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「マッドメン」が謳歌した男の横暴振りに辟易した現代女性を描く「Dietland」 – 「マッドメン」クリエイターのセクハラを野放しにしたAMCのせめてもの罪滅ぼし?AMCが男至上主義から’女の敵’吊し上げに寝返った裏事情

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AMC局の名を馳せたドラマは、正に両極端。男の横暴が罷り通った1960~70年代の「MAD MEN マッドメン」(2007~15年)(左)に刃向かう現代女性を描く「Dietland」(2018~)。オリジナルドラマの数が少ないこともあって、2作の対比は衝撃的だが、裏事情を追求して行くと... WENN.com

前回、今一番面白い奇想天外なドラマ「Dietland」をご紹介しましたが、AMC局のオリジナル・ドラマが、あちこちの局で放送されている日本では、マーティー・ノクソンが手掛けた「Dietland」と、マシュー・ワイナーの「MAD MEN マッドメン」との因果関係は見えてこないと思うので、敢えて番組紹介とは別に書くことにしました。

先ず、American Movie Classics(AMC)は、局名から明らかなように、昔はクラシック映画ばかりを放送していたケーブル局。2007年、クラッシック映画にしっくり馴染むオリジナル・ドラマが欲しいと「MAD MEN マッドメン」を発表して、いきなりスポットライトを浴び、翌2008年「ブレイキング・バッド」、2010年には「ウォーキング・デッド」を発表し、エミー賞受賞/ノミネート数から明らかなように、押しも押されもせぬケーブル局となりました。 「マッドメン」シーズン2までは、幸せを手に入れようと暗中模索する1960年代の広告マンを描く秀作!と絶賛し、声を大にして推薦していた私です。ところが、シーズン3に入って「マッドメン」の世界では、どのキャラも人間として全く成長しないこと、善良なキャラを次々と弾き飛ばす卑劣人間集団でしかないことに嫌気が差し、ワイナーが言う所の「ビジョン」に疑問を抱いてしまいました。以降、酒と女遊びの合間に業界の「プリンス」振りを発揮していたドン・ドレイパー(ジョン・ハム)が、広告代理店の吸収合併戦に巻き込まれ、自暴自棄になって行く過程が延々5シーズン続きました。そして、挙げ句の果てのハッピーエンド。あれだけ多くの人を傷つけた卑劣人間/女の敵/飲んだくれ/変化を飽くまで拒否していた女嫌いの中年男が、又もや再出発の機会を与えられた!?あり得ない終末を目の当たりにして、ワイナーの男としての生き方ファンタジーだったのか?と失望しました。

エミー賞受賞時に、「好き勝手させてもらえる業界唯一のクリエイター」と述べたマシュー・ワイナー。17年11月にセクハラ疑惑が浮上し、公には否定したものの、アマゾン用に制作中だった「The Romanoffs」にケチが付いた上、11月7日発刊のワイナーの処女作「Heather: The Totality」の販売促進全米書店ツアーもキャンセルされた。アマゾン自体、コンテンツ担当のアマゾン・スタジオ副社長ロイ・プライスがセクハラで失脚、プライスが練っていたワインスタイン社絡みの企画が全てキャンセルされた大混乱の真っ最中で、ワイナー創作・演出の「The Romanoffs」もワインスタイン社絡みであったことから、事は複雑を極めており、ストリーミング開始はいつになることやら?類は友を呼ぶとはよく言ったものだ

 

自分のビジョンを最後まで貫き通した数少ない放送作家として、テレビ史に大きな足跡を残したワイナーは、DVDの解説から明らかなように、ドレイパー(ハム)へのラブレターとして「マッドメン」を創作したようです。1960年~70年代米国の男社会や男が仕切る故の横暴振りを謳歌し、ドレイパーの色男振りを褒め称えました。日本でも「浮気は男の甲斐性」と言われ、お妾さんを囲っても、収入や地位(=甲斐性)の証しと奥方は黙認せざるを得なかった時代です。男は大黒柱、女は良妻賢母と、男女の役割分担がはっきり二分していました。甲斐性のない女は離婚など以ての外、夫の浮気や横暴を黙認して、忍の一字を決め込まなければ生きられない家父制の世の中が続いてきました。

私は、独立独歩、自由に生きたいと米国に逃げて来ました。未だに賃金には男女差があるものの、女性の職場進出が当たり前と言うか、共働きしないとマイホームを買えなくなってしまった今でも、年齢と共に女が飛躍する可能性が先細りする日本と比べれば、まだまだ月とスッポン!と信じていました。しかし、ビル・コスビーやハーヴェイ・ワインスタインに代表される一連のセクハラや暴行疑惑/告発/訴訟等が、あれよあれよと言う間に、米国の歴史始まって以来の抜本的改革に向かっているのは、昨秋来、あらゆる「抑圧」を排除しなければ、真の変革はあり得ないと女性(特に若い女性)が目覚めたからです。草の根運動を山火事の如く広めるデジタル時代の賜物が#MeTooやTime’s Up運動で、社会が課する非現実的な外見や美の基準から外れた人間、富も地位もない人間を家畜・家財扱いするな!の叫びです。

