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スリラー<没入型体験イベント> 11/19 (土)NY現地レポート

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「全世界売り上げ累計1億枚超、<人類史上最大セールス>を記録したモンスター・アルバムが、新たな興奮と共に今再び蘇る!!」との触れ込みで、キング・オブ・ポップ=マイケル・ジャクソンの歴史的モンスター・アルバム『スリラー』の発売40周年記念盤、『Michael Jackson Thriller 40』(『スリラー<40周年記念エクスパンデッド・エディション>』)が11月18日にリリースされた。

これを記念して、NYCで11月18日から3日間限定(ドイツ・デュッセルドルフでは11月10〜13日)で「<スリラー40>没入型体験イベント」が開催されている。早速、中日である19日(土)に足を運んでみた。

根強いファンを持つ絵画や本、映画などの2Dな世界観をベースとし、音響や映像などの最先端技術を駆使して昇華させ、オリジナルのDNAを受け継ぎつつ、文字通り「別次元」での同作品の新しい解釈を促し、新旧のファンにアピールするというこの手の没入型体験イベントは近年枚挙に暇がない。ちょっと前までは、テーマパークなどにわざわざ足を運ばないとこのような体験は出来ないというのが通例だったように思うが、筆者の住むNYCでは「最新テクノロジーで魔法体験」しながら関連グッズの買い物が出来るというハリー・ポッターのショップが大人気だし、同様のインタラクティブなプロジェクションマッピング技術でゴッホの絵画の世界観に没入する、というデジタルなゴッホ展も、世界中で人気を博している。その媒体が紙であれ、レコードであれ、CDであれ、「2Dとしてしか存在しなかったアート作品を、最先端の技術で料理したらどうなる?」という検証ブームなのだろう。

SNSで拡散されることを念頭に置いた「映える撮影スポット」などを戦略的に配置してあるのがこの手のイベントのお約束で、今回お邪魔したマイケル・ジャクソンのイベントも、その延長線上にあるのだろうと勝手に想像していたのだが、完全に度肝を抜かれてしまった。

ソニー・ミュージックNYのエグゼクティブ自らが案内してくれたこの<スリラー40>没入型体験イベントは、大きく5つの柱で構成されているという。言うまでもなく、ベースとなるのは前述の歴史的怪盤、つまり1985年に「史上最も売れたアルバム」としてギネス認定を受けた『スリラー』であり、さらに詳しく言うと、同作に含まれたヒットシングル数曲のミュージックビデオ(以下MV)の世界観がその基盤となっている。

受付を済ませ、黒いカーテンを抜けるとそこはいきなり「ビリー・ジーン」部屋。これが1つ目。足元にはビリビリに破れた英字新聞や消火栓、そしてNYCでも最近最後の1台が撤去されたとニュースになった、昔懐かしい公衆電話ボックスが置かれている。そう、これは同曲のMVのセットを再現したもの。この曲から産まれた有名なダンス・ムーブの数々の「決めポーズ」をどのタイミングでやればよいか、スクリーンの指示に従いつつ踊ると、最後には自分の決めポーズやダンスが3〜4分割された画面(これももちろん同曲のMVと同じ構成)にそれぞれフィーチャーされた、10秒程度の「なりきりビリー・ジーンのMV」として作成され、QRコードからダウンロードできる仕掛けになっている。

最初は人混みにまぎれていて気付かなかったが、やけに早足でジグザクに歩く男がいるなぁ、と気になって振り向くと、同曲のMVでマイケルを尾行していた「トレンチコートにサングラス姿の怪しい男」が2名、電話ボックスや看板の後ろに隠れていたり、ループで放映されているMVに合わせていきなりダンスをしたりしていた。

その奥には、やはりこれも「ビリー・ジーン」のMV内の、とりわけアイコニックだった「マイケルが歩くたびに点灯する足元」が、ご丁寧なことに黄色い枯れ葉(何のことかわからない、という方は是非MVをおさらいしてください)と共にプロジェクションマッピングで再現されている。目の前のスクリーンに映し出されるオリジナルのMVに合わせてステップを踏むと足元が点灯するという仕掛けなのだが、そこに夢中になっていると、物陰に隠れていた怪しいトレンチコートの男が駆け寄ったりしてくるのが楽しい。デジタルなインタラクションだけでなく、昔懐かしいお化け屋敷のようなアナログな絡みもあるのだ。

