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Vol.23 悲喜こもごものエミー授賞式は、例年以上に話題がテンコ盛!

2006年8月30日
授賞式というのは、ゴージャスであり格調高いものであり……そして往々にして退屈なものである。一昨年のアカデミー授賞式で司会を務めたクリス・ロックが、「アカデミー受賞式って、変な場だよな。だって大スターたちがこんなにたくさん集まって、何するのかと思えば、ただ座っているだけなんだぜ!?」とチャカしていたが、エミー授賞式もその例に漏れず、テレビ界の大御所が一堂に会して地蔵のごとく座っているだけ。ステージに上がり家族に感謝の意を述べるスターたちも、割合からすれば2割程度だ。良い言い方をすれば贅沢、悪い言い方をすれば、なんとも不毛な会である。

とは言え、テレビ界にとっては様々なテレビショーの一大博覧会であり、スターたちの顔見せ&ファッションショーの場でもある。当然、少しでも多くの視聴者に見ていただきたい。そこで主催者サイドおよび放送局は、司会者や受賞パート以外の出し物などで話題性を振りまき、少しでも長くチャンネルを授賞式に合わせていただこうと、あの手この手を尽くすのだ。

ということで言うと、今年のエミー授賞式は概ね好評だった。式の模様を放送したのはNBCだったが、ホストを務めたコナン・オブライエン(NBCのトークショーのホスト)は及第点以上の賛辞を頂き、彼のファンであるわたしとしては、ホッと胸をなでおろしたところである。

にも関わらず今年のエミー賞、授賞式の内容とは少々関係ないところで、かなりの物議をかもしている。

まず、時期がいつもより1月ほど早い点。NBCのスケジュールが大きく影響したとされているが、8月は世間的にはサマーバケーションで、一般的にテレビの数字があまり稼げないとされている時期。そのことが影響したか、話題性も視聴者数も、例年より低調にならざるを得なかったようだ。また、乾坤一擲の勝負衣装に身を包んだスターたちは、レッドカーペットで「暑い」を連発していた。なんと、この日の現地の気温は、38度。女優さんたちは、メイクが崩れはしないか気が気ではなかったはずだ。

【エミー賞vs ABCの抗争勃発!? 裏番組に人気映画をぶつけた、その真意は…?】
そして最大の懸案事項は、ノミネートの顔ぶれ。何しろ、昨年のコメディ部門受賞作『デスパレートな妻たち』と、ドラマ部門受賞作の『Lost』がいずれもノミネートされなかったのだから、問題視されるのも当然といえば当然だ。このノミネートの劇的変化は、実は選考法の変更がモロに影響している。昨年までは一般メンバーたちの投票によって決まっていたのだが、今年からは一部選考委員たちの会議によって選出されるようになったのだ。かてて加えて、『デスパレートな妻たち』『Lost』の両作品がABCのドラマであり、彼らが公に「今回の選考には納得できない」と発言したことも、今回の論争に油を注いだ。実際問題今回のエミーでは、放送開始直後にキャンセルされた作品や、わずか14秒のみ出演した俳優がゲスト部門でノミネートされていたりと、ABCでなくとも思わず首をひねりたくなる面子だったのだ。

そんな訳で、どうにもこうにも腹の虫が治まらないABCは、ちょっぴり地味な嫌がらせを実行した。先述したとおり今回のエミー授賞式はNBCが放映したが、その裏でABCは、人気映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』を流したのだ。現在続編が上映中とあり、劇場で映画を観る前に前作をおさらいしておきたい映画ファンも多かったのだろう。『パイレーツ・オブ・カリビアン』は、映画のテレビ放映としては異例の1000万人以上の視聴者数をたたき出したのだから、エミー賞に対する“当てつけ”としての役目は、十分に果たしたと言えるだろう。

