2021年秋の期待作をご紹介 「The Sinner 隠された理由4」10月13日に放送開始 米東海岸の陰鬱な孤島で繰り広げられるおどろおどろしい心理サスペンス アンブローズ刑事は遂に心の闇を曝け出す?

陰鬱な孤島の林の中で、パーシーが残したと思われる魔除けを発見するハリー・アンブローズ。パーシーは魔性のものを逃れようとしていた節がある。退職したとは言え、捜査や謎解きをしている時が一番楽しいと言うが. . .

日本でも昨年6月よりNetflixで配信中なので、ご覧になった方もあるかもしれませんが、2017年、USA Network(ケーブル局)のオリジナルシリーズとして登場した「The Sinner 隠された理由4」が、いよいよ10月13日放送開始となります。先ずは、トレーラーをご覧ください。

 

シーズン3「隠された理由:ジェイミー」でハリー・アンブローズ刑事(ビル・プルマン)は、ジェイミー(マット・ボマー)を射殺してしまった心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患い、公私共に機能できなくなったことを理由に、遂に40年勤めた警察署を退職します。およそ1年後、都会の喧騒を逃れようとソニア・バーゼル(ジェシカ・ヘクト)とやって来た、メイン州北部のハノーヴァー島で、図らずも地元の女性漁師パーシー(アリス・クレメルバーグ)の失踪を捜査する羽目になります。気まぐれな大自然相手の漁師街は、大漁や安全祈願する信心深い人が多い反面、伝説や祟りを解き祓い鎮める儀式が横行し、夜な夜な暗闇に響く不気味なうめき声はよそ者を不安に陥れます。街を牛耳るマルドゥーン一家のおどろおどろしい秘密に巻き込まれて行き、家族のしがらみは、どんなに足掻いても断ち切れない事を、再三身につまされるハリーです。

シーズン1「コーラ」は、ジェシカ・ビールが演じるコーラの惨殺の動機を粘り強く追求した結果、コーラの刑期を軽減したハリー。シーズン2「ジュリアン」は、ハリーの故郷で起きた少年ジュリアンの両親毒殺という衝撃的な事件の真相追求と同時に、ハリーの心の闇を暴きました。シーズン3「ジェイミー」は、容疑者ジェイミーの心の闇に自ら飛び込み、同類意識を持ったハリーが一線を超えた為に、家族や友人を危険に晒すことになってしまう展開でした。

私は、シーズン1「コーラ」のトレーラーを一瞥して、「デクスター」のような血みどろのドラマと判断し、完全に無視していました。しかし、米国でも、2020年2月からNetflixで配信されるようになり、シーズン3「ジェイミー」を観て、「暗っ!」と思いつつも病み付きになりました。シーズン3→2→1と逆流して観て、何故このシリーズに嵌ってしまったかが分かりました。通常のミステリーは、犯人が誰なのか?を探る推理過程を描きますが、「The Sinner」は何故こんな惨事に至ったのか?=動機を掘り起こす心理サスペンスなのです。これまで、連続殺人鬼を描く数限りない映画が動機の説明なしに幕を閉じ、「えー、何故、何故なの?」と尻切れトンボ感が募るだけで、興ざめも良いところでした。犯罪心理学が好きな私には、何がこの人をそうさせたか?と言う、動機を説明してもらわない事には、納得できない=時間の無駄でしかありません。シーズン1「コーラ」が、最も明確に動機を説明してくれて、やっと私が欲していた終幕に巡り合って、これまでにない満足感を味わいました。

「The Sinner 隠された理由:コーラ」で、平凡な主婦コーラを演じたジェシカ・ビール。シーズン2からは、プロデューサー役に徹しているが、仲睦まじく働くキャストを見ると、「羨ましくて、ロケ現場に駆けつけたくなるの!」と9月13日に行われたバーチャル・パネルインタビューで告白した。(c) Peter Kramer/USA Network

 