次は「これは絶対に体験していって」と念を押された見どころ。<スリラー40>の記念Tシャツを着たスタッフが厳しく入場制限をしているドアの目の前まで案内され、「開いたらすぐにベストポジションを取るように」というので緊張したが、ドアの向こうには「スリラー」とだけ描かれた、映画館を模したセットがある。ここでピンと来なけりゃマイケル・ジャクソンのファンとは呼べない。期待は嫌でも盛り上がる。

コスチュームを着た「なりきり係員」の後について、今度は映画館の座席風の、真っ赤なシートが並ぶ暗い部屋へ通される。言われるままに最前席を陣取り、目の前の巨大スクリーンで映し出される4Dな「スリラー」MVを堪能していると、足元にはスモークがもくもくと焚かれ始めた。これはもう、アレしかないだろうと、観客席の誰もが目をキラキラさせながらキョロキョロしている。

すると、スモークの陰から、地面を這いつくばったり、肩をカクカクさせたりしながら、10人くらいの「なりきりゾンビ」達が登場し、三角のフォーメーションを組み始めた。そう、今日の本命=なりきりゾンビのスリラー・ダンス!アメリカに住んでいなくとも、「スリラー」をリアルタイムで聞いたことがなくとも、ポップカルチャーの素養の一つとして知っておきたいあのゾンビ・ムーブの数々が目の前で繰り広げられる幸せよ。なりきりゾンビも観客席を練り歩き、怖がらせたり、ゾンビになりきったまま自撮りに応じたり。これが2つ目の柱。

「スリラー」 Official Video (4Kリマスター)

ゾンビたちの熱演を堪能した後は、進路に沿って階段を上り2階へ。イベントを構成する柱の3本目は、今回リリースされた『スリラー<40周年記念エクスパンデッド・エディション>』をサウンド面で支える、ソニーが誇る最新技術「360 Reality Audio(サンロクマル・リアリティオーディオ)」の体験コーナー。公式サイトでは、360 Reality Audioとは「オブジェクトベースのソニーの360立体音響技術を使った新しい音楽体験」であり、また「ボーカルやコーラス、楽器などの音源一つひとつに位置情報をつけ、球状の空間に配置。アーティストの生演奏に囲まれているかのような、没入感のある立体的な音場を体感できます」とあるが、スタッフの解説によると、保有する楽曲のカタログの全てをこの360 Reality Audioに変換した初のアーティストがマイケル・ジャクソンなのだとか。もちろん今回リリースされた『スリラー40』アルバムもこの技術で裏付けされてはいるが、13台のスピーカーを専門家が戦略的に配置した空間で同作の楽曲を堪能できるのはここしかない。来場客がアルバムの中から試聴したい曲を伝えるシステムで、私が体験した時は「今夜はビート・イット」がリクエストされた。同曲といえばエディ・ヴァン・ヘイレンの煽情的なギター・ソロが有名だが、その指さばきまでが容易に想像されるような圧倒的な臨場感と、音の粒の立ち方にびっくりした。

もちろん、オープンな空間ではなく、ヘッドフォンでじっくりと全収録曲を堪能できるセクションも併設されている。欲張って全楽曲を最初のコーラスまで聴いてみた。使用されていたヘッドフォンは2種類あり、一つはソニーのワイヤレスノイズキャンセリングステレオヘッドセット(WH-1000XM5)。もう一つはオーディオテクニカのワイヤレス(ATH-HL7BT)。どちらも当然360 Reality Audio対応モデルだが、筆者はソニー製を選んだ。

ヘッドフォンから聴こえてきた声は、自分が「これがマイケルの声」と思いこんでいたのよりも、もっとハスキーでエッジがあったことに気がついた。息遣いはおろか、上唇と下唇がぶつかり、キーボードが指を叩く音まで聴こえてきそうな別次元の臨場感とクオリティ!これは、40年前、日本の地方都市に住む小学2年生だった私に「洋楽」という未知の世界を知るキッカケを与えてくれ、その後幾度となく聴いてきたあの『スリラー』とは別物のようだ。

