「ミセス・アメリカ」が描く米国二極化の起源 超保守派フィリス・シュラフリーは、オルタナ右翼派に支えられるトランプの前身!? 

反フェミニズム運動を索引した、矛盾だらけのフィリス・シュラフリー(ケイト・ブランシェット)。女性の権利保障を阻止した張本人は、実はトランプの前身だった?

私のトランプ嫌いは今に始まったことではありませんが、前回「グッドファイト4」で事細かに説明したように、同ドラマ開始以来、ダイアン・ロックハートと同様に喜怒哀楽(ほとんどが「怒哀」だけ)を身を以て体験し、希望も闘う気力も失ってしまったと言っても過言ではありません。ダイアンのように秘密結社に入って闘う気は毛頭なく、法曹界に関与している訳でもありません。庶民レベルの暴君トランプへの怒り、何でこんな国になり下がったの?とため息が出る情け無さ、更に黙示録の悪夢はいつまで続くのだろう. . .とつのる不安と恐怖です。本当に、住み難い国になりました。

私が移住して来たアメリカは、女だからとキャリアが制限されず、「ダメ元精神」さえあれば、夢が叶う公平な国でした。永遠に「マッドメン」の世界が続く(?)日本は、歳と共に女が活躍できる場が先細りし、年相応の行動をとらない人間には実に生きにくい国です。日本で働く姪っ子と話をする度に、嫌気がさして脱出した嘗ての日本と現在は、大して変わっていないことに仰天します。もっとも、米国で働くようになっても、正社員として会社勤めした訳ではなく、自由業で通して来たことも差別されなかった理由だとは思います。女性の権利主張や自覚が、日本より30年は先を行っている!アメリカに来て大正解!と豪語していたのですが. . .

配信開始前に視聴したFX on Huluの限定シリーズ「ミセス・アメリカ」は、自由の国アメリカは絵に描いた餅、私の希望的観測でしかなかった事実を突きつけました。大人になってからこの国に移住してきた私は、普通の子供が知っている(筈の?)米国の歴史や政治についての基礎知識がなく、男女平等が憲法によって保障されていなかったとは、寝耳に水!でしかありません。この時代を生きた世代の女性は別として、州レベル(特にカリフォルニア州)では男女平等に少しずつ近付いているので、ここで生まれ育った若い世代にとっても青天の霹靂だったと聞いて、少々安心した次第です。正に目から鱗が落ちました!!

 

去る4月15日配信開始となった「ミセス・アメリカ」は、ダーヴィ・ウォラーがフェミニズム運動関連の活動家10人余りの著書を読み漁り、当時の映像や資料を研究して、1970年代の女性の文化戦争として書き下ろした大作です。Equal Rights Amendment (ERA)批准を阻止しようと立ち上がった反フェミニズム運動の急先鋒フィリス・シュラフリー対、「新しい女の創造」著者/NOW(全米女性機構)創設者ベティー・フリーダン、政界に精通した超現実的なベラ・アブザグ、ラディカル・フェミニズムを代表するグロリア・スタイネムの第二波フェミニズムの三本柱が代表するるERA批准推進活動家との女の闘いを9話で綴るドラマです。ERA=男女平等憲法修正条項とは、性差によって権利の平等が侵害されないことを求めた合衆国憲法に対する修正条項です。1923年に起草され、72年連邦議会で可決されました。しかし、1982年の批准期限までに憲法修正に必要な50州中38州の批准をわずか3票の差で得ることができず、不成立となりました。

[家父長制をフルに利用して’職業婦人’として活躍しながら、反フェミニズム運動のリーダーとして脚光を浴びるフィリス・シュラフリー(ケイト・ブランシェット)。最終目的地は首都ワシントン。政界入りを夢見て、レーガンの選挙運動に献金・加担するが、身から出た錆となる。どの演説も「夫の許可を得て、本日参加させてもらいました」と始めて、自立を目指すフェミニストの神経を逆撫でする。]

