映画の結末をAIが決める時代へ? 「人間の観客なし」で試写、ストーリーまで分析するAIが登場

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映画を“観る”AIが登場
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生成AIによって、映像や俳優、脚本まで作れる時代になりつつある。だが映画やドラマの世界では、もうひとつ別のAI革命が始まっている。

注目されているのは、AIが作品を「作る」ことではなく、観客の代わりに映画を「見る」ことだ。

完成前の映画をAIに見せ、「観客はどこで引き込まれるのか」「どこで退屈するのか」「どの場面が高く評価されるのか」を予測する。さらに、異なる編集版やストーリーを比較し、どのバージョンがより支持されそうかまで分析するサービスが登場している。

映画制作では昔から、一般公開前に観客を集めて試写を行い、その反応をもとに編集を変えることがあった。いま、その「試写会」の一部をAIに置き換えようとする動きが始まっている。

 

人間を集めず、AIだけで「試写会」

その象徴ともいえるのが、2026年に登場した「aiScreeningRoom」だ。

映画をアップロードするとAIが作品全体を視聴し、実際の観客がどのように受け止めるかを予測する。

開発元のiScreeningRoomは、10年以上にわたって映画のテスト試写を行ってきた。その過程で集めた3万5000件を超える観客アンケートと、約4万3000件の「映画のどの瞬間に観客がどう反応したか」というデータを、AIの検証に使っているという。

AIが単純に「この映画は面白い」と感想を述べるわけではない。過去の実際の観客反応と照らし合わせながら、まだ一般公開されていない映画がどのように評価される可能性があるのかを予測する仕組みだ。

公式サイトには、異なる編集版のどちらを採用するか迷っている映画制作者や、「どのエンディングを選ぶか」を検討しているプロデューサーが利用例として挙げられている。

つまり、「AとB、どちらの結末のほうが観客に支持されるのか?」という問いをAIに投げかけることも想定されている。

もちろん、AIが勝手に結末を決めるわけではない。最終的に判断するのは人間の制作者であり、aiScreeningRoom自体もまだ限定的なベータ段階にある。それでも、人間の観客を集めなくても公開前の反応をある程度予測しようとする発想は、従来の映画制作から見れば大きな変化だ。

 

撮影する前から「このストーリーはヒットする?」を予測

AIによる分析は、完成した映画だけにとどまらない。

エンターテインメント業界のデータ分析を手がけるParrot Analyticsは、映画やドラマの企画段階から成否を予測する「Concept Testing」を提供している。

完成した映像は必要なく、ログラインやあらすじ、企画書、脚本などをもとに、ストーリー、キャラクター、テーマ、トーン、舞台設定などを分析。そこに同社が200以上の市場で蓄積してきた視聴者需要データなどを組み合わせ、どの程度の観客を獲得できそうか、興行やストリーミングでどれほどの商業的価値を生み出す可能性があるかを予測する。

さらに興味深いのは、ひとつの脚本を評価するだけではない点だ。キャストや予算を変えた場合と同じように、異なるストーリーの方向性や脚本修正案を比較し、それぞれが観客の反応や収益にどう影響する可能性があるかを分析できるとしている。

これまでも映画会社が市場調査や過去作品の興行データを参考に企画を決めることは珍しくなかった。しかしAIによって、その分析対象が「いまSF映画は人気なのか」といった大きな傾向から、「このストーリーをこちらの方向へ変えたらどうなるか」という創作の内部にまで入り始めている。

 

【動画】Parrot Analyticsが解説「世界の視聴者の“需要”をどう測る?」

Parrot Analyticsが、映画やテレビ番組に対する世界の視聴者の「需要」をどのようにデータ化しているのかを紹介する約2分の解説動画。同社は検索やSNS、動画視聴など、さまざまな視聴者行動を分析し、作品への関心や需要を測定している。

 

「仮想の観客」に脚本を読ませる

さらに一歩進んだ試みを行っているのが、スイスのAI企業Largo.aiだ。

同社は40万本を超える映画・テレビ作品のデータをもとに、脚本分析や興行予測などを提供している。なかでも注目されるのが、「Simulated Focus Groups(模擬フォーカスグループ)」という仕組みだ。

実際の観客データをもとにAI上の「デジタルな観客」を作り、脚本や映像に対する反応をシミュレーションする。Largo.aiは現在、100万以上の「Simulated Personas(模擬ペルソナ)」を持つとしている。