聴いていた自分が一番驚いたことだが、これはきっと、360 Reality Audioの立体音響技術によって音の粒が「立ちのぼってくる」新感覚がもたらしてくれた奥行きや細部を初めて意識したことから生まれる、「『スリラー』仕切り直し体験」なのだろう。と同時に、さすがにあれから大人になり、色々な音楽を聴いたり、英語がわかるようになってからの、40年分の経験値と共に同作を聴いたことでもたらされる心象風景の違いも大きい。クリアに聴こえる分、一つ一つの音や歌詞がそこにそのまま存在しなくてはいけなかった理由が、40年後の肥えた耳に刺さりまくる。わかってはいたことだが、やっぱり『スリラー』は凄い。このアルバムが<人類史上最大セールス>をあげた作品だということがこれほど腑に落ちる瞬間、というのもそうないだろう。

4つ目の柱は「今夜はビート・イット」部屋。昔風のレトロな箱型TVが積み上げられ、ビリヤード台や、80年代といえば、の「パックマン」や「ドンキーコング」のゲーム機などが配置された、こちらも同曲のMVのセットを再現した構造になっている。中央部分には「バー」と称されたカウンターがあり、そこでペプシ(ある程度の年齢層の人なら、マイケルがペプシのCMに出演していたことを覚えているだろう)やスナックなどがもらえる仕組み。

あたりを見回したり写真を撮ったりしていたら、バタバタと音がする。振り向くと、ある男性がバーカウンターに仁王立ちしている。さすがにここまで来ると、同曲のMVの再現シーンだろうな、と予想はつくので周囲の来場客も速やかに周囲を取り囲み、スマホを取り出す。MVではギャング同士の抗争だったが、再現していたのは黒人と白人の両ボスの喧嘩のみ。軽やかなダンスを踏みながらのバトルシーンに嬌声があがる。個人的に面白かったのは、80年代のファッションが一巡(いや、二巡か)した今、なりきりキャストが違和感なく普通に周囲に溶け込んでいたこと。振り付けがなければ、酔ったヒップスターがモメているように見えてもおかしくなかった。

「今夜はビート・イット」 Official Video (4Kリマスター)

そして最後、5本目の柱はお待ちかねのグッズショップ。発売されたばかりのCDやアナログはもちろん、キーホルダーやマグカップ、Tシャツやスウェット、豪華な記念スタジャンなど、25〜300ドル(約3,500〜42,000円)の幅広い価格帯の商品が並んでいた。

この他にも、墓場の背景を背にしてスクリーンの前でポーズをとると、画面の中の自分の顔がゾンビになるというスリラー写真コーナー(これももちろんシェア用のQRコードつき)や、VRのヘッドセットをつけての「墓場没入」体験、「P.Y.T.」のMVを彷彿とさせる、カラフルでエンドレスなネオンをまとった自分の写真が撮れるセット、『スリラー』から輩出された数々のトップ・シングルのヴィジュアルをつなぎ合わせたものを映し出した巨大スクリーンの前に立ち、蜘蛛の巣を取り払うような仕草で大きく身体を動かすと、ヴィジュアルの全体を覆うダイヤモンドや黒いスパンコール(いかにもマイケル!なディテールが最高)が「剥がれ落ち」、マイケルのアイコニックな写真の数々がその全容をあらわすという楽しい仕掛けも。

ポスト・コロナなNYCには世界中からの観光客が戻ってきているが、今回の没入型イベントも、聴こえてきただけでも英語はもちろん、スペイン語やフランス語、アラブ語が飛び交い、多様な老若男女や家族連れで賑わっていた。まさしく、ジャンルや人種の壁を打ち破った歴史的古典の40周年記念にふさわしい光景だった。雑談を交わした黒人のおばあちゃんと、その孫だという男性は、自分がまだ小さかった頃、面倒を見てくれていたおばあちゃんの前で『スリラー』の収録曲に合わせて踊り、楽しませていたんだ、と、軽やかなステップを披露してくれた。誰もが終始にこやかで、ピースしかない最高のイベントだった。

