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Vol. 14. ダジャレの国のアリス

2001年3月22日
先週、久しぶりに「不思議の国のアリス」をビデオで見ました。久しぶり、といっても、これは1999年の作品で、去年末にビデオが出たばかりの新作。私も、このバージョンを見るのは初めてです。テレビの作品ということですが、チェシャ猫役のウーピー・ゴールドバーグをはじめ、マーティン・ショート、クリストファー・ロイド、ベン・キングズレーなど、映画俳優がたくさん出演していて、なんともゴージャス。でも、明るいディズニー版とは違い、かなり不気味な雰囲気の作品です。(原作も、けっこう不気味なので、原作に忠実に作ったということですね。)なかでもスゴイのは、女王さま役のミランダ・リチャードソンの怪演。変てこな眉のメイクで、「そやつの首をはね~い!」と、かん高い声で絶叫するたびに笑ってしまいました。

じつは、私はこの「不思議の国のアリス」の物語が大好きなのです。翻訳本は、なんと…15冊も持ってます。もちろん、全部違う翻訳家の訳です。「アリス」は小学生のころから繰り返し読んできたのですが、短大生のときに初めて英語で読んでみて、とうてい翻訳不可能(と思われる)英語の言葉遊び(つまり「ダジャレ」ですね)のオンパレードにびっくり。英語版を読み終わった後、もう一度、子供のころから読んでいた翻訳本(福音館書店、生野幸吉訳、1971年発行)を読み返し、またまたびっくり。ダジャレはすべて、子供でも違和感なく読める文章にきちんと翻訳されていたのです。

これで、「アリス」のダジャレ翻訳に興味を持った私は、本屋さんで違うバージョンの「アリス」を見つけるたびに買ってきて、翻訳を比べては面白がっていたのですが、ふと気づいたら15冊もたまっていました。(^^;;)

私が一番気に入っているのは「ニセ海ガメ」と「グリフォン」が、アリスに海の中の学校について説明するシーン。彼らの説明によると、海の学校の授業は1日目は10時間、2日目は9時間、3日目は8時間というように、どんどん減ってゆくというのです。アリスが「まあ、なんておかしなやり方でしょう!」とあきれると、グリフォンはこう答えます。

"That’s the reason they’re called lessons," the Gryphon remaked: "because they lessen from day to day."

「それがおさらいといわれる理由さ」とグリフォンが口をはさみました。「一日ごとにさらわれてへってくのさ」(生野幸吉訳)

「授業」の"lesson"と、「減る」の"lessen"をかけた言葉遊びですね。まるでオヤジギャグです。しかし、この訳、名訳だと思いませんか? 勉強は「おさらい」だから「さらわれてへっていく」という表現には、小学生の私も、素直に納得(?)していました。

ただし、この「おさらい」という言葉、今の小学生はあんまり使わないかもしれません。ほかの本の訳も、ちょっと抜き出してみましょう。

・「一日一日少なくなっていくからね、だから“少”学校と言うんだよ」グリフォンが説明しました。(田中俊夫訳/岩波少年文庫)

・「だからこそ時限というんだろ」グリフォンがいいました。「毎日、時間が減ずるから時減というわけだ。」(柳瀬尚紀訳/集英社)

・「ちっともへんじゃないよ。毎日、勉強に時間を喰えば、だんだんにへるの、あたり前だろ」(石川澄子訳/東京図書)

・「だから時間割りなのさ。毎日少しずつ割り引かれていくからな。」グリフォンが、言葉をはさみます。(立原えりか訳/小学館)

・「だから学校というんだよ。一日一日と、スクナクナル、つづめてスクール、すなわち学校さ」(中山知子訳/岩崎書店・フォア文庫)

・「一日一日と軽くなっていくから、“軽古”っていうんだよ。」(原昌訳/国土社)

・「そりゃお勉強だもの、少しずつおまけしますってわけさ」とグリフォンの説明だ。(矢川澄子訳/新潮社)

どうです? 何人もの翻訳者が腕組みをしながら「う~~~ん…」と悩んでいる姿が目に浮かびませんか? 個人的には、「おさらい」と「おまけします」が好きです。「スクナクナル、つづめてスクール」っていうのは、よくここまで考えたなあ、と感心してしまいます。

「不思議の国のアリス」の翻訳本は、現在流通しているものだけでも25種類以上あります。古くは、芥川龍之介と菊池寛による共訳の本もあるそうです。(読んでみたい!)研究本もたくさん出ていて、読めば読むほど、アリスの世界にハマります。

いつか私も、「アリス」の字幕翻訳をやってみるのが夢です。これは「野望」というほうが、正しいかもしれませんが…(^^;;)。

では、夢の実現に向けて、今日もオシゴトがんばりまーす!(^o^)