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GIMME A BREAK! アメリカンTV字幕翻訳者のひとりごと[連載終了]詳細

Vol. 19. 吹き換えとリップシンク

2001年6月28日
みなさん、最近始まった「ダイハツサンクスフェア」のCMをご覧になりましたか?オランウータンがこんなことをしゃべるCMです。

「まあみなさん、聞いてください。この夏、ダイハツは、MD~~~~~付けました。これはすごい」。

もちろん、セリフは声優さんの吹き替えによるものですが、「MD」の「ディ~~~~~」と伸ばす部分と「これはすごい」という部分が、うまくオランウータンの唇の動きと合っているので、私は見るたびに笑ってしまいます。

このCMは、以下のアドレスでもムービーが見られます。「どんなのだっけ?」と思った方は、ぜひ見てみてください。(^o^)

//www.daihatsu.co.jp/showroom/cm/index.htm

このように、セリフと口の動きをぴったりとあわせてある吹き替えを「リップシンク」といいます。動物が出てくる映画などでは、口の動きをCGで合成している場合もありますが(たしか「ベイブ」もそうですよね)、ダイハツのオランウータンの場合は、間違いなくホンモノ!あのオランウータンの「イイイ~~~」という顔に「(エム)ディ~~~」というセリフをあてることを考えついた人のセンスには脱帽です。

私は字幕を中心に翻訳の仕事をしていますが、たまに吹き替えやナレーション(ボイスオーバー)の作品も担当します。このときに苦労するのが「尺合わせ」という作業です。尺合わせとは、元のセリフと日本語のセリフの長さを合わせることで、リップシンクと違って細かい口の動きは合わせる必要はないのですが、それでもけっ こう大変な作業です。翻訳者は、翻訳が終わった後に、もう一度ビデオ見ながらブツブツと自分でしゃべってみて、セリフの長さを微調整していかなければなりません。リップシンクはホントに大変なんだろうなあ~~と、いつもしみじみ思います(実はまだ一回も経験していません)。

アメリカという国は、このリップシンクという手法にこだわりがあるようです。向こうのアニメを(原語で)見ていると、口の動きが妙~にぴったり合っていることにお気付きになると思います。一方、日本のアニメの場合は、なんとなく口がぱくぱくと動いているだけですよね。つまり、セリフの長さは合っていても、リップシンクはしていないのです。

この違いは、日本とアメリカのアニメの作り方の違いにも起因しています。日本では最初にアニメーションの絵を作り、その絵に合わせて声優がセリフをしゃべる(アテる、ともいいます)という手法が主流なのに比べ、アメリカの場合は、まず声優の演技を録音し、その音声をもとにして絵を描いているのです。

この作業は非常に手間がかかります。まず、声優がしゃべったセリフのテープをもとに、アニメのキャラクターの唇が何分何秒何フレーム目でどんな動きをしなければいけないのかを分析したうえで、アニメの絵を一枚ずつ書いてゆきくのです。俳優の口の動きをアニメで忠実に再現しているわけですね。どのくらいきちんと合っているかというと、なんと「thank you」の「th」で、ちゃんと前歯で舌をかんで発音してるんですよ。芸が細かいですね~。

昔、英語の授業のときに「英語は日本語を話すときよりも口を大きく開けて、はっきりと喋ってください」と言われましたよね。やはり英語圏の人は、アニメでもきちっと口が動いていないとキモチ悪いのでしょうか?

しかし、アメリカ製のアニメは唇を動かすことで力を使い果たしてしまい、口以外の動きは割といいかげん…という傾向があります。一方、日本のアニメは、口こそパクパクといいかげんな動きをしますが、手足の動きなどはとてもなめらかです。こんなところにも、お国の違いが出るのはおもしろいですね。

そういえば、ペプシのCMでもオランウータンが吹き替えでしゃべっていました。「おいしいダイエット編」で女の子オランウータンの「キャメロン・バナナさん」が「ええっ!?おいし~~~いっ!」とバタバタ騒ぐところが好きです。こちらも、 以下のサイトにムービーがありますよ。

//www.pepsi.co.jp/tastechallenge/challengecf/index.html

それではまた!