また先ほど、「コナン・オブライエンのホストは大好評だった」と書いたが、彼のシニカルな体質は、この“『Lost』ロスト問題”すらしっかりジョークにしていた。エミー授賞式のオープニングで、コナンは複数の人気ドラマ主演者たちと競演するパロディ寸劇を上映したのだが、その寸劇は、飛行機が墜落し無人島にコナンが流れ着くという『Lost』のパロディで幕を開ける。無人島で『Lost』の出演者に出会ったコナンは、彼に向かい「おい、一緒にここを脱出してエミー授賞式に行こう! 俺は司会をつとめなきゃならないんだ!」と促す。だが、相手は「でも、俺は今回招待されてないんだ」と力なくつぶやく。「えっ、『Lost』は昨年の受賞作じゃないか!? いったいぜんたい、何が起こったって言うんだ!!」とコナンが返すというのが一連のやりとりなのだが、一歩間違えばエミー賞そのものから糾弾されかねない自虐的ジョークを決行したコナンの勇気は、選考過程に疑問符を抱いていた視聴者や評論家たちから高く評価されたのだった。

ところが皮肉なことに、この好評の『Lost』パロディは、全く思いもかけない方面から非難される危険性をはらむことになってしまった。というのも、エミー授賞式が行われたその日、ケンタッキー州で飛行機が墜落し、49人の乗客が命を落としていたからだ。授賞式の中継が終了した直後、NBCは素早く「オープニングパートは事前に撮影されていたもので、どうしようもなかった。もしこの映像が関係者の方たちに不快な思いをさせたとしたら、深くお詫びします」と、“先制平謝り”。この迅速な対応が奏功したか、あるいは放送サイドの杞憂にすぎなかったのか、実際には抗議はほとんどなかったらしいが、それにしてもタイミングが悪かったことだけは確かである。

【今回のキーワードは「タイミング」。タイミングに泣いた人、笑った人】
「タイミング」ということで言うならば、ベストドラマ作品賞と主演男優賞の両部門を取り、今年のエミーを総なめにした『24』は、ここに来てようやく正当な評価を得たと言えるだろう。

何しろ『24』は、これ以上ないほどのバッド・タイミングで始まったドラマだった。記念すべき第一回が放送されたのが、2001年11月。世界を震撼させた、かの“9.11テロ”の直後である。アメリカ全土がテロの驚異に慄いていた時期に始まった「テロリストがアメリカを狙う」というプロットのドラマは、一部から「不謹慎だ」「無神経すぎる」と非難の矛先を向けられたものである。開始直後、わずか10話が放送された時点でゴールデングローブにノミネートされ、いきなりキーファ・サザーランドが主演男優賞を受賞したことで人気に火がついたが、それがなければ、このドラマ史に残る意匠作は13話でキャンセルされていたかもしれないのだ。エミー賞では、これまで毎年のように多くの部門でノミネートされてきたにも関わらず、音楽部門や編集部門など、やや地味な部門の受賞に留まっていた。キーファ・サザーランドにいたっては、なんと過去に9回もノミネートされた末に、今回ようやく手にした栄冠である。タイミングの悪さにもめげずシーズンを重ねるごとに視聴者を増やし、来年早々にはシーズン6を迎える人気作の受賞に、もはやケチをつける人は誰もいないだろう。 

とまあズラズラと長く書いてきてしまったが、こうしてみて見ると、今回のエミーのキーワードは「タイミング」だったように思う。最後に、タイミングがらみでちょっと良い話を。

コメディ作品部門の発表で『The Office』の名が読み上げられた際、ホストのコナンは大きなガッツポーズを見せた。わたしはこれを、NBC向けの“ポーズ”だと思ったのだが、実は同作品のライターであるグレッグ・ダニエルとコナンは、大学時代のルームメートだったというのだ!! 受賞の挨拶の際にグレッグは、「僕らがルームメートだったとき、いつの日かコナンがエミーのホストをし、僕が受賞し、そしてバージニティを失うんだ(笑)と誓い合ったんだけれど、その夢が本当になった!」と、甘酸っぱい青春の1ページを明かしてくれた。これ以上ないくらいに、グッド・タイミングでの受賞である。