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Vol.28 映画界&テレビ界に押し寄せる、メキシコからの巨大な波!!

2007年2月13日
ダレもが驚愕! 新時代の到来を告げる、アカデミーノミネート発表会
1月23日、早朝5時。まだ周囲は薄暗く、温暖なことで知られるLAとは言えさすがに冷え込む時間帯……そんなひっそりとした雰囲気とは裏腹に、コダックシアターでは芸能界で最も華やか且つ重大なイベントが行われた。そう、アカデミー賞の選考作品および俳優たちが発表になったのだ。

集まった記者は、50人前後。みんな眠気を吹き飛ばすくことに苦心し、珈琲を何杯も何杯も口に運んでいた。だが、いざノミネート作品などが発表になると、彼らの眠気は一気にブッ飛ぶことになる! 事前の予想を覆す作品が、俳優たちの名が、次から次へと読み上げられたからだ。最大のサプライズは、ノミネートが確実視されていたどころか、作品賞の最有力とすら言われていた『ドリーム・ガールズ』が外れたこと! 代わって、『硫黄島からの手紙』や『BABEL』といった、日本をはじめとする海外を舞台にした字幕映画がずらりと名を連ねたのだ。その作品賞ノミネートの趨勢を繁栄するかのように、助演女優賞部門では、『BABEL』から菊池凛子のみならずメキシコ人のアドリアナ・バラッザまでもがノミネートされ、監督賞にも同作品のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督が入っている。

かくのごとく、ゴールデングローブ作品賞受賞の余波も買ってか、『BABEL』は計7部門にノミネートされる大健闘を見せたが、イギリス映画の『クイーン』も監督賞や主演女優をはじめ6部門、さらには外国語映画賞にノミネートされた『パンズ・ラビリンス』が異例の6部門ノミネートを果たすなど、とにかく今回のオスカーは“国際化”の流れが顕著なのだ。そしてそれら海外勢力の中でも、現在圧倒的な猛威をふるっているのが、メキシコ(ラテン)勢である。

増加の一途をたどるヒスパニックの人口。それに比例するように、近年、スペイン語の映画が多数上映されるように
アメリカにおいて、ヒスパニック人口及び文化の拡張はここ数年特に著しく、エンターテインメント界においても、この広大な消費者層を無視できない状況になってきている。もともとアメリカでは、「字幕映画はどうあがいても流行らない」というジンクスがあり、現にこれまで、字幕映画がオスカーなどの大きな賞を獲得したことはなかった。それどころか、「あえて字幕映画を見にいくようなヤツは、変わり者」というような風潮すらあったほどだ。

ところが最近では、メキシコ人監督が撮った作品をはじめ、スペイン語の映画がアメリカの映画館でも多く上映され、ボックスオフィスの上位に顔を出すことも珍しくない。昨年、ブッシュ大統領は「英語を、アメリカの公式言語に制定する」などと発言したが、それも、アメリカ国内における英語の地位が脅かされつつある背景を受けてのものだろう(もっともこの大統領の発言に関しては、「まずはお前が、正しい英語を話せるようになれよ!」と、多くの人たちから突込みを受けてしまったのだが)。

今回のアカデミー・ノミネート作品の発表は、シド・ギャニス会長と女優のサルマ・ハエックが行ったが、このサルマ・ハエック自身がメキシコ人。「ハリウッドで、最も成功したラテン・アメリカ人女性」と呼ばれるサルマだが、彼女は『BABEL』や『パンズ・ラビリンス』(スペインが舞台の映画だが、監督はメキシコ人)など、メキシコ絡みの作品や俳優たちの名を読み上げるたび、嬉しさのあまりか声を上ずらせた。さらには、親友のペネロペ・クルス(ペネロペはスペイン人だが…)が主演女優賞候補として名を連ねたときには、「イィエス!!」と大声で叫び会場の笑いを誘っていたくらいだ。

果たして、これらメキシコ作品や俳優たちが実際にオスカー像を抱えることになるかどうか……それは現時点では判らないが、インディーズ映画の祭典であるサンダンス映画祭では、一足早くラテンの支配が始まっている。今年の作品賞受賞作は、メキシコからの不法移民を題材にした作品。さらには、ドキュメンタリー作品部門を獲得したのもブラジルの映画と、今回のサンダンスではラテン・アメリカ勢が上位を独占するかたちとなったのだ。

テンターテイメントに、境界線ナシ! ますます加速するボーダレス化
と、今回ここまで映画の話ばかりしてしまったが、この映画界を猛撃中のメキシコの波は、必ずや近い将来、テレビ界にも訪れるものと思われる。テレビ界にとっても、視聴者層として最も大きなポテンシャルを秘めているのがメキシコ人(スペイン語スピーカー)たちであることは、疑いのないところだからだ。現に昨年、NBCはアメリカ最大のスペイン語放送局であるTelemundo(テレムンド)を傘下に置くなど、他より一足早くヒスパニック視聴者獲得に乗り出している。 実を言うと、先に行われたゴールデングローブ授賞式では、既にこのメキシコ勢ブームの萌芽を思わせる出来事が起きていた。テレビのコメディドラマ部門を受賞した『Ugly Betty』だが、このドラマはメキシコ人プロデューサーの手による作品なのだ。また、役者としてのキャリアも豊富なこのプロデューサーは、自ら同ドラマ内でも何度かゲスト出演を果たしている。

このプロデューサーこそ、何を隠そう、アカデミーのノミネート作品を読み上げたサルマ・ハエックその人。台頭するラテン・アメリカ勢力の旗手である。

国境を越え、言語の枠を越え、映画とテレビ間の敷居も意に介さず、役者と製作者の立場すら自由に行き来する彼女に象徴されるように、現在エンターテインメント業界には、あらゆる境界線を越えた真のボーダレス時代が到来しつつある。そしてそのトップに立つのが、ラテン・アメリカ勢。彼らを筆頭とした新時代への突入を予見させる、2007年の幕開けであった。