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コンピュータが「運命の赤い糸」を手繰り寄せてくれる!?次々と登場するSF作品は何を示唆するのか?

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幸せそうなカップルに見えるが、蓋を開けてみたら、ヘイゼル(クリスティン・ミリオティ)はバイロン(ビリー・マグナッセン)の実験に利用されていただけ?テクノロジー成金オタクの奢りをSFコメディー「Made for Love」が茶化す。(c) John P. Johnson/HBO Max

昨年8月10日、TCAプレスツアーで、少々毛色の違う新作が発表されました。米国のケーブル局AMCのオリジナル新作「ソウルメイト」のバーチャル・パネルインタビューには、前以て送られてきたスクリーナーを観た評論家からの質問が殺到し、制限時間内に収まり切れないほどの盛況ぶりでした。米国では10月5日のプレミア日前に、シーズン2更新が発表されたほど、局としては自信満々の新作でした。

日本では、プライムビデオで配信中の「ソウルメイト」は、ウィル・ブリッジスとフィル・ゴールドスティーンが創作した全6話からなるオムニバス仕立てのSFドラマ。出会い系サイトがこれでもか、これでもかと登場する中、21世紀の恋を描こうと話しているうちに、科学(テクノロジー)が人間の運命を操作する近未来に起こり得る出会いや結婚の悲喜交々を綴った「ソウルメイト」に行き着いたと、クリエイターは創作の経緯を語りました。

私は、ソウルメイトをどう定義するのかを尋ねました。「世界中の誰よりも、愛せる人。間違いなくこの人!と確信できる人」とブリッジスは答えましたが、「だからと言って、悩みを解消してくれる救世主と言う意味ではありません。相性が良いからと言って、理想の連れ合いになる、即結婚に踏み切るべき、必ず幸せになれる等の、保証はありませんからね」の但し書きが付いて来ました。つまり、「ソウルメイトに出会うこと=幸せになれる」の方程式は成り立たないと言うのです。

近未来(2035年)、「ソウルメイト素粒子」を発見し、既に1500万人余りの引き合せ(マッチング)を科学的に実証したソウルコネックス社クリニックで、目のスキャンを受けているニッキー(サラ・スヌック)のシーンから始まる第一話「分岐点」。ニッキーとフランクリン(キングズリー・ベン=アディル)は結婚して15年になる若夫婦ですが、二人の幼い娘育てに大わらわの余り、夫婦水入らずの時間を作っても、間が持たず白けてしまいます。隣人ジェニファー(ドリー・ウェルズ)が夫に愛想をつかして、ソウルメイト診断を受けると打ち明けると、子持ち中年女の身勝手!と軽蔑しながらも、興味津々の専業主婦ニッキーです。

ソウルメイトに出会って6週間後には何の躊躇もなくゴールインした兄ピーター(ダーレン・ボイド)や、アルゼンチンから来たソウルメイトとジェニファーの密会現場を目の当たりにしたニッキーは、嫉妬心がメラメラと燃え上がる一方、マンネリ化した結婚に不安を抱き始めます。道行く相思相愛のアツアツカップルが目障りで、恋愛初期のあのウットリ感、踊り出したいようなウキウキ感を何とか取り戻せないかと、焦りを感じます。

フランクリンに不満がある訳でもなく、倦怠期と言う訳でもないながら、長年連れ添った結果、火が消えてしまった喪失感は否めません。夫(=大黒柱)/娘たちの父親/友達としてしか存在感がないフランクリンに、ニッキーは結婚相手を間違えたのでは?ソウルメイトは他にいるのか?と悩みます。

「分岐点」の結末は敢えて披露しませんが、私は奥深い人間の性(さが)を読み取りました。擦った揉んだして、伴侶を取っ替え引っ替えしても、不平不満が湧いてきた理由を掘り下げて分析/理解しなければ、例え完璧なソウルメイトが出現しても、同じことの繰り返しでは無いのか?生活に追われて、恋がすっかり失せてしまうのは、当然の成り行きでは?等々、数々の疑問が湧いてきます。こんな時こそ、夫婦カウンセリングを受けるべき!と思うのは、数週間前に「Couples Therapy」シーズン2の評論を発表したばかりだからでしょうか?(笑)

第一話「分岐点」は、昨今珍しい夫婦の機微を実に巧妙に描いており、結婚後にソウルメイト素粒子診断なる極めて厄介な文明の利器が登場したら、あなたならどうします?と問いかけてきます。そして、ニッキーとフランクリンが、取り返しのつかない決断をどう処理して行くのか?親の身勝手の犠牲となった娘二人は、どんな大人になるのだろうか?等々、今後を追って行くのが楽しみ!と思ったのも束の間、第二話以降はスリラー、ホラー、ファンタジーなど、様々なジャンルでソウルメイトを探る、現実味のないオムニバスとなってしまい、がっかり/ずっこけ度100%の作品と化してしまいました。

