「映画館はもう終わり」じゃなかった? ハリウッドで名門シアターが続々復活 日本でも興収は過去最高に

シネラマ・ドーム FILMS/TV SERIES
1925年開館の歴史ある「アレックス・シアター」。約35年ぶりに新作映画の上映を本格再開し、『オデッセイ』の70mm上映では全米トップの興行成績を記録した。photo: Walter Cicchetti / Shutterstock.com
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Netflixなど動画配信サービスの台頭、コロナ禍による長期休業、そして映画館離れ――。ここ数年、ハリウッドでは映画館ビジネスの先行きを悲観する声が繰り返し聞かれてきた。

ところが、映画の街ロサンゼルスでは今、それとは正反対ともいえる現象が起きている。

歴史ある映画館が次々と復活し、ソニー・ピクチャーズやNetflixといった巨大企業から、クエンティン・タランティーノ、ジェイソン・ライトマン、クリステン・スチュワートといった映画人までが、劇場の再生に乗り出しているのだ。

米エンターテインメント業界誌「ハリウッド・リポーター(The Hollywood Reporter)」は8月13日、こうしたロサンゼルスの映画館復活を特集。「ハリウッドが死につつあるのなら、なぜLAの映画館はこれほど復活しているのか?」という興味深い問いを投げかけている。

そして実は、映画館への観客回帰はアメリカだけの話ではない。日本でも2025年、映画興行収入が過去最高を記録した。

ストリーミング全盛の時代に、なぜ人々は再び映画館へ足を運んでいるのだろうか。

 

35年ぶりに新作映画を上映した劇場が、全米トップに

その象徴ともいえるのが、ロサンゼルス近郊グレンデールにある歴史的映画館「アレックス・シアター」だ。

1925年に開館したこの劇場は、かつてウォルト・ディズニーが自身のアニメーション作品を観客に試写した場所としても知られる。しかし、1991年に『ターミネーター2』を上映して以降、実に約35年間にわたり、新作映画の通常上映から遠ざかっていた。

転機となったのが劇場の100周年だった。

アレックス・シアターは約50万ドルを投じて上映設備を刷新。そして2026年、クリストファー・ノーラン監督の大作『オデッセイ』を70mmフィルムで1日3回上映することになった。

アレックス・シアター

1925年開館の歴史ある「アレックス・シアター」。約35年ぶりに新作映画の上映を本格再開し、『オデッセイ』の70mm上映では全米トップの興行成績を記録した。photo: Noah Sauve / Shutterstock.com

すると、驚くべき結果が待っていた。

ハリウッド・リポーターによれば、アレックス・シアターは『オデッセイ』の70mm上映において、全米でもっとも高い興行収入を記録する劇場となったという。

35年間、新作映画を上映していなかった歴史的劇場が、最新のハリウッド超大作によって再び大勢の観客を迎える場所になったのだ。

 

ハリウッドの象徴「シネラマ・ドーム」も復活へ

さらに大きなニュースとなったのが、ハリウッドを代表する映画館「シネラマ・ドーム」の復活だ。

1963年にオープンした巨大なドーム型劇場で、その独特な外観はハリウッドのランドマークとしても親しまれてきた。

しかし、併設されていた映画館チェーン「アークライト・シネマズ」の運営会社がコロナ禍を経て2021年に営業終了を発表。シネラマ・ドームも長期間閉鎖されたままとなっていた。

シネラマ・ドーム

ハリウッドのランドマークとして知られる「シネラマ・ドーム」。ソニー・ピクチャーズによる修復を経て、2028年初頭の再開が予定されている。photo: Walter Cicchetti / Shutterstock.com

その状況を変えたのがソニー・ピクチャーズだ。

ソニーは2026年7月、傘下の映画館チェーン「アラモ・ドラフトハウス・シネマ」とともにシネラマ・ドームを修復・再開すると正式発表した。

修復工事は2026年8月から始まり、2028年初頭の再開を予定。「シネラマ」の名称や特徴的な外観、大型湾曲スクリーンなども保存される。

単に古い映画館を復元するだけではない。名作の再上映、映画監督をフィーチャーしたシリーズ、プレミア上映、特別イベントなども行い、「映画を体験する場所」として再生させる計画だ。

ソニー・ピクチャーズ映画部門トップのトム・ロスマンはハリウッド・リポーターに、人間はそもそも他人と一緒にエンターテインメントを楽しむことを好む存在だと指摘。シネラマ・ドームを「映画館のエッフェル塔」と表現し、その復活に取り組む意義を強調している。

 

Netflixまで「映画館」に投資している

興味深いのは、映画館の最大のライバルと思われてきたストリーミング企業まで、この流れに加わっていることだ。

Netflixはハリウッドの歴史的映画館「エジプシャン・シアター」を取得し、修復して運営。また、パシフィック・パリセーズの「ベイ・シアター」でもパートナーとして運営に関わっている。

さらにNetflixは、グレタ・ガーウィグ監督による大作『ナルニア:魔術師のおい(原題:Narnia: The Magician’s Nephew)』を2027年2月12日から世界各地の映画館で公開し、その後4月2日からNetflixで配信するという、同社としては異例の大規模な劇場公開を予定している。

