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新ドラメディー「Physical」は、1980年代の羽ばたこうとする女と無意識に足を引っ張る男を描く 

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サンディエゴは、ダンスパーティーワークアウトの元祖ジャザサイズが有名なので、創始者の話?と思ったが、クリエイターの母親をモデルに書いた1980年代の女性の自立ドラマだ。

去る2月24日掲載の「2021年夏に期待できる!?女性中心主義の新作3本をご紹介」でご紹介したApple TV+の新ドラメディー「Physical」は、6月18日に配信開始されます。

先ずは、トレーラーをご覧下さい。

 

バークレーから南下して来た、元ヒッピー夫婦が保守的なサンディエゴでどう生きて行くかを、全10話で面白おかしく描きます。シーラ・ルービン(ローズ・バーン)は、四六時中頭の中を駆け巡る「デブ」「ブス」「おバカ」「中年の負け組」「何様だと思ってるの?!」等、ありとあらゆる罵詈雑言の嵐にも関わらず、完璧な専業主婦を見事に演じて来ました。娘マヤを保育園に預けると、その足でモーテルの1室に籠りファーストフード過食→排出の日課をこなし、何食わぬ顔で帰宅しては、手料理で友人をもてなすような良妻賢母だったのですが. . .日課で貯金を使い果たしてしまったことに気が付き、夫や世間にバレることを恐れて、大慌てします。穴埋めをする当てもないばかりか、食べられないのに、食べ物にやたら固執しては、罪悪感やストレス解消していたバレー教室が閉鎖されてしまいます。泣きっ面にハチ?

子守が見つからず、仕方なくデモテープ撮影に子連れで姿を現したシーラ(ローズ・バーン)。レオタードや、カセットプレーヤーが時代を物語るが、問題は背景のお世辞にも美しいとは言えないビーチだ。Courtesy of Apple TV+

 

極め付けは、政治学教授の夫ダニー(ローリー・スコヴェル)が、大学をクビになり、死にたい!と落ち込んでいる事です。大黒柱がなくなった事に愕然とし、ヤル気ゼロの怠惰なダニーを(心の中で)罵倒しつつも、下院議員に立候補して、「世のため、人のため」を実行に移すように勧めて、止せば良いのに内助の功を発揮します。頭デッカチのダニーは、「海を守ろう!」をスローガンに、自然破壊に貢献する不動産デベロッパーの営利主義に真っ向から反対して、出馬したまでは良いのですが. . .元ヒッピーは理想とプライドだけが高く、バークレー時代の友人ジェリー(ジェフリー・アレンド)を選挙運動マネージャーに駆り出し、選挙活動に集まってくるビキニの女の子といちゃついては、反体制派の学生時代を懐かしむだけで、下世話なことには重い腰を上げようとはしません。地元のテック成金と卒のない会話を交わせるがために、それでなくても忙しい(?)シーラに資金集めの御鉢が回って来ます。キリキリ舞いすればするほど、シーラの肩の荷は増える一方です。これって、女の性(さが)なのでしょうか?

どこが良くて結婚したの?と尋ねたくなる程、鼻もちならぬダニー(ローリー・スコヴェル)に尽くし、内助の功を発揮するシーラ。縁の下の力持ちなんて、まっぴら御免!と謀反を起こす女性が出現し始めた1980年代を描くドラメディー。Courtesy of Apple TV+

 

一家のストレスを一身に引き受けてしまうシーラは、ある日、白いオープンカーを颯爽と乗り回す金髪美女を尾行して、エアロビクス教室を発見!自作自演のインストラクター、バニー(デラ・サヴァ)の世界で、内に秘めてきた自己嫌悪や自己不信を怒りのエネルギーとして発散できると知ったその日から、すっかり取り憑かれてしまいます。お陰で、十代から闘って来た過食症を克服したかのように見えますが、依存症の対象をすり替えただけなのです。尤も、エアロビクスに夢中になって以来、罵詈雑言の嵐が収まり、体力もついてきて、それが自信に繋がり、女実業家の一歩を踏み出します。

 

バレーに代わるストレス解消を探していたシーラが、ショッピングセンターで体験したのは、これまで見た事のない動きを組み合わせたエアロビクス。当時、女性が筋肉をつける事はご法度だった。Courtesy of Apple TV+

 

失敗や他人の目が何よりも怖いシーラが、内に向けていた自己嫌悪や自己不信(尤も、これらは裕福な両親が植え付けたものと思われますが)を外に向けた途端、夫婦の力関係が豹変するのは当然です。ダニーは、シーラの方が頭もよく、商才にも長けていることを薄々勘付いており、いずれ捨てられると怯えています。自己実現して古巣を飛び立つ妻を見るのは、何もサポートしなかった夫にとっては、裏切り以外の何ものでもありません。

インストラクターがすっかり板に付いたシーラだが、ここに至るまでにどれだけ人を踏み台にするかが見ものだ。Courtesy of Apple TV+

 

人を利用することしか頭にない、卑劣なキャラがほとんどですが、羽ばたこうとする女と足を引っ張る男の関係はいつの時代でも面白いと思います。あわよくば、勝手知ったる私の古巣サンディエゴを満喫できると思ったのですが、70年代の雰囲気を醸し出す為に使用したレンズのせいで紗がかかった映像になっている事と、LAで撮影した事が重なって、サンディエゴの抜けるような青空が観られず、がっかりでした。尤も、ラホヤ(カリフォルニアのリヴィエラと呼ばれる海辺の街)辺りにたむろする「Fワード」を連発するインテリ階級は、見事に描かれています。(笑)語彙が少ないから「Fワード」で文章を繋ぐのだと聞いていたので、私が卒論に度々引用した「日本文化の権威」である大学教授が二言目には「Fワード」を発するなど、誰が想像し得たでしょうか?

 

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