続いて2021年3月12日、世界同時配信となったネットフリックスのオリジナル作品「The One: 導かれた糸」も、ジョン・マースの同名のSFスリラー小説をテレビ化したシリーズです。毛髪一本のDNA検査で完璧な伴侶を割り出す仲人(マッチング)サービス会社を起業した、才色兼備のCEOの生き様と世界中に広がる波紋を描くSFサスペンスドラマ(全8話)です。

遺伝子レベルで相性診断を下せることを、身を以て体験したレベッカ(ハンナ・ウェア)は、長年共同研究して来た同僚ジェームズ(ディミトリ・レオニダス)の「時期尚早!」の忠告を無視して、The One社を見切り発車。自信満々の裏側には、「世界を変えてやる!」の奢りが読み取れる野心家レベッカですが、ある日テムズ川に浮上したレベッカの元ルームメイトの死体を巡って、警察やメディアの追求が始まり、レベッカの人間関係は音を立てて崩れていきます。

このシリーズも、「運命のマッチング」をスローガンとするThe One社の科学的な根拠には一切触れず、「ソウルメイト」と同様、既婚者がこの新テクノロジーをどう利用するか?幸せとは何か?等を問いかけます。事件を担当する刑事ケイト(ゾーイ・タッパー)やレベッカに利用されるジャーナリスト、マーク(エリック・コフィ=アブレファ)が、「運命の相手」と出会った後の悲喜交々を描きます。

3本目は、本年4月1日から配信開始となったHBO Maxのオリジナル作品「Made for Love」です。アリッサ・ナッティングの同名小説を基に、パトリック・サマーヴィルがテレビ化、全8話で綴るSFコメディーです。

大学キャンパスで詐欺を働いていた貧乏学生ヘイゼル・グリーン(クリスティン・ミリオティ)は、テクノロジーで巨万の富を築いた超ダサい、仕切りたがり屋のバイロン・ゴーゴル(ビリー・マグナッセン)に見初められて、スピード結婚。バーチャル世界での10年余りの結婚生活は、バイロンには理想的であっても、監禁状態のヘイゼルには息が詰まる上、退屈極まりない毎日です。ある日、プールで投身自殺を試みたヘイゼルは、イルカに導かれて、排水路から逃亡しますが、どこに逃げても何故か追手が迫って来ます。頭部にコンピュータチップが埋められていると気が付いたヘイゼルは、プライバシー侵害に激怒し、離婚を申し出ますが、外界で独り歩きされては実験が水の泡!と、バイロンはあの手この手で復縁を迫ります。

「ソウルメイト」や「The One: 導かれた糸」と異なるのは、頭部にコンピュータチップを埋め込んで、感情の起伏をモニターしたり、被験者の視点で外界を(盗聴ならぬ)盗視できるチップを開発しようと、妻やイルカを実験に使用している点です。バイロンの苗字ゴーゴルは、グーグルをもじったもの。要は、人の感情を読み取れないテック成金オタクだからこそ、金に糸目をつけずにテクノロジーを駆使すれば、妻の気持ちをデータとして読み取ることだってできる!と自負しています。人間として欠けている部分への引け目が、「だったら世界を変えてやろうじゃないか!」の居直りから、奢りに変わった結果と読みました。

嘗てアジア諸国では、いずれ結ばれる運命にある二人は、小指と小指が赤い糸で結ばれており、その糸は目には見えないものの、決して切れないと信じていました。しかし、今回ご紹介したSF作品が描く、テクノロジーに赤い糸を手繰らせる近未来は、AIの開発が急速に進む今、現実になる可能性が高いと言うことなのでしょう。

この4~5年、プレスツアーに登場する科学者やプログラマーは皆、判で押したように、今AI開発でもっとも力を注いでいるのは、共感・感情移入を植え付けることだと言います。テクノロジーに疎い私は、子供に教え込むことでさえ難しい共感・感情移入という高度な人間の美徳を、人間として体験のないAIに教えるなど、無茶な話だと思います。長い人生路のあちこちで、失望/挫折/損失を体験し、そこから学習して大人になってやっと、人の痛みを我が事のように感じとれるようになるものです。人間同士でも理解できない感情を、テクノロジーに紐解かせようなど、テクノロジー万能オタクの奢り!?と思うのは私だけでしょうか?

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