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GIMME A BREAK! アメリカンTV字幕翻訳者のひとりごと[連載終了]詳細

Vol. 22. 同時通訳で「ハイ」になる!?

2001年10月1日
アメリカの同時多発テロ事件、恐ろしかったですね。先月のエッセイに書いたとおり、私はニューヨークに行ってきたばかりだったので、本当にショックを受けました。たまたま11日は仕事が一区切りついたところで、ほっとしてテレビを付けた瞬間に臨時ニュースが飛び込み、あの衝撃の映像が流れました。あまりのことに呆然としているあいだに、2機目が突入。そのまま朝まで金縛りにあったように、テレビの前から動けませんでした。いったい、これから、世界はどうなっちゃうんでしょう…? 報復攻撃により、さらに罪のない大勢の人たちが巻き込まれることのないように祈るばかりです。なんとか、武力行使なしで解決する方法を見つけてほしいですね…。(T_T)

今回のような緊急ニュースの報道で、大活躍するのがお馴染みの放送通訳さんたちです。どんどん流れてくるニュースをリアルタイムで同時通訳しちゃうなんて、まるで神業ですよね。大変な集中力を必要とする作業ですから、通常は2名でペアを組み、10分程度で交代しながら訳すそうです。しかし今回のような緊急ニュースの場合は、突然のことで人手が足りなかったらしく、1名の通訳者の方がずっと通訳を続けている放送局もあり、「大変そうだなあ…」とテレビの前でひとり同情していました。

私はもともと、翻訳者よりも通訳者に憧れていました。その動機は、とっても単純。中学1年生のとき、アメリカ映画に夢中になった私は「通訳になればハリウッドのスターに会える! お話ができる!」と思ったのです。(^^;;) 社会人になってから、あやしげな自己流の通訳法(?)を編み出し、しばらくは通訳の仕事もしていました。しかし私はトロい人間なので、通訳のようなスピードを要する仕事はストレスがたまるだけだわ…と気づき、その後は翻訳ひと筋に絞って仕事をしています。

通訳の学校は「体験授業」には参加したことがあるのですが、それだけで恐れをなして逃げてきました。同時通訳の基礎的訓練として、「シャドウイング」という練習があるのですが、私はこれがまったくできなかったのです。(^^;;)

シャドウイングの訓練では、まず日本語のニュースなどを聞きながら、聞こえてきた言葉をそっくりそのまま日本語で繰り返します。日本語のシャドウイングに慣れたら、次に英語のニュースでシャドウイングを練習。そして、十分に慣れたところで、やっと英文和訳と和文英訳の練習に入るのです。同時通訳を目指す人は、自宅でもテレビやラジオを聞きながらブツブツ練習しているんだそうです。

体験授業では「はいっ、それではやってみてくださいっ」という講師の方の合図と共に、事前に渡されていたヘッドホンから日本語が流れ、クラスが一斉にブツブツとシャドウイングを開始。しかし、なぜか私は「あう…あうあうあう…」と口ごもるだけで、ちっとも日本語が話せません。回りの人をちらちらと見ると、涼しい顔でしゃべっていて、目を白黒させているのは私だけ。その瞬間「こりゃダメだ!」と悟った私は、同時通訳者への道をあっさりと諦めました。

こんな風に、私がいきなり挫折してしまった同時通訳ですが、同時通訳者の友達に言わせると、「同時通訳ってすごく気持ちいい」んだとか。慣れるまではすごく大変なのですが、神経を集中して通訳しているうちに、ふっ…と気持ちよくなるんだそうです。何も考えなくても日本語(あるいは英語)が口をついて出るようになり、ちょっとハイな状態になっちゃうんですって!(^^;;) うーん、なんだか危ない話みたいですね。苦しいジョギング中に、急に気持ちよくなっちゃうという「ランナーズ・ハイ」と似たような状態でしょうか?

どんな感じなのか、ちょっと体験してみたい気もしますね。残念ながら、翻訳の仕事だと作業中に「ハイ」になるようなことはありません。たまに、ノリノリの気分で、非常に気持ちよく作業が進むことがあるのですが、そういうときこそ要注意。ひと晩明けてから訳文を読み直してみると、「なんじゃこりゃー!」という訳が並んでいて、蒼白になります。

まだまだ修行の足りない身ではありますが、これからもがんばります。(^o^)丿