これまでなら、新作映画について観客の意見を知るためには、実際に人を集めて脚本を読んでもらったり、完成した映画を見てもらったりする必要があった。それをAI上の仮想観客に行わせるのである。

将来的には、「脚本を書く → AI観客に評価させる → 修正する → 再びAI観客に評価させる → 撮影する」という制作フローが、より一般的になる可能性もある。

 

AIで「映画の結末を変える」こと自体は、すでに起きている

そして、AIを使って映画の結末そのものを書き換えることは、すでに現実になっている。

インドでは2025年、2013年公開の映画『Raanjhanaa』が再公開された際、AIを使ってオリジナル版とは異なるエンディングが制作された。

オリジナル版では主人公が死亡するが、新バージョンでは主人公が目を覚ますハッピーエンドへと変更された。

この改変には主演俳優や監督側から強い反発も起きた。主演のダヌシュは、作品から「魂を奪った」と批判している。一方、権利を持つEros MediaはAIを利用した過去作品の再構成に可能性を見いだしており、ロイターによれば、同社が保有する約3000作品からAI活用の候補を検討しているという。

ただし、このケースは「AIが観客の好みを分析した結果、ハッピーエンドに変更した」というものではない。それでも、AIを使って映画の結末を作り替え、それを実際に観客に見せるところまで来ていることは確かだ。

 

あなたと私で、ドラマの結末が違う未来も?

では、この先に何が起きるのだろうか。

ここからはまだ未来の話になる。

現在、大手ストリーミングサービスが個々の視聴者の好みをAIで分析し、その人専用のストーリーや結末を自動生成して配信している、という事実は確認されていない。

ただ、その未来を先取りするようなサービスはすでに登場している。

Fable Studioが開発した「Showrunner」は、生成AIを使ってテレビ番組のエピソードやシーンを作ることができるサービスだ。視聴者は文章で指示を出し、既存の物語から新しい展開を作ることもできる。

これはまだ「AIが視聴者の好みを自動的に判断して、勝手に結末を変える」サービスではない。しかし、これまで完成した作品を受け取るだけだった視聴者自身が、AIを使って物語を変えていくという考え方は、すでに現実のものになり始めている。

 

【動画】「Netflix of AI」? AIでテレビ番組そのものを作るShowrunner

Showrunnerを手がけるFable Studioのエドワード・サーチCEOがCNBCに出演し、AIによってテレビ番組のエピソードやシーンを生成する技術や、エンターテインメント業界への影響について語っている。

 

そして、この先さらに技術が組み合わされればどうなるだろうか。

AIはすでに大量の観客データから作品の需要を予測できる。脚本やキャラクター、ストーリーの方向性を分析し、仮想の観客に評価させることもできる。そして生成AIは、映像や音声、ストーリーそのものまで作れるようになってきた。

これらがひとつにつながれば、恋愛映画ではハッピーエンドを好む人にはその展開を、悲劇的な物語を好む人には別の展開を見せる、といったことも理論上は可能になる。

同じタイトルのドラマを見ているはずなのに、あなたと友人では途中の展開も、最後の結末も違う。そんな作品が登場する日も、以前ほど突飛な話ではなくなってきた。

 

「一番ウケる物語」が、一番いい物語なのか

ただし、ここには大きな問題もある。

もしAIが「このキャラクターを死なせると満足度が下がる」「この恋愛を成立させると視聴者が増える」と予測できるようになったら、映画制作者はその数字をどこまで無視できるだろうか。

観客が最も満足するストーリーと、制作者が最も描きたいストーリーは、必ずしも同じではない。

意外な結末、不快な展開、答えを示さないラスト。公開時には賛否を呼びながら、後になって名作と呼ばれるようになった映画も少なくない。

AIが観客の反応を正確に予測できるようになれば、映画制作は失敗を減らせるかもしれない。その一方で、誰にも予測できなかった作品が生まれる余地まで小さくなる可能性もある。

これまでAIをめぐる議論では、「AIが映画を作る時代」が注目されてきた。しかしこれからは、AIが人間の観客の代わりに作品を評価し、その結果が脚本や編集、さらには結末にまで影響する時代についても考える必要がありそうだ。

映画の未来を変えるのは、「作るAI」だけではなく、「観客になるAI」なのかもしれない。

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