ケイト・ブランシェットが有名な女優だからでしょうか、日本では「ミセス・アメリカ」はフィリス・シュラフリーの実話を描いたドラマと報道されています。しかし、第一話「フィリス」、第二話「グロリア」、第三話「シャーリー」、第四話「ベティ」等々と、回毎に主役にとり上げる活動家をタイトルに使用している事から明らかなように、正確には1970年代に繰り広げられたERA批准を巡る女達の激戦を描くドラマです。「リサーチをしていて気が付いたのは、この時代の女性は複雑怪奇だと言う事です。本質的に矛盾だらけって言うのかしら?口論が絶えない割には、目標に向かって団結できる。それでも、嫉妬や嫌悪感だって露わにする、それはもう個性的キャラが勢ぞろいなの」とクリエイターのウォラーは、本年1月9日に開催されたTCAプレスツアーのパネルインタビューの席で述べました。史実や実在人物の発言は正確に描写されていますが、キャラ間の会話や経緯などはウォラーの創作、更にサラ・ポールセンが演じるアリス・マックレイのみが、シュラフリーの取り巻き数人を混ぜ合わせた架空のキャラであると明かしました。

[唯一の架空のキャラ、アリス・マックレイ(サラ・ポールセン)は、シュラフリー家と家族ぐるみの付き合いをする専業主婦。フィリスが二度も落選した腹癒せに、ERA批准阻止を組織的活動に展開するきっかけを提供した張本人として描かれている。しかし、まるでカルト教団の信者であるかのように、盲信・盲従を求められ、教祖シュラフリーの扇動と冷酷な仕打ちに、女の真の自立とは何だろう?と考え始める。]

フィリス・シュラフリー(ケイト・ブランシェット)は、「サイレント・マジョリティ(=物言わぬ多数派)の恋人」と呼ばれていましたが、実に矛盾だらけの女性です。政治学専攻で、いずれは首都ワシントンで国防政策に関与して、脚光を浴びる日を夢見ていました。1952年と1970年に共和党から上院議員選に出馬しましたが、二度とも落選しています。折しも、ERAが超党派(共和党、民主党を問わず)の支持を受けて批准されようとしていました。挫折をテコでも認めないシュラフリーが、政界デビューを阻まれた腹癒せに、女性にとって不可欠の憲法による権利保障を矢面に立たせて、自らの出世欲の犠牲にしたと言っても過言ではありません。20世紀初頭の女性参政権運動と同様、超保守派シュラフリーは男女平等になれば、伝統的な女性の役割や家族のあり方が変わってしまうと危機感を煽り、「女の権利」に反旗を翻す組織的活動に展開して行きます。落選した1972年に「専門分野で活躍できないなら、他の方法で私の威力を証明してやる!」と言わんばかりに、「STOP (Stop Taking Our Privileges)ERA」を結成して、男女平等に待った!を掛けました。

 

[’オールドミス’(=売れ残りと言う意味の当時の和製英語)であることに引け目を感じるエレノア(ジーン・トリプルホーン)。慎ましい性格につけ込まれて、兄嫁フィリスにこき使われ、足蹴にされ、踏み台にされる。いつか誰かが私の努力を認めてくれると信じるエレノアは、旧いタイプの尽くす女=縁の下の力持ちだ。]

「女の特権を取り上げないで!」と運動を始めたシュラフリーが、自らの「良妻賢母」振りを前面に押し出したことは言うまでもありません。専業主婦であることが’女の特権’と主張するからには、家事(料理・洗濯・掃除)は黒人のお手伝いさん任せ、6人の子供は義理の妹エレノア(ジーン・トリプルホーン)に託して、’職業婦人’として駆け回っていることなどおくびにも出せません。手に職のない専業主婦を代表してERAを目の敵とする良妻賢母を演じる反面、裏ではちゃっかり政財界で著名な弁護士の夫フレッド(ジョン・スラッタリー)の知恵や人脈を利用します。又、ロビー活動をするにあたって、政府高官や業界の大物を敵に回さないように「私みたいな者で良ければ. . .」「お役に立つでしょうか?」と卑下し、媚びたり、詫びたりして、相手の警戒心を和らげます。そこまでしても政界入りできない鬱憤や日頃の欲求不満のはけ口は、男尊女卑の基板である家父長制に向けるべきですが、目立つためには. . .

 

[夫フレッド(ジョン・スラッタリー)は、忍耐強く妻フィリスを見守るが、時々「家を空けすぎる」「ワシントンには絶対に行かない」と不平不満を言う。最後の砦だと信じていた法の世界に妻が土足で乗り込んで来て、男としてのプライドを傷付けられた上、「出世欲がないから、この国を救えない」と妻に非難されて、堪忍袋の尾が切れた?]