<TEXT:渡辺深雪(bkyokocho)>

リリース情報

マイケル・ジャクソン|スリラー<40周年記念エクスパンデッド・エディション>

DISC1|スリラー:オリジナル・アルバム

01. WANNA BE STARTIN’ SOMETHIN’|スタート・サムシング
02. BABY BE MINE|ベイビー・ビー・マイン
03. THE GIRL IS MINE(with Paul McCartney)|ガール・イズ・マイン(with ポール・マッカートニー)
04. THRILLER|スリラー
05. BEAT IT|今夜はビート・イット
06. BILLIE JEAN|ビリー・ジーン
07. HUMAN NATURE|ヒューマン・ネイチャー
08. P.Y.T. (Pretty Young Thing)|P.Y.T.(Pretty Young Thing)
09. THE LADY IN MY LIFE|レディ・イン・マイ・ライフ

DISC2|アルバム制作当時の完全未発表&レア音源を含む全10曲

01. STARLIGHT|スターライト*
02. GOT THE HOTS(DEMO)|ガット・ザ・ホット<デモ>
03. WHO DO YOU KNOW(DEMO)|フー・ドぅ・ユー・ノウ<デモ>*
04. CAROUSEL|カルーセル(メリーゴーランド)
05. BEHIND THE MASK(DEMO)|ビハインド・ザ・マスク<デモ>*
06. CAN’T GET OUTTA THE RAIN|キャント・ゲット・アウタ・ザ・レイン(雨の中のダンス)
07. THE TOY(DEMO)|ザ・トイ<デモ>*
08. SUNSET DRIVER(DEMO)|サンセット・ドライヴァー<デモ>
09. WHAT A LOVELY WAY TO GO(DEMO)|ホワット・ア・ラヴリー・ウェイ・トゥ・ゴー<デモ>*
10. SHE’S TROUBLE(DEMO)|シーズ・トラブル<デモ>*

*完全未発表音源
シルバー・スリーブケース仕様
28Pカラー・ブックレット

日本盤のみの追加仕様

■高品質Blu-Spec CD2仕様
■68P日本語ブックレット
・ライムスター宇多丸、 『スリラー』のMV革命を語る!
・『スリラー』 ストーリー~「ボーダレス」な音楽を手に入れるまで+『スリラー』全曲解説 (高橋芳朗)
・『スリラー』 1982年初発売時ライナーノーツ(湯川れい子)
・英文ライナーノーツ訳
・歌詞/対訳

品番:SICP31586-31587 (CD2枚組)

価格:定価¥4,400(税抜¥4,000)

購入・再生リンク ⇒ https://sonymusicjapan.lnk.to/MichaelJackson_Thriller40

マイケル・ジャクソン:プロフィール

1958年8月29日、米インディアナ州ゲイリー生まれ。’66年、兄弟とともにジャクソン・ファイヴを結成、モータウンからデビューすると「帰ってほしいの」、「ABC」など次々にヒットを飛ばして70年代初めの音楽シーンを彩る。EPICに移籍してソロ転身後、’82年に発表した『スリラー』はMTV時代を象徴する凝ったミュージック・ビデオの効果も手伝って1億枚以上の驚異的なセールスを記録。その後も『BAD』『デンジャラス』とモンスター・ヒットを連発し、“キング・オブ・ポップ”として世界のポピュラー・ミュージック・シーンの頂点に君臨。シンガーとしてだけでなく、パフォーマー/ソングライター/コンポーザー/ダンサー/音楽プロデューサー/ビジュアル・プロデューサーとして、あらゆる分野でPOPミュージックの最高到達点を示し、いまなお後年のアーティストやクリエイターたちに計り知れない影響を与え続けている。2009年6月25日、ロサンゼルスにて急逝。享年50歳。死後も人気は衰えず、マイケルの音楽的な偉業と、パフォーマーとしてのかけがえの無い存在感への評価、彼が生涯放ち続けたメッセージへの理解、そして何よりその人間的な魅力への共感は、国籍・人種・性別も超えたあらゆる世代に及んでいる。

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