「Dietland」は、ファッションやコスメ業界、ダイエット業界、果ては女嫌いやレイプ文化を助長するポルノ業界にまで、非難の矛先を向けます。又、セクハラ被害者の言い分を無視/否定せず、事実追及に団結して助け合う最近の女性の動きに、アニータ・ヒル(1991年、最高裁クラレンス・トーマス判事承認の議会公聴会に民主党が無理矢理引っぱり出した元トーマスの部下。2016年HBOのテレビ映画「Confirmation」となった)やモニカ・ルインスキー(史上最大のセックス・スキャンダルを生き延びた、元ホワイト・ハウス・インターン。当時の大統領クリントンの罷免に繋がりそうになった)等の、職場セクハラ告発パイオニアには目を見張るものがあるに違いありません。

「Dietland」のクリエイターで、今や引っ張り凧プロデューサーになったノクソンは、2008~09年の2年間、「マッドメン」のコンサルティング・プロデューサーを務めた経験の持ち主です。ワイナーの下で20本の脚本を書いて、歴史に残るドラマ作りに携わっていました。2016年、ノクソンにとっても古巣AMC局が異色作「Dietland」の放送権を競り落したまでは良かったのですが…翌17年11月にワイナーのセクハラ疑惑が浮上しました。08~09年当時ライターを管理する立場にあったノクソンは、告発したケイター・ゴードンを支持すべきかどうか躊躇したと言います。「Dietland」放送前にゴードンの後押しをすれば、AMCのドル箱ドラマ「マッドメン」に泥を塗る訳ですから、即刻縁を切られても不思議ではありません。しかし、AMCのお偉方(匿名)は、「実はそうではないかなと薄々察してはいましたが、証拠がなくて…今更ですが、迷惑をかけました」と謝罪し、ノクソンに判断を一任しました。

マーティー・ノクソンの売りは、一瞬たりとも事実から目を背けないドラマ。最近の「自虐三作」(「To the Bone」「Dietland」「Sharp Objects」)は、女が自暴自棄/暴力に走って何が悪い?と社会に挑戦する。ノクソンのドラマには「よくぞ言ってくれました!」と拍手喝采したくなる場面が満載で、ノクソン自身も女性・年齢差別などを体験した事は明白だ

 

当時スタッフ・ライターで、09年にワイナーと共著した脚本でエミー賞最優秀脚本賞受賞を果たしたゴードンは、「ライターにしてやったんだから、裸を見せてもらおうかな」とワイナーが言い寄ったと告発。ワイナーの私事専用アシスタント(職場のアシスタントより下の地位)から、ライター補佐を経て、スタッフライターに昇格したゴードンには、今を時めく上司の下心は才能が無いと解雇されるより、根底から自尊心を傷つけたに違いありません。エミー賞まで受賞したゴードンは、申し入れに応じなかったため、約一年後に解雇されました。最も、「マッドメン」の頻繁なライター入れ替わりは、業界では有名でしたし、過去にもワイナーの職権濫用セクハラを訴えた女性ライターがいます。因みに8年の制作を通じて、ライターの男女比は半々と男のドラマにしては、意外に女性に肩入れしているような数字が出ていますが、告発したのはたった2人だけです。

ワイナーと共著した脚本で、2009年エミー賞最優秀脚本賞を受賞したケイター・ゴードン。若くして快挙を成し遂げたものの、ワイナーのセクハラでハリウッドを捨てて故郷に戻った。下っ端のアシスタント職で入り込んで、スタッフライターに昇格する出世街道は、ハリウッドで成功するごく当たり前の行程として認められているだけに、ゴードンの潔さはお見事!としか言いようがない

 

AMCの許可を得て、ノクソンは一連のツイートでゴードンを支持、またハリウッド・レポーター週刊誌6月20日号では、当時の制作環境、辞めるに辞められない下っ端のジレンマなどを語っています。「乗りに乗ってる’歴史的ヒット作’のスタッフ職を失うのは、駆け出しのライターには死ぬより辛い筈。セクハラ告発などしようものなら、職権を濫用して、有る事無い事言い触らされて、二度とハリウッドで働けなくなるわ」と述べています。ミラ・ソルヴィーノやアッシュリー・ジャッドがワインスタインから受けたセクハラも、やはり仕事と引き換えにセックスを要求し、思いのままにならなかった腹癒せに、干すという卑劣な方法です。「私は当時一家の大黒柱だったから、放り出されて路頭に迷うのが怖くて、ビクビクものだった」とも付け加えるノクソン。「何らかの安全網があって綱渡りをしている恵まれた人達は、辞めちゃえ、辞めちゃえ!と言うけど、安全網のない我々が立つ分岐点は解らないでしょ」と、ノクソンも数々の辛い体験を経て、今日があることを仄めかしています。