シュラフリーは、ERAを矛先に選びました。「ERAなど、東海岸のインテリ女のたわごと!要は、結婚できないか男嫌い/子なし/仕事に没頭するしか手がないエリート女達は、専業主婦をバカにしているのだ!家父長制が崩壊すると、同性婚、ユニセックス・トイレ、女性兵士の戦闘任務参加がまかり通る、とんでもない社会になる!娘を兵隊にとられても構わないと言うのですか?」と説いて、中西部の敬虔なクリスチャン専業主婦や福音派プロテスタントにERAの脅威を吹聴して、草の根レベルの支持を集めて行きます。

シュラフリーの鬱憤をもろに受けたのは、ERA批准を求めて活動する第二波フェミニズム運動の立役者です。第二波フェミニズム運動の引き金となったベティ・フリーダン(トレーシー・アルマン)、公民権擁護弁護士/政治家/著述家ベラ・アブザグ(マーゴ・マーティンデイル)、中絶体験者として、中絶合法化を運動の核とするグロリア・スタイネム(ローズ・バーン)の三本柱に加えて、フリーダンやスタイネムに多大なる影響を与えた政治家/作家/民主党予備選に立候補した初の黒人女性シャーリー・チゾム(ウド・アドゥバ)、ホワイトハウス女性プログラム事務局長ジル・ラッケルズハウス(エリザベス・バンクス)など、タイトルに上がっているだけでも6人の主要キャラが登場し、それぞれの公私を垣間見ることができます。

[左からグロリア・スタイネム(ローズ・バーン)とベティ・フリーダン(トレーシー・アルマン)。数年前、スタイネム本人がプレスツアーに登場した時は、さほど印象的ではなかったが、バーン演じるスタイネムは人間臭くて共感を覚える。「新しい女の創造」を読んで感心したアルマンは、フリーダンの公に見せる顔と私的な顔の二面性を演じたくて、「幾度となく繰り返されたオーディションを耐えた」と裏話を披露。]

そして、ウォラーが指摘したように、第二波フェミニズム運動に参加するこれらの個性的な女性達は、とにかく顔を付き合わせれば、口論が絶えませんでした。フリーダンは第二波フェミニズムの火付け役で指導的立場にあると信じていますが、苦い離婚体験を突かれると感情的になるシングルマザーです。娘が2人いる既婚者アブザグと、独身を謳歌するスタイネムのコンビが運動を進め、破天荒で少々時代遅れのフリーダンに手を焼いていました。しかし、「フェミニズムの顔」として世間の注目を集める若いスタイネムへの嫉妬や陰口は後を絶たず、この三本柱の中でも揉め事は尽きません。

 

[ベラ・アブザグ(マーゴ・マーティンデイル)は、首都ワシントンの男社会で揉まれただけに、ERA批准という目的の為なら、日和見主義も辞さない現実的な政治家だ。アブザグの政治家としての駆け引きが、一進一退を繰り返すだけで、飛躍的前進を遂げられないことが、理想に燃えるフリーダンやスタイネムとの争点となった。]

第二波フェミニズム運動の立役者と一纏めにしていますが、人種、政治、宗教、社会的・経済的背景や生い立ち、生活環境など十人十色で、意見を一本に纏めるなど至難の技でした。女性の’権利’や男女’平等’の解釈も十人十色ですが、核となったのは社会に進出した際に、女が男と対等に扱われること=個人としての自由や権利が侵害されないことを掲げるリベラル派フェミニストでした。一概にフェミニストと言えども、中絶は、自分の体のことは自分で決める選択の権利と解釈するスタイネム、ゲイ・レスビアン運動(70年代当時の表現をそのまま使用)にはアブザグ、黒人問題やセクハラにはチゾムと、課題ごとに先頭に立って闘うリーダー格はいたものの、フェミニズム運動が余りにも多岐に渡る広義な運動であることも手伝って、第二波フェミニズム運動を牽引する指導者がいなかった(あるいは選出できなかった?)ことが最大の弱点だったのではないでしょうか?他方、シュラフリーは、ERAが謳う’平等’が性差の否定と解釈されると見越して、世間を震え上がらせるような極端な例(同性婚やユニセックス・トイレなど)を持ち出し、拒否反応を呼び起こすことに成功しました。又、持論を取り巻きに盲信・盲従させ、異を唱える者には攻撃の手を緩めない閉鎖的で心の狭い人間でしたから、扇動家シュラフリーの鶴の一声が反フェミニズム運動とみなされました。

 

