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GIMME A BREAK! アメリカンTV字幕翻訳者のひとりごと[連載終了]詳細

Vol. 18. 同じ映画でも、ビデオ版の字幕と放送版の字幕は違う?

2001年5月28日
「あ、ずっと昔、レンタルビデオで見て大好きになった映画が、今度は衛星放送で放送されるのね。よおし、気合入れて見ちゃおっと。主人公が恋人に“君の瞳って○○○だね”っていう、あのセリフが印象的で忘れられないのよね。あれ? でも、この字幕、違うじゃない! なんで?? こんなの許せない!」

なーんて悔しい思いをした経験、あなたもありませんか? 洋画ファンの方々はご存知だと思いますが、同じ映画でもビデオ版やテレビ放送版をはじめ、レーザーディスク版、DVD版など、何種類もの字幕が存在することは珍しくないのです。現在、劇場公開された映画がビデオ化される場合には、基本的に同じ字幕が使われているのですが、衛星放送の場合には別の翻訳者が字幕を作りなおすケースも多いようです。また古い映画の場合は、レンタルビデオだけでも数種類の字幕が存在することがあります。字幕によっては画面の印象がかなり変わることもありますから、有名シ―ンなのに自分の記憶と違う字幕が出てしまうと、なんだかとってもガッカリ、ということになってしまうわけですね。

せっかくちゃんとした字幕があるのに、なんでそんな面倒なことをするの? という疑問がわくかと思いますが、これは単純に「権利」の問題が一番大きいようです。ビデオが再発売される場合に、発売元の会社が変わると、以前の字幕は使えなくなってしまうのです。また往年の名作映画のように、最初の字幕を作ってから、かなりの年月が経っているような場合は、字幕の表現が古すぎて現代の人には理解できないため、現代の言葉に直す必要があります。

昔、翻訳学校で「字幕演習クラス」を取っているときに岡枝慎二先生という大御所の大先生に教えていただいたのですが、昔の映画では

「率爾ながら ショパン殿ではござらぬか」

なんて字幕も出ていたそうです。なんかカッコいいですね。でもみなさん、「率爾」って、読めますか? 私は読めませんでした(^^;;)。この訳、今だったら「失礼ですが ショパンさんですか?」なんて、だいぶ味気ない字幕になってしまいます。

ときどき、「昔のビデオの字幕は誤訳が多い」なんていう話も聞くんですが、それは視聴者が現代の感覚で見ているからかもしれません。昔の翻訳者を多いに悩ませたであろうスラングなども、いまではたくさん専門の辞書が出ていますし、研究社の「リーダーズ英和」や小学館の「ランダムハウス」などでも、豊富な用例が紹介されていて、誰でも気軽に調べることができるようになりました。もちろん、ネットでもいろいろ検索できますから我々現代の翻訳者は、先輩方と比べてかなり楽をしているはずです。当然誤訳も減っている(はず)です。

また、私たちはビデオを何度も見直しながら翻訳作業を行っていますが、家庭用のビデオデッキが普及してなかった時代、字幕翻訳者は試写を1回しか見ることができなかったそうです。あとは台本のみを参考にして字幕原稿を作ったそうですが、ビデオを最低3回は見ないと翻訳できないような私にとっては、ほとんど「神業」のような作業です。

私自身、ときどき古い映画の放送用の字幕を作ることがあるのですが、困るのは「参考までに以前の字幕の入ったビデオをお貸ししますが、著作権にひっかからないように、この字幕とはできるだけ違う字幕にしてください」という指示を受ける場合です。(^^;;) こういうときは私なりに一生懸命違う表現をひねり出したりしてみるのですが、そうすると冒頭のように、その作品に思い入れを持っているファンの方から「違う! 許せない!」なんてお怒りを買ってしまうのでした。

こんな、視聴者のみなさまには分かってもらえないような、細かい苦労の連続の仕事ですが…め、めげずにがんばるぞ~~。

ではまた!(^o^)丿