ワイナーの横暴振りは、女性へのセクハラに限定されていた訳ではなく、一夜明けたら御山の大将になっていた人間にありがちな、’傲慢さ’が制作現場に蔓延していたとも指摘するノクソン。「自分の思い通りにならない人間なら誰でも震え上がらせる、恐怖政治ならぬ恐怖制作だった」と言います。女が一人告発したくらいでは、口封じする方法は山とあります。告発団が鍵なのです。折しも昨年11月は、ワインスタイン、ケビン・スペイシーなど、毎日のように#MeTooと名乗りを挙げる告発者の津波が押し寄せていました。その大波に乗った女性の一人がゴードンです。 「マッドメン」終了3年後にAMCが放ったのが、ドレイパー様の白人男性が牛耳る米国社会に復讐する#MeToo運動のとどのつまり=過激な女性軍団を描く「Dietland」とは、皮肉としか言いようがありません。

しかも、AMCは「Dietland」とペアで面白い試みを始めました。抜本的革命を支援するトーク番組「Unapologetic with Aisha Tyler」は、午後10時に放送した「Dietland」の逸話について討論したり、実際の出来事や時代遅れの政治家の信じられない行動や発言を取り上げます。「Dietland」からノクソン、ジョイ・ナッシュやジュリアナ・マルグリーズ等キャスト、コメディアン、女性解放運動に携わる人、政界に精通した人、政治活動家、LGBTQなど多種多様なゲストを毎回3人迎えて、意見や体験談を披露してもらいます。 過激とは言え、女の敵に反旗を翻す「Dietland」と「Unapologetic with Aisha Tyler」が提供する今女性に不可欠な情報を基に、抜本的革命を推進しましょう!とAMCが暗に提案しているのです。ワイナーのセクハラ、職権濫用を野放しにした局の、せめてもの罪滅ぼしのように見えて仕方ありません。

ノクソンは「Unapologetic…」初回は、「とにかく中高年の白人男性は口を開かないで欲しいわ!どうせ墓穴を掘るような事しか言わないんだから」と過激な発言をし、6回目には名前は出しませんでしたが、ゴードンが告発したワイナーと、ワイナーの世界に出入りを許可された人達が受けた精神的虐待について語りました。ツイッターや業界誌だけなら未だしも、全米放送のトーク番組でここまで暴露することを許可したAMCは、余程罪の償いをしたいに違いありません。それとも、時代の流れに乗り遅れてはなるまい!津波の波頭に立とう!との意気込みでしょうか?

因みに、ゴードンはハリウッドを後にして、故郷でセクハラ撲滅を目指す非営利団体を設立し、抜本的革命に加担しています。セクハラ告発パイオニアとして挙げた前出のアニータ・ヒルは、 昨年12月にエンタメ業界にはびこるセクハラ爆滅と職場での男女平等を推進する委員会(Commission on Sexual Harassment and Advancing Equalitly in the Workplace)の会長に選ばれました。ヒル以上の適任者は考えられません。「やっと、私の声を聞いて貰える時が来た!」とヴァラエティ誌のインタビュー(2017年10月)で述べています。

アニータ・ヒルの公聴会での勇気ある発言が職場セクハラが違法行為であることを確立したドラマ「Confirmation」に感動して、ヒルの著書「Speaking Truth to Power」(邦題「権力に挑む:セクハラ被害と語る勇気」)を読んですっかりファンになってしまった私。ヒルの職場セクハラ・パイオニアとしての貢献度は高く、#MeTooやTime’s Up運動に力添えできる立場にある。今後の活躍を期待したい

 

一方、モニカ・ルインスキーは45歳になり、これまでの隠遁生活や沈黙を破り、「ずっと、大統領に恋をしたと思ってたけど、よくよく考えてみれば、あれは職権濫用だと気が付いたの」と述べています。また、ヴァニティ・フェア誌2018年2月号掲載の随筆には、「今は、独りじゃない!って、思えるようになった」と言い、#MeToo運動の威力を認めています。仲間が寄り添えば、いかなる苦しみも乗り越えられます。 極め付けは、TEDスピーチ「The Price of Shame」です。不倫スキャンダルに対するネット苛めから学んだ事、今後の人生の使命を語るルインスキーは、20年間に及ぶ屈辱に耐え抜いて遂に吹っ切れ、第二の人生の使命を見出した女性の輝きに満ち満ちています。よくぞここまで耐えましたね!と、私は感涙せずにいられませんでした。未だに、「公に謝罪したから、ルインスキーにはプライベートに謝る必要などない」と逃げの一手を決め込んだ卑怯者クリントン元大統領とは雲泥の差です。今ほど複雑な世の中ではありませんでしたが、私は小中高で苛められて、学校大嫌い人間になりました。ですから、ルインスキーが提唱するネットで広がる誹謗中傷を止めようという運動に参加したいと思います。過去の過ちから自分の使命を学び取った人の美しい姿を是非、ご覧下さい。

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