踏み込まれたような嫌悪感を抱くようになりました。頻繁に見聞きするクリントンの女たらし振りにムカつき、ヒラリー(イーディ・ファルコ)の嫉妬心から大統領秘書の座を追われたと言う被害者意識を持ち、上司フォスターの自殺がホワイトウォーター疑惑の捜査でクリントン夫妻の不正行為を露呈できなかったことにも、大いに不満を抱いています。「いずれ誰かが私の意見を尊重してくれて、悪を正すことができる!」とリンダは、’いずれ’を待ち続けて的外れの正義感をコンパスに、悲劇のヒロイン症候群の「かまってちゃん」タイプに凝り固まって行きます。ホワイトハウスを追放されたのがきっかけとなり、リンダは自分の人生をかけて守ってきた体制に裏切られたと感じ、クリントン夫妻に報復しようと機を狙っています。娘と言っても良いほどの22歳のお嬢ちゃんモニカに接近したのも、クリントンの暴露本を書いて恨み辛みを金と名声に替えようとしたからです。

 

クリントンの職権濫用に気が付いていた唯一の事件当事者リンダ・トリップを演じるサラ・ポールセン。8月20日のバーチャル・パネルインタビューの最初の質問の前置き「リンダは鼻持ちならない女ですが. . .」に、ポールソンは「私はそうは思わないけど、ご指摘ありがとうございます!」とキレまくった。(c) Kurt Iswarienko/FX

 

クリントンが再選されるまでと言う条件付きでモニカがペンタゴンに左遷され、リンダと巡り会わなければ、20年強の苦渋を味わうスキャンダルには至らなかったと思います。クリントンに手を切られた時に、脅迫状まがいの手紙を書いたのはリンダの入れ知恵でした。クリントンから連絡が途絶え、諦めようとした時に、じっと我慢の子でいろと諭したのもリンダです。モニカの行動とクリントンからの電話のデータをエクセルに入力して、連鎖反応のパターンを分析したのもリンダ、将来を見通す超能力があるとモニカの信頼を買った上で、22時間に及ぶ会話を録音して、暴露本を書く時の証拠にしようとしたのもリンダです。要は、平凡で退屈な毎日を少しでも面白おかしくし、しかも悲劇のヒロインを演じ続けようと、無鉄砲人間モニカを自らの政争の道具に使ったのです。しがない国家公務員の目から見れば、モニカは金もコネもある特権階級のお嬢ちゃんですから、妬みも少なからずあったでしょう。唯一の相談相手リンダに唆されたり/けしかけられたり/煽られたりして、モニカはどんどん深みにはまって行きます。そして、我が身の危険を感じたリンダは、モニカを裏切ることになります。

 

リンダは愛国心からクリントンのセクハラやパワハラを証明するカセットテープを特別検察官ケン・スターに渡したと言い張るが、実は曝露本を書く企みが仇になり、自分の身が危ないと読んだからだ。自分のことだけで精一杯のモニカは、リンダの打算的な企みを読み取る余裕がない。(c) Tina Thorpe/FX

 

マリリン・モンローと関係のあったケネディ兄弟(ジョンとボビー)、チャバキディック事件で大統領になる権利を剥奪されたエドワード・ケネディ上院議員等々、政治家の不倫スキャンダルは今に始まったことではありませんが、「英雄色を好む」と言われ、私事は今ほど取り沙汰されない時代もありました。21世紀に入って、デジタル化で拡散がいとも容易になってからは、愛人と一緒にいる写真を撮られてバレるのは序の口で、不用意にも自ら蒔いた種(写真やメールなどで)で、キャンセルされ政界から葬り去られる憂き目にあった政府高官は後を絶ちません。何故、墓穴を掘るような真似をするのか?何故、謝罪しても同じことを繰り返すのか?何故、女性高官はこの手のスキャンダルに巻き込まれないのか?等々、「グッドワイフ」の制作発表会や放送初年度(2009年)に開催されたイベントで、キャストにも、制作陣にも、このような何故?を投げかけたことを思い出します。アリシア役のジュリアナ・マルグリーズが「女は生活に追われて、そんなこと考える暇も余裕もないわ!」が未だに忘れられません。(笑)しかし、この手のスキャンダルが暴露される度に、「えー、『卑劣漢です!』って広告塔を掲げているじゃない?」と、被害者には危険、危険!と警報を鳴らしてくれる探知器が備わっていないのかしら?と思ってしまう私です。でも、こう言う好色家は、カリスマがあって、抵抗できない魅力を備えているもの!と、反論されるとぐうの音も出ません。どの業界でも、地位も力も持ち合わせない女性が被害者なので、「弱き者、汝の名は女なり」を地で行く過程を目撃するにつけ、同じ女として、加害者はキャンセルされるべき!と憤りを感じると同時に、羊の皮を着た狼を嗅ぎ分ける探知器付きで生まれたことに大いに感謝する次第です。

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