「配信か、映画館か」という単純な二者択一ではなくなりつつあるのだ。

Amazonも「カルバー・シアター」を借り受けているほか、映画人による劇場再生も相次いでいる。

『ゴーストバスターズ/アフターライフ』などで知られるジェイソン・ライトマン監督らは、ロサンゼルスのウエストウッドにある歴史的な「ヴィレッジ・シアター」を復活させ、クエンティン・タランティーノ監督はロス・フェリズの「ビスタ・シアター」を取得。クリステン・スチュワートも「ハイランド・シアター」の再生に取り組んでいる。

 

若い映画ファンが「昔の映画」を映画館で見る

なぜ今、映画館なのか。

その理由のひとつとしてハリウッド・リポーターが挙げているのが、意外にもインターネットだ。

映画ファン向けSNS「Letterboxd(レターボックスド)」の普及によって、若い世代が新旧さまざまな映画を発見するようになった。

さらに「クライテリオン」や「MUBI(ムビ)」といった映画ファン向けのストリーミングサービスも、名作や知られざる作品への興味を広げている。

つまりストリーミングが映画館から観客を奪うだけではなく、

「ネットや配信で作品を知る」→「もっと映画に興味を持つ」→「特別な作品を映画館で見たくなる」

という逆方向の流れも生まれているのだ。

アカデミー映画博物館内の「デヴィッド・ゲフィン・シアター」では、クラシック作品から知られざる旧作、修復された映画まで幅広く上映され、週に何度もチケットが完売しているという。

 

『オデッセイ』『スパイダーマン』も映画館を盛り上げる

そしてもうひとつ見逃せないのが、巨大な「イベント映画」の存在だ。

2026年は映画興行自体も好調で、ハリウッド・リポーターによれば、『オデッセイ』と『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』が公開された8月最初の週末は、興行的に史上最高の週末となった。

『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』

『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(C)2026 CPII. All Rights Reserved. (C)& TM 2026 MARVEL

自宅には巨大なテレビがあり、月額料金を払えば膨大な映画をストリーミングで見ることができる。

だからこそ、映画館には「家で見るのとは違う理由」が求められているとも考えられる。

70mmや大型スクリーンで最新超大作を見る。歴史ある美しい劇場で名作を見る。映画監督による特別上映に参加する。そして、大勢の観客と同じ瞬間に笑ったり、驚いたり、感動したりする。

映画館が「映画を見るために必要な場所」から、「映画を特別な形で体験するために、わざわざ出かける場所」へと変わり始めているのかもしれない。

 

実は日本でも映画館が活況 2025年興収は過去最高

そして、この変化を考えるうえで興味深いのが日本の状況だ。

一般社団法人日本映画製作者連盟(映連)が発表した「2025年 全国映画概況」によると、2025年の日本国内の映画興行収入は約2,745億円。前年の約2,070億円から32%以上増加し、コロナ禍前の2019年に記録した約2,612億円を上回って過去最高となった。

しかも、単純に映画料金が値上がりしたからではない。

2025年の映画館入場者数は約1億8,876万人。前年から約31%増加し、コロナ前の2019年の約1億9,491万人に迫る水準まで回復した。

つまり、日本でも実際に映画館へ足を運ぶ観客そのものが大幅に増えている。

2025年の日本市場をけん引したのは邦画だった。

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が391億円を超える巨大ヒットとなったほか、『国宝』も195億円を突破。『名探偵コナン 隻眼の残像』や『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』など100億円を超える作品も相次いだ。

一方、洋画の興行収入も前年から約31%増加している。

もちろん、日本とロサンゼルスで起きている現象をまったく同じものとして扱うことはできない。

日本では『鬼滅の刃』『国宝』『名探偵コナン』など強力な国内作品が市場回復をけん引しているのに対し、ロサンゼルスでは歴史的映画館の復活や70mm上映、旧作・修復作品の上映といった「映画館そのものの体験価値」を重視する動きが目立つ。

それでも、日米の映画市場で同時期に「映画館へ人が戻る」という現象が起きていることは興味深い。

 

ストリーミング時代だからこそ、映画館が「特別な場所」になる?

映画館の衰退が語られるとき、その大きな理由として挙げられてきたのがNetflixをはじめとするストリーミングサービスだった。

しかし現在起きていることを見ると、その関係はもう少し複雑なのかもしれない。

Netflix自身が歴史的映画館を運営し、『ナルニア:魔術師のおい』を大規模に劇場公開する。レターボックスドやクライテリオン、MUBIによって映画を発見した若い観客が、今度は映画館へ向かう。そして『オデッセイ』のような大作は、70mmなど家庭では再現できない上映体験そのものを売りにする。

日本でも、『鬼滅の刃』や『国宝』のような「映画館へ行ってみんなと体験したい作品」が記録的な観客を集めた。

ストリーミングの普及によって映画館が必要なくなるのではなく、いつでも自宅で映画を見られる時代だからこそ、映画館には「そこで見る意味」が以前にも増して求められている。

そして、その条件を満たした作品や劇場には、観客が戻ってくる。

ハリウッドと日本で同時に起きている映画館の活況は、「映画館の終わり」ではなく、その役割が新しい時代に合わせて変わり始めていることを示しているのかもしれない。


出典・参照:ハリウッド・リポーター「If Hollywood Is Dying, Why Are L.A.’s Cinemas Roaring Back?」(2026年8月13日)、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント、日本映画製作者連盟「2025年 全国映画概況」、Netflix

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