[民主党予備選に立候補したシャーリー・チゾム(ウド・アドゥバ)は、米国史上初の女性/黒人でもある。大統領選に出馬できなかったのは「白人フェミニストから見捨てられたから」との被害者意識を抱きながらも、チゾムはホワイトハウス内のセクハラ問題に議員として関わって正義と変化を牽引した。]

「ミセス・アメリカ」を観るにつけ、シュラフリーの言うこと為すことに腹が立ちます。自由の国アメリカでは、主義主張を公言することは権利(言論の自由)とは分かっているものの. . .シリーズ完間際に、反フェミニズム運動のためNOW(全米女性機構)コンベンション参加者数を水増しして公表したり、「誰が専業主婦の権利を侵害しようとしているのか?」と尋ねられると、巧みにすり抜けるシュラフリーを目にした時、「これって、トランプの手口?」と気が付いたのです。調べてみると、シュラフリーは2015年12月にはトランプ支持を明言、16年3月には闘病中にも関わらず支持演説をした事実が判明しました。道理で、やること為すこと、私の癇に障る筈です。女であること、世間に知られたくない部分を隠すだけの知恵があったことを除けば、シュラフリーはトランプの前身だったのです。

 

[ホワイトハウス女性プログラム事務局長ジル・ラッケルズハウス(エリザベス・バンクス)は、共和党議員。第六話「ジル」で、シュラフリーの実態を暴くシーンは実に気分爽快!捲し立てて、反論の隙を与えない、さすがのシュラフリーもこの時ばかりは. . .とは言え、シュラフリーが分断の芽を植え付け、後継者(?)トランプが二極化して二進も三進も行かない無法国家として花咲かせたとは、いと、哀し!

シュラフリーに倣い、トランプも「アメリカ第一」、孤立主義、保護主義政策をとりました。ERA批准を阻止しなければ、同性婚、ユニセックス・トイレ、女性兵士の戦闘任務参加などが横行すると危機感を煽って、シュラフリーはとんでもない社会にしないために、世間は私を必要としていると遠回しに説きました。トランプは白人至上主義を説き、今やマイノリティになってしまった白人に、「アメリカ第一」=排他主義に徹底しなければ、移民や多文化主義に乗っ取られると扇動しました。教え(持論)が絶対的で、「○○しなければ、○○の惨事に至る」と説いて、信者の恐怖をかきたて、盲信・盲従・礼讃賛美を要求します。正に、カルト教団の教祖様の手口です。共和党がトランプ党になってしまったのも、教祖様を祭り上げて置かないと祟りが怖い!と、腫れ物に触るようにトランプ賛美に興じる共和党員の恐怖心からです。トランプ就任以来、盾突いて葬り去られた軍人、政府高官、官僚は数え切れません。’好き組’に属していた政府高官や顧問医師/弁護士、フィクサーなどでも、’嫌い組’に降格した途端、嘲笑や非難を浴びせられ、解雇など序の口で、投獄の憂き目にあった人も後を絶ちません。

カルト教団の教祖様は、信者が選民であると知らしめるため、観衆の面前でパフォーマンスをする必要があります。ですから、トランプは毎日のように記者会見を開いて支離滅裂な発言をします。信者に向かって発信しているだけなので、画面に登場することに意義があるからです。更に、信者は外界から隔離して、教祖様の声しか伝わらないようにしなければなりません。外界とは、情報を提供するマスコミ、既得権者やエスタブリッシュメント(主流派)、各業界の専門家(捜査機関、諜報部門、外交官、キャリア官僚、弁護士、科学者等々)などで、トランプがこれまで痛めつけられてきた(被害妄想?)「専門家」を否定・攻撃することで、信者に代わって既存体制と闘っているのだと証明しています。つまり、教祖様は、世界中を敵と見なし、トランプ教(党)のみを守るから、見返りに盲信・盲従・礼讃賛美を要求します。内と外を明確にし、内にいることに優越感を覚える信者は、聞く耳持たぬ盲信・盲従者ですから、外から何を言っても全く動じません。

これは飽くまでも私見ですが、米国内ではトランプはカルト教団の教祖様ではないと言う意見の方が強いようです。しかし、尊敬できるからリーダーに選ばれた訳ではなく、脅しで選ばざるを得ないように操作する人間を、何と呼ぶのでしょうか?マフィア?ヤクザ?米国を深く探り、新たな知識で、今後を熟考させる「ミセス・アメリカ」に敬意を表したいと思います。このような作品を制作でき、放送できるだけでも、米国にはまだ希望があるのでしょうか?

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