ペトラ・ハメスファール(ドイツのアガサ・クリスティーと呼ばれる)の同名小説を基に、デレック・シモンズがテレビ化した「The Sinner」は、ハリー・アンブローズ刑事が米東海岸の小さな町で起きた殺人事件を捜査するミステリー/犯罪捜査シリーズであると同時に、幼少期のトラウマから自己処罰行為に徹する厭世観の塊ハリーの苦渋の生き様を描く心理サスペンスでもあります。飽くまでも動機に拘るのは、容疑者が抱える痛みや闇をハリー自身の心中と擦り合わせて、感情移入し、容疑者の立場から捜査する刑事だからです。同じ一匹狼の敏腕刑事ハリーでも、ハリー・ボッシュ(2021年3月23日に「吉報!『BOSCH/ボッシュ』のスピンオフ制作決定」でご紹介)は、暗い過去を引きずる’翳り’と’親の因果が子に報い’の悲歎を匂わせつつも、心身共に強靭な正義の味方です。一方、アンブローズの’翳り’は半端ではなく、生きる価値のない罪人だと信じているからこそ、容疑者に同類意識を見出します。しかし、自分が法の執行側に立つ刑事であることに後ろめたさを感じ、自分こそ罰せられるべき人間だと密かに思っているように見受けます。罪の意識が強いからか、常に上目使いで、相手の眼を直視して、問い詰めるような事はありません。飼い主に蹴られた犬が、吠える割にはちょっとした動きに、尻尾を巻いて逃げ出す光景を思い浮かべてしまうのは、私だけでしょうか?正々堂々と悪に立ち向かうボッシュは、揺るがない信念を持っていますが、アンブローズは自尊心に大きなダメージを受けているため、自己処罰に専念しているからでしょう。

タイトルが示すように、ハリー(ビル・プルマン)も罪人だと思っているからこそ、容疑者の心痛や絶望感などに共感するが、問題は自分が刑事であること。プルマンは、「どの事件もハリーのセラピーみたいなもの」とバーチャル・パネルインタビューで述べた。(c) Matthias Clamer/USA Network

 

人間は過去の産物です。トラウマを理解できない幼少期に親から虐待を受けると、問題解決機能が発達せず、脳自体の構造にも悪影響を及ぼします。又、親に裏切られた心の傷はとてつもなく深く、大人になっても、親しい人間関係を築くことができません。処理していないトラウマは時と共に悪化し、心の壁は層を重ねて頑強になり、ぶち破る事は至難の業となります。幼少期の精神的打撃に対処していないハリーは、人生が大きく狂ってしまった悲劇の主人公だと言えます。

シーズン毎に少しずつフラッシュバックで明かされて行くハリーのトラウマは、具体的には何なのでしょうか?私は、1)虐待に耐えられなくなった少年ハリーが、台所に放火し親を焼死させた罪の意識に苛まれているため、ありのままの自分を受け入れてくれる人などいないと確信している孤独な人間になったか、2)親を殺めるつもりはなく、単なる事故だったにも関わらず、完全に記憶から抹消したつもりが、1)と同等の罪の意識に苛まれて辛苦を舐め尽くしてきた?のいずれかだと推理しました。「間違いを犯してしまった」が、いつの間にか「そもそも間違いは自分だ」に変化し、至らない人間/欠陥人間と思うようになり、自尊心が傷ついてしまったからです。娘や孫にも気を許せないのは、愛される価値のない人間だと思い込んでいるから、人を近付けない自己処罰行為の一種だと読みます。いずれにせよ、ハリーは自分が罪を犯し、罰を逃れてきたからこそ、容疑者に感情移入してしまうのでしょう。

シーズン3「ジェイミー」に登場したソニアがハリーの殻を壊して、ひた隠しにしている心の闇に接近しようと、セラピストのように押したり、引いたりして努力します。ソニアはハリーの唯一の理解者ですが、ジェイミーの凄まじい最期を体験したPTSDから立ち直るのも、長期に渡って複雑に絡んでしまった気持ちの整理、特に罪の意識や恥を紐解くのも、全てハリーの肩にかかっていると言い張り、一切手出しはしません。「側にいてあげられるだけ. . .」と言う、大人の女ソニアの言葉に絆されて、ハリーは暗い過去、心の闇を曝け出すのでしょうか?因みに、ドストエフスキーの大作「罪と罰」の主人公ラスコーリニコフを癒す娼婦の名前がソーニャと言うのは、偶然なのでしょうか?

ビル・クリントン(クライヴ・オーフェン・左)には珍しく、22歳のモニカ・ルインスキー(ビーニー・フェルドスタイン)と大統領執務室で2年余りに渡って密会を続けていた。双方同意の不倫だったとは言え、27歳と言う歳の差と大統領と実習生と言う地位の格差を考えると、明らかにパワハラ=職権濫用だが、罵詈雑言を浴びて晒し者になったのはモニカのみだった。(c)Tina Thorpe/FX

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